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52話 目的

 部屋の中にはシノの他に5つの分家のそれぞれの当主が座っていた。


「カリン、何故お前がここにいる!?」


 俺の横に居るカリンに激高している武人はイシュタル家の当主、ゼツ・イシュタルである。


「任務が終わりましたので、報告をしようとしておりましたらばったりとクロノと会いまして一緒に来た次第です、父上」


 カリンは動じずに淡々と話す。


 カリンがここに付いてきてくれた本当の理由は恐らく強硬手段に取られた時に俺を守ろうとしてのことだろう。まだカリンは俺の実力をあまり深く知らないからな。


「ゼツ、その話はあとでいい」


「すみません。つい」


 ギロリと大きな目がカリンを睨みつける。カリンの家は父親も母親も厳しいらしく、小さいときはいつもエルザード家に逃げ込んでいた。


 その様子を目の当たりにし、確かに逃げたくなるわなとは思う。


「クロノ、立たせていて済まないな。そこに座れ」


 そう言ってシノは一つだけポツンと置いてある座布団を指差す。


「カリンの分が無いようですが?」


 俺が勧められた座布団に座らずに立ったままそう告げると、シノはハアと大げさにため息を吐く。


 カリンは小声でちょっと、と言ってくる。


「……持ってきてくれ」


「ハッ」


 俺達を案内した二人の男の内の一人が下がり、しばらく待つと、置いてある座布団の横に同じく座布団を並べる。


「これでいいか?」


「はい、ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 そうして俺とカリンはそれぞれ座布団に座る。


「それで、今日来たのはこの家に戻りたくなった、というわけではなさそうだな」


 大方予想してはいたが、既に俺がここに来た理由を把握していそうだな。


 俺はなるべく冷静に淡々と告げる。


「先日、私のご主人様であるリーンフィリア公女殿下が何者かによって攫われました」


 俺は少しも世間話をすることなく、単刀直入に切り込む。事情を知らないカリンは横で驚いている。


「それは不運だったな」


 眉をピクリとも動かすことなくそう答える。


「仰ることはそれだけですか?」


「それはどういう意味だ!? まさか我々が関与しているとでも言うのか!? この無能が!?」


 アイザック家の当主カイヴァン・アイザックが立ち上がり怒鳴りつけてくる。


 今から養子として迎え入れようとしている側がそんな発言をしてどうするんだ?


 恐らく、最後まで反対していたのだろうが、少なくともこの場でのその発言の頭の悪さに驚く。息子と同じだな。


「カイヴァン、少し黙れ」


「……すみません。お館様」


 キッとこちらを睨みつけながら座る。


「しかし、クロノ。その言い方だとカイヴァンがあのように思ってしまうのも無理はない。少しは言葉を選ぶがよい」


「言葉を選んだうえでそう言ったのです……分かりにくくてすみません。はっきりと申し上げます」


 俺はしっかりとシノの顔を見据える。


「シノ・エルザード。お前がリア様を攫うように指示したんだよな?」


 元父親に対して発した言葉で初めての敬語を取っ払った言葉。その言葉は周りに座っている重鎮たちの怒りを買う。


「貴様! 無能の分際でお館様を呼び捨てにし、あまつさえそのような物言いをするとは何様のつもりだ!?」


「カリン! その無礼者から今すぐに離れろ! さもないと破門にするぞ!」


 今度はシノも罵詈雑言を言い放つ重鎮たちを止める言葉を発さない。


 その代わりにこちらをじっと感情の無い顔で見つめている。何を考えているかはわからないが、どうせろくな事でも無いだろう。


 横であたふたしているカリンには悪いとは思っている。


「……何か証拠はあるのか?」


「リア様がダーズの姿を見た。それだけだ」


「そんなものは証拠でもなんでもないではないか!」


「少し黙っていろ、カイヴァン。今度言わせたらどうなるか分かっているな? 今、私は少し気が立っている」


「す、すみません」


「クロノ、カイヴァンも言っていたようにそれは証拠にはならない。お前はそんなことも分からないほど、愚か者なのか?」


「ああ、そうだな。それが証拠にならないと思ったから俺が一人で来たんだ」


「何が目的だ?」


「簡単な話だ。俺はこれ以上、世話になっている公爵様方に迷惑をおかけしたくない。だから、お前らの存在が邪魔なんだよ」


 すうっと息を吸って告げる。


「俺は今日、お前達に、俺の忌まわしい過去に終止符を打ちにきた」

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