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51話 対面

 俺はエルザード領内を黒い仮面を着けながら歩いている。いくらなんでもこの閉鎖された空間では本家と分家、それと領内にしては少数の領民のみが住んでいるため、ほぼ全員が俺のことを知っているわけで、追放された俺が居ることで一々大騒ぎされても困るからだ。


 エルザード領というのは学園などもあるが、そこまで広いわけではないため少し歩けばすぐにエルザード家の屋敷に着くはず。


 ゆっくりと歩を進めていく。その足取りはどこか重い。


 その時、後ろからトンと肩を押される感触があった。


「クロノ、またその変な仮面を着けているの?」


「ビックリした。カリンか」


 後ろを振り向くと、そこには前の様な教師の姿とは違う戦闘服姿のカリンが居た。


 どうやら俺の仮面姿はカリンには見破られてしまうらしい。


「あれ?任務はどうしたんだ?」


「あんなのすぐに終わったわよ。Aランクの魔物の討伐だもの」


「魔物の討伐?」


「そう、おかしいわよね。普通、任務って言ったら魔神族か他の重要な組織が絡んでくるはずなのに」


「だよな」


 魔物の討伐ならば別に専門家である冒険者に任せればいいものをわざわざカリンが行く必要が無い。明らかにカリンを遠ざけようとしていたのが分かる。


「それにしても帰ってくるのが早いな。昨日か一昨日に連絡した時には向かってる途中だっただろ?」


「クロノからの連絡で何かあるのかなと思ったからすごく急いだんだよ。最初は馬車で向かってたんだけど途中から走りに変えてね」


 それで一瞬でAランクの魔物を滅してこちらに戻ってきたと。怪物だな。


「それで戻ってきてみたらクロノがエルザード領内に居たんだよ。私の勘、当たってるでしょ?」


「ああ、当たってるよ。今から俺は戦場に向かう」


 いつの間にか着いたエルザード家の屋敷を見上げながら仮面を外す。


 懐かしいという気持ちは無い。


「あっ、そうだ。せっかくだし先にエマおばさんのお墓参りでもする?」


「良いのか?」


「良いでしょ」


 そう言ってカリンが手を引いていくのはエルザード家の近くにある墓場。そこにはエルザード家の者が亡くなった時に入る大きな墓標があった。


 カリンの言うエマおばさんというのは俺の実の母親のことだ。昔、俺とカリンが厳しい訓練の中で暇な時間を見つけて遊んでいた時によくお菓子なんかを持ってきてくれた。


 俺もカリンも大好きな人だ。


 しかし、そう言えば花を持っていないな。


「カリン、花はあるか?」


「うん、あるよ。私も今日任務から帰ったらここに来ようと思ってたから。クロノにも少しあげるね」


 そう言ってどこからか少し小ぶりな花束を取り出す。恐らく肩から下げているカバンの中からだろうが。


「ありがとう」


 俺は花を受け取ると、そっとお墓の前にある花瓶に挿し、目を閉じる。


 久しぶり、母さん。母さん、俺今まで色々あったんだ。本当に色々大変なことがあった。でもね、素敵な人に出会えたんだ。だからここには当分来られないかもしれないけど安心してね。俺は元気でやってるから。


 なるべく簡潔に母への報告を済ませると、フッと目を開ける。横ではまだカリンが目を閉じているままであった。


 そして少ししてからカリンが目を開ける。


「うん、それじゃ行こっか」


「ああ」


 そうしてまた、エルザード家の前まで戻ると、屋敷の前に居る二人の男が話しかけてくる。


「クロノ様、どうぞ中へ。お館様がお待ちしております」


 どこから嗅ぎ付けたのだろうか。既に俺が来ることは知っているようだ。


「ああ」


 俺はその男たちの後を付いていく。


 あの時のことを思い出す。能力強度が『0』だと言われ追放されたあの時を。


 屋敷のど真ん中の大きな部屋。そこの扉を二人の男ががらりと開ける。


 俺とカリンはその部屋の中に入る。


「選考試合ぶりだな、クロノ」


「そうですね。元父上」


 そこには相も変わらずニコリともしないシノの姿があった。

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