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50話 久しぶりの実家

「……それはつまり君が単身でエルザード家に行くということかね?」


「はい」


「それは駄目よ。だって、狙われてるのはクロノだもの」


 リア様が俺の身を案じて反論なさる。


「しかし、このままですとまた私のせいでアークライト家にご迷惑をおかけするかもしれません。それに私一人でないとあの閉鎖的な家のことです。入れてもらえないかもしれません」


 エルザード家は地位としては公爵家と同等だが、勇者としての功績もあり下手をすればこの国で国王よりも権力を持っている。


 そんな家に公爵家が本格的に標的にされれば、まちがいなく良からぬことになるだろう。


 しかも、俺のせいでとなれば俺は一生後悔することになる。


 そんなことにならないように先に決着をつけるのだ。


「決着をつけると豪語するということはそれなりに決別することができるという自信があるのだな?」


「はい。少なくともアークライト家の皆様にご迷惑はおかけしません」


「……では行ってこい」


「父上!?」


 公爵様があっさりと承諾したことにリア様が声を荒らげさせる。


「クロノ一人にそんな危険なことはさせられないわよ!」


「大丈夫ですよ、リア様」


 俺の身を案じてくれるまだ若きご主人様の手を握りながら言う。


「何があっても絶対にあなたの下へ帰ってきます。私はあなたの付き人ですからね」


 そうして安心させるようにニコリとリア様に微笑みかけた。



 ♢



 ゴトンゴトン、と馬車が岩を踏むたびに揺れ動く。


 ここら辺は少し石ころが多いからな。


「クロノ、もう少ししたらエルザード領に着きます。エルザード領に入る手前で止められますので、そろそろ降ろすことになりますが、よろしいですか?」


「はい、それで大丈夫です」


 山に囲まれた辺境の里、一般的には「勇者の里」と呼ばれるところは来る者を拒む傾向にある。もちろん、おかかえの商人などは通すのだろうが。


 そうして少しして、背の高い山が見えてきたところで馬車が減速する。


「じゃあ、ここで降ろしますね」


「はい、ありがとうございます!」


「あ、それとコミュニティカードを登録しておきましょうか。近くの町で休んでおきますので無事に終わったら連絡してきてください。無事じゃなかったら頑張ってください」


「最後のはいらないんですよ。必ず無事に帰ってきますので」


 俺は冗談を言うバードさんとカード番号を交換する。ここで緊張をほぐしてくれようとしてくれたのだろうな。


「では、ご武運を祈りますよ、クロノ」


「はい、送ってくれてありがとうございました、バードさん」


 そうしてバードさんは馬を走らせてきた道を戻っていく。


「久しぶりだな」


 あの時は無我夢中で切り抜けた山が目の前にある。エルザード家はこの山を越えた先にある。


 ゆっくりとトラウマへの第一歩を踏みしめる。


「待っておけよ、今から行くからな」


 少し先にあるであろう元実家の方向を見て俺はゆっくりと歩を進めるのであった。



 ♢



 ~エルザード領、エルザード家の屋敷にて~


「お館様。今しがた我が息子から連絡がございました。どうやらお館様のご子息であるクロノ様が到着されたようです」


 ギーズ・クラウンがどこからか姿を現して、シノ・エルザードの前にひざまずく。


「まんまと来よったか」


 シノはクロノがリーンフィリアの付き人ができなくなったためにこちらに戻ってきたのだとそう思っていた。しかし、ギーズの顔は浮かない。


「いえ、当初思っていた通りにはなっていないようです。どうやら公女殿下とあの無能、失礼、クロノ様がコミュニティカードのペアリングをしていたようで、あっさりと見つけられてしまいまして」


「ペアリングだと? あんなものを貴族がするわけがないのだが。余程公女殿下はクロノのことを気に入っているのだな」


 ふむ、とシノは首をかしげる。


「まあ、こちらに戻ってくる理由が何にせよ強硬手段に出ればよい。例えば、アークライト家を潰すぞと脅したりな」


 普段、無表情のシノの顔が悪い笑みを浮かべる。その笑みに側近たちまでもが苦笑いをするしかない。実際、メルディン王とも他の国の王とも仲の良いシノが公爵家を潰すなど簡単なこと。


 普通の人ならば冗談と流せることもこの男が発すれば現実に起こりうるのだ。


「クロノ、何を企んでるかは知らんが、愚策だったな」


 まだ姿が見えない自分の息子に対してそうつぶやいた。

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