49話 勇者の子
「今まで黙っていて申し訳ありません。私は実は勇者の息子なのです」
「え!?」
「あら」
「ほう」
公爵様、奥様、そしてリア様が俺の告白に対する返事は三者三様である。しかし、全員に共通しているのは俺の告白に驚いているということ。
「なるほど、合点がいった。それで思いのほか教養を身に着けていたのだな?」
「はい。あちらで既に教わっておりましたので」
「しかし、そんなに大事なことを何故もっと早く言わなかったのだ? そうと知っていればすぐに辺境伯の下へ送れたのに」
「それがそうもいかないのです」
俺は重い口を開く。遂に言うのだ。自分がエルザード家から追放された存在であるということを。追放された理由を話せばもしかしたら軽蔑されるかもしれない。しかし、言わなければ話が進まないのだ。
「なぜだ?」
「私がエルザード家を追放された身だからです」
「追放とな……」
その言葉の重さに周りの雰囲気が暗く沈む。
「して、いつ頃追放されたのだ?」
「4年前、私が11歳の頃です」
「そんな幼いころに、なんてひどい」
「同じ人の親とは思えませんね」
俺がそう言うと、リア様も奥様も俺の境遇を哀れんでくれる。
「気にしないでください。結果的に追放されたおかげでこのような素晴らしい皆様と巡り会うことができたのですから。追放されていなければ今頃、外の世界から遮断されたあの息苦しいところに閉じ込められていたでしょうから」
別に追放されたことを喜んでいるわけではない。しかし、結果的に追放されていなければアークライト家に拾われることは無かっただろうし、リア様と出会うことも無かった。
それを考えれば、追放されて良かったなと思えるのだ。
「……追放された理由は敢えて聞かん。そもそもそんなに幼い子を家から追い出す時点でクロノ君が悪いわけではないことが明白だからな」
「ありがとうございます」
別に理由に関しては言ってもいいんだが、公爵様なりに思い出させたくないと思って配慮してくださったのだろう。
「辛かったでしょう。良かったわ、こんなに立派に育ってくれて」
奥様が俺のために涙を流して抱いてくれる。まるで本当の親子のように。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
抱かれた安心感からか、俺はポロリと涙を零す。自分では吹っ切れたものだと思っていてもこうして自分の事を思って泣いてくれる人達を見ればこうも感情は揺れるのか。
改めて心の底から公爵様、リア様、奥様、そして使用人の先輩方に感謝する。
しかし、まだ俺には伝えなければならないことがある。
こぼれた涙をぬぐい去り、公爵様に向き直る。
「公爵様。私が何故このようなことを打ち明けたのか、その理由を話したいと思います」
「聞く限りでは嫌な予感がしてならないのだが、聞こうか」
俺がこの話をした時点で薄々感づいていらっしゃるようだ。
「実は選考試合にて私の元父親であるシノ・エルザードが来訪しました。その際に誘われたのです。我が領地に帰らないかと」
「なんて勝手な!」
俺の言葉にリア様が激高なさる。
「そしてこうも言われたのです。いずれ私がエルザード家に帰りたくなると」
「なるほど、つまりクロノ君はエルザード家が君を連れ戻すべく今回のリア誘拐にかかわっているかもしれないと言いたいのか?」
「その通りです」
「何か証拠はあるのかね?」
自分の娘が単なる手段のためだけに危険な目を合わされたかもしれないと聞き、公爵様の目が怒りに変わる。
「それが、まだ決定的な証拠という物はないのです。ただ、私は確実にエルザード家が関与していると思っております。なぜなら、リア様が見た男と私の知っている男の特徴が一致したからです」
竜印の世代で上から3番目の順位である、ダース・クラウン。この男の家はエルザード家の分家の中で代々諜報員をしており、いつも顔に布を巻いているのだ。
それだけではまだそいつかはわからないが、リア様が目撃している、地面に沈んで姿を消すという能力は間違いなくこいつの能力だ。
そんな能力を持っており、学園のセキュリティを掻い潜れる奴などあいつしかいない。
「だが」
「それでもエルザード家を追及する材料にはならないのは分かっております。なので、お願いがあります」
「うむ、聞こう」
俺はきっちりと公爵様の目を見つめて願い出る。
「少しの間、リア様の下から離れるのをお許しください。私がエルザード家に決着をつけてきます」