42話 ガウシアとの戦い
ステージの上にはガウシアと俺が向かい合って立っている。
「それでは準決勝! ガウシア・ド・ゼルン対クロノの試合を始める! それでは、はじめ!」
審判の合図とともに俺もガウシアも同時に動き出す。
「ハアッ!」
地面から太い木が大量に生え、それの一本にガウシアが乗る。
そして俺を覆うようにして木の波が襲い掛かってくる。
「木牢」
太い木は大きなドームを作り出し、俺を閉じ込める。
俺はそのまま木でできた壁に向かって走ろうとすると、足が動かない。
下を見れば俺の足に細く強靭な木の蔦が纏わりついていた。
「その中は私が思い通りにできる空間です。逃がしはしませんよ?」
「そうみたいだな」
壁や床、天井から俺を縛らんとして強靭な木が襲い掛かってくる。
そしてまさに俺を捕らえようとした瞬間に破壊者の力を発動する。
「ブレイク」
俺に向かって伸びていたはずの木々はいつの間にか伸びるのをやめ、その代わりに先の方から段々と朽ち果てていく。
そうして俺はそれにとどまることなく、俺を囲っている木に向かって破壊者の能力を使う。
ドカンッ!!!!
凄まじい音と共に木でできたドームは一瞬のうちに大破される。
「う、嘘でしょ……私の作り出す木の中で一番堅いはずなのに」
まさか完全に破壊されるとは思っていなかったのだろう。
ガウシアは破壊された木の牢を見て目を見開く。
俺はというと、木の牢を破壊したまま、その場に立っている。
「驚いた。こんなこともできるんだな」
俺は少し感心していた。少し前のガウシアならこんなことはできなかっただろう。
「まだです!」
周囲から地面を押しのけて大木が生えてくる。
しかし、普通の大木とは違うのはその柔軟性。
大きなしなりを見せて、全てが俺に叩き込まれてくる。
「ブレイク」
俺はその場から一歩も動かずに手を前に突き出し、破壊の力を使うと、迫りくる大木は一本残らず破壊された。
しかし、それだけではなかった。
「うおっ!?」
なんと大木が叩き込まれると同時に俺の足元が盛り上がり、新たな大木が姿を現して俺の体をその大きな幹に縛り付ける。
全然気が付かなかったな。
俺が破壊者の力で拘束を解こうとした僅かな瞬間、破壊された大木の破片が飛び交う中、こちらへ飛び込んでくるガウシアの姿が見えた。
「はあああッ!!!!」
その長い脚から繰り出される蹴りが身動きの取れない俺に繰り出されようとする。
しかし、あと一歩ほんの少しのところで俺の破壊が間に合い、両腕をクロスしてガウシアの蹴りを受け止める。
「これも届きませんか」
「良い攻撃ではあったがな」
ガウシアは俺に蹴りを止められると、サッと後ろに下がり俺から距離を取る。
「では、最後の手段を使うしかありませんね」
「まだ何か残っているのか?」
ガウシアはそっと胸に手を当てて祈るようなポーズをとる。
「神聖樹」
パアッと白く光り輝く巨木が地面から生えだす。
楽園の樹、その表現がしっくりくるであろう雄大な白い木がガウシアを囲うように生えだす。
「これが私に今出せる最高火力の攻撃です」
白く光り輝く巨木からあふれ出た小さな光の粒子がガウシアの祈る手の付近に集まっていく。
「精霊の怒り」
一閃。
ガウシアの下に集まった凝縮された神聖な光が一筋の極光となって放たれる。
文字通り最終手段と言える大技だ。
俺は構わずに神聖な光へと破壊の波動を纏った体を突っ込ませていく。
光と俺の体が衝突した瞬間に、余りの衝撃に床がめくり上げられ、大規模な土煙が巻き上がる。
そして、煙が晴れた後、現したのはガウシアの目の前に拳を突き付けている俺の姿であった。
「まさか、精霊の怒りだけでなく神聖樹の加護までも突破されるとは思っておりませんでした」
ガウシアはそう言うと、ヘタリと床に座り込む。
「私はこれ以上動けません。私の負けです」
その瞬間、審判の試合終了の宣言が為され、観客が沸き立つ。
「良い勝負だったよ」
俺は座り込むガウシアに手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
そして、疲労でまともに歩けない彼女に肩を貸しながら戻っていくのであった。