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41話 忘れられない過去

「上出来であった」


 ブラウニー先輩との戦いを終え、廊下を歩いていると後ろからそんな声が聞こえる。


「どちらさまでしょうか?」


 声で大体の想像はついているため、俺は敢えて後ろを振り向かずにその人物に問いかける。


「まさか、実の父親の声を忘れたわけではあるまいな?」


 話しかけてきた人物、それは先程まで特等席に座っていたはずのシノ・エルザードであった。


「申し訳ありません。私には父親が居ませんので、人違いかと思います」


 何故、話しかけてくるのか?何故、何の謝罪もせずに普通に話しかけられるのか?


 俺はそういった疑問と共に激しい嫌悪感に襲われる。できることならばこのまま控室まで走り去りたいが、この男が控室に付いてくれば、俺は勇者の子だと分かってしまう。


 それだけは避けたい。


「……あのことを怒っているのか? しかし、もう4年も前の話ではないか。それに貴様も強くなった。ならば次はまた同じことにならない。そうだろう?」


 一瞬、俺はこいつは何を言っているんだ?と耳を疑う。


「黙るということは了承したということで良いんだな? なら早速この学園を辞めて我が領地に来るんだ」


 何故、そういう話になる。俺は体全身に虫唾が走る。


「……今更何様のつもりだ?」


 俺はこんなやつに敬語を使う価値は無いと判断し、威圧しながら問う。


 追放しておいて今更戻ってこいなんて話が旨すぎやしないか?と。


「何がだ? こうしてお前を迎え入れてやると言っているのだからお前からしても光栄な話だろう?」


 ダメだ。話にならない。


 俺は顔を合わせるのすら嫌ではあったが、きっぱりと断るために後ろを振り向く。


 相変わらず表情を浮かべない、感情の分からないやつだ。


「はっきり言おう。俺は今、リーンフィリア公女殿下の下に仕えている。今更、戻ってこいと言われてももう遅いんだよ」


 俺の言葉に目の前の男は厳しそうに目を細める。


「それはつまり、我が領地に戻ることを拒むということか?」


 有り得ないとでもいうような言い方ではあるが、寧ろこちらの方が有り得ない。


 あれから俺がどれだけ苦労したか分からないこの男にはそんなことも判断がつかないのだろうか?


「そうだ」


 俺はシノの目をじっと見据えてはっきりとそう答える。


「……そうか。今のお前の意思は分かった」


 くるりと踵を返すと、シノは歩いていく。


「だが、後で分かる。お前は必ず私の下に戻りたくなるとな」


 不気味な言葉を残してシノは去っていく。


 今の台詞はまだ諦めていないということか?もう、会いたくないんだが。


 俺は高まる嫌悪感を抑えて、控室に戻るのであった。



 ♢



 次はようやく準決勝。俺はシノと出会った際の嫌な思いを押し殺して次の試合に集中する。


 なぜなら俺の対戦相手はガウシアだからだ。


「クロノさん、お手柔らかにお願いしますね?」


「こちらこそ」


 俺とガウシアは二人で待機所まで向かっていく。


 実は準々決勝まで残ったのは俺とガウシアの他に、リア様、クリス、グラン副会長、セシル会長、ジオン、あともう一人は3年生らしい。


 まさかの準々決勝まで1年生が8人中5人を占めるという結果になるとは思わなかった。


 そして、更に準決勝に進んだのはこの中の四人。リア様、俺、ガウシア、そしてクリスであった。

 

 クリスはジオンに勝ち、ガウシアはグラン副会長に勝ち、リア様はセシル会長に勝ち、俺が残りの3年生に勝った。


 準決勝まで残ったのがまさかの全員が1年生。これには学園中が驚きだろう。

 

 皆、カリンとの実習で相当力を伸ばしたようだ。


 少なくとも、あれが無ければこんなに残ることは無かっただろう。


「もう少しで試合ですね。何だかドキドキしてきました」


「俺もだ」


 何気にガウシアと戦うのはこれが初めてなので、緊張する。


 ガウシアの能力『大樹』。


 これは能力の中でも特別な能力だ。なんせ、ゼルン王国直系の血筋で引き継がれていく能力だからだ。


 かの魔神族との戦いで活躍したゼルン王国の女王の能力も『大樹』である。


 長きにわたって培われてきたその強力な能力、俺も勝てるかどうか分からない。


 試合のアナウンスが鳴る。


「……呼ばれましたね、では行きましょうか。クロノさん」


「ああ」


 そうして俺達はステージへと向かうのであった。

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