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39話 意外な来訪者

 選考試合も次々と進んでいき、そろそろ中盤に差し掛かってきた時、クリス殿下が試合のために待機所へと向かったのと同じタイミングで突如として観客席が沸き立つ。


 なんだろうと思い、モニターを見ると、そこにはでかでかと二人の人物が写し出されていた。


 一人はこの国、メルディン王国の国王。そして、もう一人。その男は俺がよく知っている人物であった。


「シノ・エルザード……」


 画面を見て俺はその男の名前を零す。


 エルザード家の当主であり、俺を追放した実の父親でもある男だ。


「クロノ、顔怖いわよ?」


「そ、そうですか? 自分ではそのつもりはないのですが」


 リア様に指摘されて初めて気が付く。自分がまだあの男に恨みを持っていることに。


 すっかり忘れたつもりだったんだがな。


 しかし、追放された後のあの苦しみを考えれば忘れろという方が無理なのかもしれない。


「……何をしに来たんだ」



 ♢



「本日は私達の選考試合にわざわざお越しいただき、誠にありがとうございます、国王陛下、エルザード辺境伯様」


 メルディン王立学園の学長、レイディ・メルトキルは特等席に座っている二人の偉大な存在に頭を下げる。


「そんなに畏まらなくても良い。今回、無理を言ったのは私の方だからな。息子の初の試合を見れなくて残念ではあるが」


「申し訳ありません、陛下。何分、私が辺境の地に住んでおりますせいでお待たせしてしまいまして。本来ならば1回戦目からご覧いただけたものを」


「何を言う。私は君が来てくれただけで本当に嬉しいのだよ。忙しいところ誘ったこちらが申し訳ないくらいだ」


「いえ、私も一人興味がある御仁がいらっしゃいますので」


「ほう、それは誰のことだ?」


 シノが、当代の勇者が気になる人ということで国王は興味深そうに身を乗り出す。


「ゼオグラード家の次男のジオン・ゼオグラード殿です」


「公爵家のあの子か。確かクリスとも仲が良いな。だが、容姿は良いが、腕の方は長男に劣ると聞いたぞ?」


 思いがけない答えに国王は首を傾げる。


「いえね、カリンが手合わせをしたときに実力を隠していると申していたのでそれが気になりまして」


 カリンはあの後、どんな生徒が居たのかとシノに聞かれたため、クロノのことを隠しながらある程度の情報を教えていたのだ。


 シノはシノで後継者が中々生まれないという焦りが生じており、誰かを養子として引き抜けないかと思っていたのだ。


 しかし、学園のSクラスには貴族の子女しかいないらしく、流石に養子にするのはダメだろうという結論に至ったのだが、一人、話の中で気になる男が居た。ジオン・ゼオグラードである。


 その時に丁度、国王から見に来ないかと誘われたため、承諾したのであった。


「ほう、それが今回見られるかもしれないということか」


「分かりませんがね。彼が本気を出さざるを得ない状況になるかもわかりませんし」


 国王はこの男がこれほどまで興味を持つのは珍しいと思った。


 シノは辺境に閉じこもっているためか、あまり何かに興味を示すことが無いのだ。


「おっ、クリスが出てきたか」


 会場のど真ん中に端正な顔のクリス王子が立っている。


「相手は強いのか? レイディ」


「はい、あの子はこの学園の体育委員長を務めておりますエリク・アルトマンという者です。身体能力を向上するタイプの能力者です」


「ふむ、それは見ものだな」


 試合開始の合図が出される。


 最初に動き出したのはエリクである。身体強化を纏うと、凄まじい速さでクリスに詰め寄っていく。


 しかし、クリスの方に動きは無い。


 まるで何かを待っているかのように。


 そうしてエリクの拳がクリスに叩き込まれるその瞬間、エリクは何かに躓いたかのように体のバランスを崩す。


 クリスはその隙を突いてエリクの腹に拳を叩き込むと、エリクはそのまま倒れる。


 審判が確認し、クリスの勝利が高らかに宣言される。


「い、今のは?」


「クリスの能力『封印』の力だ。能力差があると、ああいうこともできるらしい」


「流石は史上最強の王子殿下ですね……私達が居なければ王国で最強と言われるわけです」


「ああ。自分の息子ながらその才能に嫉妬してしまうよ」


 国王が満足そうにうなずく。


 次に出てきたのは、冴えない黒髪の少年と茶髪の青年であった。


 そしてシノはその黒髪の少年の姿を見た瞬間、驚きで目を見開く。


「何故、あ奴がここに居る」


 忌々しそうにそう吐き捨てた。

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