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35話 あの時、カリンは②

「お前の所の娘は優秀だったそうではないか」


「いえいえ、滅相もございません。まだまだでございます」


「何がまだまだだ。結果は150万9096で31位だぞ? 既に私やお前よりも能力強度が高い。十分化け物だ」


 なんだ、私の話をしているだけか。


 外れだなと思い、聞き耳を立てるのを止めようとした私の耳に次の言葉が飛び込んでくる。


「それにしても、クロノには本当にガッカリだ。お前の所の娘と交換してほしいほどだ」


 やっぱり、当たりだ。というか辺境伯様のこの口振り、クロノの測定結果が悪かったのだろうか? そんなはずは無いと思うけど。


「あ、ああ。確かにあの結果は私でも驚きましたね。なんせ能力強度が『0』なんですから」


「全くだ。あいつは一族の恥さらしだ。後で記録からあいつの名前を削除しておかねばな」


 能力強度が「0」?


 なんだか嫌な予感がする。


「それでお館様は彼をどうするおつもりですか? まさか、このまま独房に入れっぱなしというわけではありますまい」


 独房? 確か、セレンが出てきたのも独房がある地下1階だったわね……


 まさか、あの先に?


 こうしちゃいられない。


 私はすぐさまクロノが閉じ込められているであろう独房に向かって走り出す。


 長い廊下を駆けていく。すれ違うエルザード家の人がどうしたのだろうかと見てくるが、それも気にせずに一心不乱に走る。


 私はクロノに助けてもらったんだ。今度は私がクロノを守らないと。


「おっと、何処へ行くつもりかな? カリン」


 ようやく着いた地下一階への階段の前で進行方向を塞ぐようにして私の前に青い髪を肩のぐらいまで長くした少年が立ちはだかる。


 彼は分家の内の一つであるベルトーニ家の長男、アンディ・ベルトーニだ。


「貴方には関係無いでしょう? そこを退きなさい」


「それはできない相談だな。カリン、君にはここで道を踏み外してほしくないんだよ」


 そう言うと、アンディはこちらをすっと見据える。


「今、クロノに会うのはやめておけ」


「やっぱりその先にクロノが居るのね」


 私の行き先を塞ぐアンディの顔を負けじと睨みつける。


「退かないと痛い目を見るわよ?」


 私は『勇者』の能力を解放し、威圧する。


「はあ、言うことを聞かないのは悪い所だよ? カリン」


「何がよ!」


「カリン、止めなさい」


「父上!?」


 後ろから辺境伯様と話していた筈の父上が声を掛けてくる。


「クロノは、あの弱き者はもうここの者ではない」


「クロノは弱くなんかない! だって、私を助けてくれたんだよ?」


「それは幼い頃の話だろう? それが本当かどうかも怪しい」


「でも……」


「でもではない。ほら、早く帰るぞ?あの者のことは忘れてお前は自分の特訓に集中するんだ」


「……おかしいよ」


「ん?」


「こんなのっておかしい! 私はクロノに会いたいんだ!」


 私はアンディを押しのけて地下への階段に向かう。


「やれやれ、困った子だね」


 そして、父上のその言葉と共に後頭部に鋭い衝撃を感じ、私は意識を失うのであった。


 ♢


 あれからどれほどの時間が経っただろうか……


 私は家に連れ帰られた後、今度はクロノが里から追放されるという話を聞きつけ、暴れたのだ。


 そうして遂には家の独房に叩き込まれた。


 クロノは無事だろうか? そんな不安が押し寄せる中、カツカツという小気味の良い靴の音が聞こえてくる。


「カリン、もう諦めがついたか?」


 私は最早何も答えない。かつて父上と呼んでいた男もクロノの追放に加担したことで私には敵に見えた。


「……まあ、良い。それよりもカリン、出番だ」


 その言葉と共に独房を出された私はそれから魔神族との戦いに身を置くことになった。



 ♢


 魔神が封印されてから2年が経っただろうか?私の下に一通の手紙が届いた。厳密にいえば、竜印の世代全員に届いたらしいけど。


 手紙の差出人はメルディン王立学園の教員であるギーヴァという者であった。


 最初は興味も無かったため断ろうと思っていたが、同封されていた名簿欄にある名前を見つけた私はすぐさま連絡し、臨時講師の任を受けた。


 そうして臨時講師として初めて登校した時、ああ、この人だとすぐにわかった。


 おかしな仮面は着けているけど、私にはわかる。小さい頃に一緒によく遊んだあのやさしい男の子、クロノ・エルザードの姿がそこにあった。

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[気になる点] カリンさん、自分のことを化け物扱いする親になんとも思わない。この世界では化け物は尊称
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