27話 臨時講師
休日が終わり、本日は普通の授業日である。最初の週から濃密なイベントはあったが、そろそろ学園生活にも慣れてきたこの頃。
俺はいつものようにリア様、ガウシア、ライカとともに担任のギーヴァ先生が教室に入ってくるのを待っていた。
しかし、今日はいつもより遅い。このくらいの時間ならとうに来ているはずなんだが、おかしいな。
「今日先生おそいねー」
教室の中からそんな声が聞こえてくる。
他の人も異変を感じているようだ。
その時、教室の扉がガラッと開く。
「すまん、お前ら。少しやることがあって遅れちまった」
にこにこと笑みを浮かべながら教室へと入ってくる。何か良いことでもあったのだろうか?
「それよりもお前ら、よく聞け。来週この学園に特別ゲストが来てくれるぞ」
特別ゲスト?
「先生、特別ゲストというのは?」
クリス殿下が真っ先に反応してギーヴァ先生に質問する。
「うむ、最初から説明しよう。この学園ではこのくらいの時期、まあ大体選考大会の1か月前にだな、1年生のSクラスの皆が初めての選考大会に出場するということで臨時講師というものを集っているんだ。担任である俺が強くて十分に実習ができれば何も問題は無いんだが、今年は特に強い奴が多いからな」
へえ、臨時講師か。確かにまだまだ経験が無い1年生が選考大会で先輩たちを押しのけて勝ち進むというのは難しい。前も言った通りに、能力強度が高くとも戦闘のセンスや勘、慣れといった点で負けることも大いにありうることだ。
その不平等な点をなくそうと、そういうわけだな。良いことじゃないか。
「その臨時講師ってのがいつもなら高ランクの冒険者を呼んでいるんだが、今年はSランク冒険者のライカがいるからな。誰も来てくれないんだ。そこでいっそのことライカを臨時講師にしようと思ったのだが、断られてしまってな」
ライカの方を見ると、こくりと頷く。
「手加減が難しい」
こいつは適任ではないな。前の実習の時も力を解放しまくってたし。
「そこで俺はあるところにダメもとで聞いてみたんだ。どこだと思う? ヒントは五大勢力『五つの光』のうちの一つだ」
そこまで聞いたときに俺は少し嫌な予感がするも、ガウシアがゼルン王国出身であったことを思い出し、精神を落ち着かせる。
「はい」
「良いぞ、クリス。答えてみろ」
「ガウシアさんがこのクラスに居ることを考えればゼルン王国の誰かということではないかと思います」
「残念、そうじゃない」
クリスがふむ、と思案顔になるのと同時に俺はガクリとうなだれる。
いや、しかしまだ冒険者の線が残っているはず!
次に手を挙げたのはジオン・ゼオグラード。もう一つの公爵家の跡取り息子である。
「Sランク冒険者ではないでしょうか?」
「違うな。もっとよく考えてみろ。この国の『五つの光』といえば?」
ああ、もう終わりだ。
横にいらっしゃるリア様がそろりと手を挙げる。
「もしかしてですが、あのエルザード家の方でしょうか?」
「リーンフィリア、大当たりだ! そう、今回はなんとあのエルザード家から臨時講師を出してもらえることが決定した!皆、喜べ!」
ギーヴァ先生がそう言った瞬間、クラス中が歓声の嵐に包み込まれる。
「おいおい、マジかよ」
「滅多に領地から出てこないあのエルザード家が?」
誰もが一度は考え、そしてありえないと切り捨てた選択肢である。当然の喜びだろう。
「クロノ! 楽しみね!」
リア様が太陽のように輝かしい笑顔を浮かべている。
「ええ、そうですね」
俺も努めて笑顔を作り、それに答える。しかし、内心はバクバクだ。
どうして、なんでエルザード家が?
エルザード家といえば、ほとんど領地から出てこないことで有名だ。学校もエルザード家とその分家専用の学校がある。つまり、国の有事や陛下に呼ばれない限り、滅多にエルザード領内から出てこないはずなのに……。
「せ、先生!もしかしてこられるのは『竜印の世代』の方でしょうか?」
「それが誰かはまだ分からないんだ。来てからのお楽しみということだな」
不味い不味い不味い。誰が来るかが分からないなんてどうやって心構えをすればいいんだ。
俺はその日、授業にあまり集中できずに一日を過ごしたのであった。