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268話 黒の執行者と聖女

 荒れ果てた大地の中、黒と黄金の二つの力が佇み、空に浮かぶ禍々しい力を見上げる。

 一向に弱まる気配のないその力は次から次へと尋常ならざる力を撃ち放つ。

 そしてそれらを阻止する黒と黄金の力は次第に疲弊していく。


「リア様」

「はあ、はあ、はあ……なに? クロノ」

「私のこと、信じていただけますか?」

「何言ってるの。当然よ」

「では」


 そう言うと俺はリア様の手を取る。

 

「な、なにして……」


 今までどちらが前衛、どちらが後衛と決めてから行動し失敗してきた。

 失敗した理由はただ一つ。

 一つ一つの力では魔神を打倒すのには足りないから。

 前衛が守りを崩し、後衛が守りが崩れた場所を叩くのではまだまだ足りないのである。

 最初から守りを貫通するほどの一撃を二人で繰り出さないといけない。


「私はあなたに全てを委ねます」

「……なら私も。あなたに全てを委ねます」


 互いの力が互いの方を向くことで力が合わさっていくのが感じ取れる。

 こんな現象は今まで聞いたこともない。だが俺は本能的に何故か理解していた。

 ああ、こういう事なのかと。


「さあ行きましょう。リア様」

「はい」


 互いに手を取り合い生み出された力は破壊の力でも聖女の力でもない。

 その両方を纏った、魔神に対する特効薬のような力。

 聖女の力で魔神の防御を弱体化させる必要もない。この一撃で守りさえも貫通しダメージを与える。

 今度はリア様と横並びで飛び上がり、魔神に向かい力を放つ。


「「はああああああ!!!!!」」


 合わさった力は今までよりも更に大きく、そして今までの俺のどんな力よりも優しくて穏やかな力であった。

 

「二人の人間が力を合わせたくらいで僕の力を超えることはできない」


 対する魔神は視界全てを黒い槍、憤怒の太陽など様々な力を並べる。

 それら一つ一つが国を滅ぼしかねない一撃であろうことが見て取れる。

 先程までは世界を滅ぼすための力を温存していたがそれを惜しみなく使うという事は、言葉ではああは言っていたものの俺とリア様の攻撃が恐ろしいと感じているのであろう。

 黒く塗りつぶされた力と黒と金が入り混じった二つの力が空中で衝突する。

 この衝突の結果で双方どちらかの運命が大きく決するだろう。

 だが俺に不安という感情は湧き上がってこない。

 隣を見ると同じくこちらをのぞき込んできた可愛らしいお顔を目が合う。

 そうして彼女はニコリと微笑みながら衝突音が入り混じる中、確かにこう言っていた。


 (安心して。私の騎士様)


 その直後、すべての結果が生まれいづる衝突が凄まじい衝撃音を伴って終焉を迎えるのであった。





 「カリン!」


 カリンがセレンとの対話が終わらせ、世界樹から出てきた頃、外では多くの騎士たちが待機していた。

 掲げている国旗からして大陸中の国々が決起して出来上がった連合軍であろう。

 そしてその先頭から馬で走ってくるクリスにカリンは声をかけられたのである。


「クリス! 来たんだね」

「ああ! 国の魔神族はほとんど倒せたからね。君達のお陰で」

「……そう」

「うん! さっきガウシア達から詳細は聞いた。辛かったと思うけれど、国の責任者としてこれだけは言わせてくれ」


 そう言うとクリスは馬から降りると、カリンに対して跪く。


「ちょ、なにして……」

「我が国から出た逆賊、シノ・エルザードを討伐してくれたことを心から感謝申し上げます。貴君にはメルディン王国から代表して私からお礼申し上げます」


 そう言うとにこっと微笑んでカリンと向かい合って立つ。


「分かってる。君がそんな柄じゃないのは。でも言わせてくれ。ありがとう。そしてお疲れ様」


 クリスの言葉を聞き、先程まで込みあがってきていた感情が漏れ出す。

 それを隠すように後ろを向くカリンをクリスはそれ以上深く聞くことはない。

 代わりに遠くに見える途轍もなく禍々しく、そして大陸全てを覆うかのような絶大な力を眺める。


「何だあの力は……まるで神じゃないか」

「本当に人類で打ち勝てるというのか? あの力に」

「以前よりもはるかに大きい……途方もない程だ」


 騎士たちもその力を見て絶句している。ここに集まっている戦士たちの間では絶望という暗雲が立ち込めていた。


「メルディンの若き王子よ。少し良いか?」

「はい。ヒルトン殿」


 グランミリタール帝国の女帝、ヒルトン・ドゥ・グランミリタールに呼び出されたクリスはカリンをそのままに女帝の後を追う。

 そしてそこには各国の代表者達が集まっていた。

 もちろん、全員が揃っているわけではない。戦禍の直後であるが故に動ける者は少ないのだ。


「揃ったな。では始める。我らがここに来た目的は魔神を打倒す事だ。魔神族の残党を片付けるために兵たちに動いてもらい、主戦力は魔神に一気に叩き込みたいと考えている」


 ヒルトンがアイスブレイクなどはお構いなしにすぐさま本題に入る。

 それほどに緊急の事態に差し迫っているからであろう。

 皆がそれに頷いていく中で、ただ一人だけが首を縦に振らず異を唱える。


「その必要はありません。皆様も残党を倒すことに注力してください」

「どうしてなの? ゼルン王女」

「魔神には既にあの方、黒の執行者様が向かっておられます」


 ガウシアのその言葉に揺れんばかりの歓声が沸き上がる。

 黒の執行者。

 出現する理由は判明しないが、魔神族の最大の敵である彼の存在がすでに向かっているというのだ。

 以前と同じ状況であるならばその情報だけで魔神を再度封印することが出来ると狂喜することであろう。

 しかしこの場で唯一、以前の魔神の力を、更には黒の執行者が少年であることを知っているヒルトンはその意見に異を唱える。


「今回の魔神の力は以前とはまるで別格だ。黒の執行者と言えど今回ばかりは勝てないだろう」

「大丈夫です。彼の隣には今代の聖女がいらっしゃいますから。ですよね、世界樹様」

「うむ。今地上に居る者であの者達以外で魔神とやらに対峙できるものは存在せん」


 そして唐突に話し始めるガウシアの肩に乗っかった鳥に皆、目を奪われる。

 それもそうだろう。説明もなしに世界樹と呼ぶ鳥に驚かないはずもない。


「その鳥は?」

「こちらにいらっしゃいますのは我らゼルン王国をお守りしてくださっていらっしゃる世界樹様の意思でございます」

「ふむ。なるほど、自然と対話できる貴君らならではの成しえる業なのであろう。しかし我らは未だ理解していない。聖女という存在は一体?」

「それについては僕は知っている。強大な敵が生まれた時、勇者が立ち上がる。そしてその傍にはいつも世界樹から恩恵を受けていた聖女という存在が居た。メルディン王家の伝承にも出てくる」


 そう言うとクリスは立ち上がり、皆に告げる。


「ガウシア殿の言う通り魔神に対する最大勢力は既に向こうに集結している。ここで悪戯に命を散らすよりも彼らに世界の命運を託すのが良いと思う。これはメルディン王国代表の言葉だ」


 クリスのその言葉は責任はメルディン王国が取るとでも言うかのような強力な一言でもあった。

 全世界崩壊の責任を一国が負うというのは最早命知らずである。

 だがその決断がクリスを焦らせることはない。何故ならクリスは魔神に対抗している存在がどのような者達であるのかという事を深く理解しているからである。


「……そこまで言うのならば魔神は黒の執行者と聖女に託すとしよう。だがいざとなれば私は動くわよ?」

「どうぞご自由に」


 その三者の言葉は重く、各国の重鎮たちをも口出しさせないまま会議を終えたのであった。

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