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267話 魔人の依り代

「な、何が起こったの?」


 カリンの疑問にこちらへ近づいてきたガウシアの肩に乗っている鳥の姿をした世界樹の化身が答える。


「あの人間がどうやらあの者に喰われたらしいな」

「喰われたってどういう事? 世界樹ちゃん」

「あの茨は元より外の世界の住人ゆえその力を引き出すためには生贄が必要なのだ。そしてあのシノとかいう人間はその生贄に選ばれあの茨に取り込まれたのだろう」


 冷静に説明をしている世界樹の隣でガンと大地に大槌をぶつけ、その様子を眺めたままライカが口を開く。


「仕留めたと思ったのに」

「仕留めるという表現は正しくない。あ奴はこの世界に実体として存在しているわけではないからな。あくまであれは依り代だ」

「ではどうすればあの者を倒せるのだ?」

「再起不能にするくらいには出来るであろう。それこそガウシアが我が力を用いればあ奴を永遠に封じ込むこともできよう」

「承知しました。私、頑張りますね」


 目的が決まれば話は早い。すぐさま全員が各々の役割を理解し態勢に入る。

 カリンとライカは前衛、赤王は周囲の茨を燃やし、ガウシアは後衛に回る。

 

『貴様らを贄とすればこの世界も掌握することができるだろう。さあ、見せてみよ。その力を』


 数々の茨が不気味な光を纏いながら周囲を囲む。それらを吹き飛ばすべく赤王が炎のブレスを吐くが、先程までとは違い2、3本が焼け落ちるだけで全体にあまり影響を与えない。


「皆! 強度が跳ね上がっておる! 気を付けろ!」

「大丈夫。私の力は無限に上がるから」


 カリンが剣を構える。静かに瞳を閉じ、相手の呼吸を感じる。

 今対峙しているのはセレンの体を依り代にしている。したがって死角からの攻撃をする必要はない。

 あるのは真正面からの全力の攻撃のみである。


「ライカ! 行くよ!」

「うん!」


 二人の攻撃が一つに合わさる。それは雷に包まれた極大の一撃となる。


「「勇雷の衝撃(ルミナス・インパクト)!」」


 光り輝いた一撃は茨の魔人までの道のりを切り開いていく。

 そしてそれが魔人に到達した時、二人の体には茨による多数の切り傷が刻まれていた。

 しかし麻痺毒は後方支援を行っているガウシアの力によって解毒され、更に力を増していく。


「「いっけええええええ!!!!」」


 その攻撃が終わった頃、世界は一気に広がっていった。

 二人の攻撃が茨の魔人の力を打ち破ったのである。

 先程までライカ達の攻撃によって疲弊していた魔人は更なる一撃を受け、大の字になって地面に倒れ伏している。

 最早これから立ち上がることはないだろう。

 すぐさまガウシアが世界樹の魔人の体を包み込んでいく。


「……ねえ、世界樹ちゃん。依り代になった人を元に戻す方法ってないの?」


 ライカやガウシア、赤王たちがその様子を見てほっと息をつく中でカリンだけは悲し気な表情を浮かべていた。

 この場でカリンだけが知っているからである。あの魔人の依り代がセレンであるという事を。

 姿かたちは変わっているため、カリンでさえシノに言われなければ気が付かなかっただろう。

 だが最後に見た魔人の力から確かに幼少期から共に研鑽してきた彼女の力を感じ取ったことでそれが真実であることを理解したのである。


「ないな。少なくとも我が知っている限りは依り代になった時点でとうに死んでいるはずだ」

「カリンの知ってる人?」


 ライカの言葉にカリンは首を縦に振る。そして魔人の依り代が竜印の世代のセレンであることを伝える。


「……そんな」

「……」


 ガウシアとライカはその事実を聞き、息を呑む。

 一方で事情を知らない赤王でもその三人の表情を見てどれほどの関係性の人物が依り代となってしまっていたのかという事を知る。

 

「ちょっと私見てきてもいい? ガウシア」

「はい。体は拘束させていただきますが、お顔だけでしたら」

「ありがと」


 カリンの問いかけにガウシアは包んだ世界樹の一部を開き、樹洞を作り出す。

 そしてその中にカリンが入った後、雰囲気を感じ取ってか扉を作り、閉める。

 世界樹の力の中にできた部屋の中にはカリンと魔人……否、その顔は既にセレンのものへと変わっていた。


「セレン。聞こえる?」


 もちろん、返事はない。

 瞳を閉ざしたまま、繭のように樹木に包まれていた。


「どうしてあなた一人だけで乗り込んだの! 私やクロノを呼んでくれたって良かったじゃない!」


 そう口では言うもののカリンには分かっていたのだ。

 セレンはクロノやカリンにもうエルザードと関わらないようにしたいと考えていたのだという事を何となく理解していた。

 そして普段の言動から己すらもクロノから嫌悪の対象になっていると考えていたことが容易に想像がつく。

 つまりエルザードとセレンが共倒れになればクロノにとって最も良い選択になるのだと思い込んでいたのである。

 そして命を投げ出しても構わないほどにクロノの事を想っていたこともカリンには分かっていた。

 何故なら彼女もその一人だからである。


「あなたまだクロノに想いを伝えてないじゃない! 彼の本音も聞かずに勘違いしたまま逝くなんて許さないんだから!」


 悔しさや怒りやらが入り混じった感情で叫ぶ。そしてカリンは優し気な表情に変わってセレンへ語りかける。


「クロノはあなたの事を許してたよ。もともと恨んでたかどうかも分かんないけど。だからせめてその事だけ覚えておいて」


 それだけ言うとカリンはセレンの頬に手を伸ばす。

 触れた先から温もりが伝わってくる。誰に聞いても生きていると答えるだろう。

 目の前にいるカリンすらもそう錯覚するほどであった。


「じゃあまたね」


 そう言って世界樹の扉の方へと顔を向けたその瞬間であった。


『頑張って』


 そんな声がカリンの背後から確かに聞こえたのである。

 急いで振り返るもそこには先程と同じく穏やかな表情をして眠っているセレンの姿しかなかった。


「……うん。私頑張るよ」


 それだけ言い残すとカリンはその場から去る。

 その頬には確かに一筋の涙が伝っていった。

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