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264話 裁き

 カリンとシノがまさに打ち合っている最中、ライカ達は荊に包まれたセレンと対峙していた。

 むろん、この場にいる誰も目の前の存在がセレンが変わり果てた姿であると認識している者は居ない。

 一匹を除けば。


「あれは我と同種の存在だな」

「同種の存在? どういうことですか? 世界樹ちゃん」

「うむ。我と龍でこの世界から追い払ったはずの『干渉者』の一部だろう。おおよそ人間に取り入って上手く生き延びていたか」


 干渉者。それはかつてこの世界を襲った、世界外の存在の事である。

 彼らとの戦いは果たしてこの世界の運命を左右することになったのだがそれはまた別の話である。

 そしてかつて人間が神と呼んでいた存在でもある。


「ん。取り敢えず倒すだけ」


 バチッという音を立てて雷を全身に纏うライカ。

 次の瞬間、迸る雷とともに荊の魔人の目の前に現れる。

 背丈を超えるほどの大きな槌が叩きつけられた瞬間、空間を半分に真っ二つに割るほどの雷撃が空を走る。


「……硬い」


 その一撃は荊に少しの焦げ跡を残すだけにとどまる。


「ガウシア。そっちの奴ら、赤トカゲとあなたに任せてもいい?」

「ん? 赤トカゲとは我の事か?」

「分かりました」

「おい、我の事を赤トカゲと……」

「取り敢えず解放します」


 ガウシアが世界樹の力を解き、話題に上がっている人物達へと目を向ける。


「殺すならば殺すが良い。妾にはもう其方と戦える力は残っていない」

「……どうなさいますか?」


 ガウシアはレヴィアタンの言葉を受けてチラリと赤王の方へと顔を向ける。

 レヴィアタンは赤王の同胞である龍種を滅ぼした当人である。

 実際のところはレヴィアタンではなく、憤怒の魔王であるサタンがほとんど滅ぼしつくした訳だが、そうはいってもやはりレヴィアタンの存在がなければドリューゲンから龍の姿が消えることはなかったであろう。

 唯一の生き残りである赤王が世界で最もレヴィアタンを憎んでいると言っても過言ではない。

 レヴィアタンは腕に眠るグリーディを抱きながら目を瞑ってその時を待つ。

 一方でガウシアに尋ねられた赤王は龍の姿のまま暫し沈黙を貫く。

 そして少しして人間の姿へと変化を遂げると、悲しげな表情のまま二人のもとへと歩いていく。


「我が決めても良いのか?」

「ええ。私も彼女に対して恨み言はございます。ですが最も恨み言をぶつけたいのはあなただと思うのです」

「……無論。我は同胞を全てこいつの仲間に殺された。だがこうして抵抗もせず死を受け入れる者を殺したいかと聞かれれば……それは否。直接手を下した訳ではないのなら猶更。後はただ同胞が安らかに眠ることを望むのみだ」


 その言葉は所々震えている。感情の昂りを理性が抑えている様は龍という種族の知性の高さがうかがえる。

 復讐すべき相手を殺せば己の感情が収まるわけではないという事を理解しているのだ。ただ虚しく答えのない問いを続けるようになる。

 共感性のない者は殺すよりも苦しい生き地獄を、と声を上げるであろうが赤王はそうは思わないのだろう。

 ゆっくりとレヴィアタンへと歩み寄ると、その肩に手を置く。


「貴様がしたことを許すつもりはない。これ以上暴れるというのなら殺すのもやむを得ん。だが、そうでないのならその娘を連れてこの場から立ち去ることを許そう」

「甘いな」

「甘い? 甘いのはここで死して楽に罪を償おうという貴様の考えだ。まあ少なくともあれを罪と捉えられている時点であ奴よりはまだマシなのだろうがな」


 それだけ言うと赤王はレヴィアタンの方へ背を向けるとガウシアの方へと歩いていく。


「ガウシア。早くライカの助太刀に向かおう」

「よろしいのですか?」

「お主が嫌ならば捕えればよい。だが我はもう興味が失せた」


 そういう赤王の顔からは先程よりも一層強まった悲哀が伝わってくる。

 せめてレヴィアタンが凶悪で一切の罪を認めず襲い掛かってきてくれたのなら少しは心にケリがついたことだろう。

 しかし実際は弱った状態で死を受け入れていた。

 それではどうしても一方的に甚振ることになってしまう。そんな状況になるのが見えていたからこそ赤王は見逃したのだ。

 弱者を一方的に甚振る存在に身を置くことに対する忌避感がレヴィアタンを見逃そうという結論に至らせたのだ。


「そうですか。だからといって見逃すわけにはいきませんのでお二人とも捕えさせていただき、国際裁判にかけようと思います」

「うむ。そうすると良い」


 そう言うとガウシアは再度世界樹の力を二人へと使う。

 ガウシアの力に包まれたレヴィアタンは全身が虚脱感に襲われる。これからかけられる裁判にして死罪が言い渡されるのは必至であろう。

 レヴィアタンにとって魔神を復活させるためにした人間に対する行いはすべて仕方のないものであった。

 何故ならレヴィアタンは人間によって虐げられた魔神の欲から産まれたから。

 不条理を強いてきた相手に対して不条理を強制するのには何の罪悪感もないことだろう。

 罪を償うという認識はあくまで龍に対してのみである。


「その中でおとなしくしておいてください」


 世界樹の力によって作られた樹洞に押し込められた二人を尻目にガウシアと赤王は茨の魔人と戦っているライカの下へと向かうのであった。

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