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261話 最大の戦い

 人類史において最大の敵がゆっくりとこちらへと視線を向けてくる。

 その眼には感情は宿ってなどいない。ただ滅ぼさなければならない対象があるから滅ぼすだけだと言わんばかりに眺めたその視線と目が合った瞬間、ゾワッとした感触があったとともに俺は咄嗟にその場から飛び退く。

 するとその直後に黒い線のようなものが目の前を通り過ぎる。

 少し遅れていたらモロに喰らっていただろう。こんなにも予備動作のない攻撃とは。


「……前より強くなってる」

「前より強いんじゃなくて前が弱かっただけだね。不完全なまま蘇ったから。でも今回は僕の家族が頑張ってくれたお陰で完全な状態で生まれることが出来たんだ」

「ゼファー。どうしても止まれないの?」

「止まれないね。人間を滅ぼさないと僕の家族がまた奪われてしまうだけだから」


 そう言うと魔神は凄まじい大きさの黒い球体を生み出す。

 それは憤怒の魔王が使っていたあの能力と同質の力だが、その物量は見るからに比にならないほど大きい。

 魔王たちは魔神の能力をそれぞれ有していた。感情の部分を魔神の代わりに持つことでそれを許されていたのだ。

 つまり魔神は七罪魔王たちの力を全て使えるという事である。

 それがどういう事を意味するか。


「君も僕と同種の力を持っているみたいだ。君も相当苦労したんだろうね」


 いつの間にか俺の目の前に魔神の姿が移動していた。これはいつぞやのあの怠惰の魔王の力か。

 時間をゆっくりに進めることが出来る能力。それを扱っていたのが大してそれ以外に目立った能力がなかったあの魔王だったからこそ倒せたものを。

 だがこれくらいなら前も同じように対処していた。

 即座に破壊の鎧を身に纏い拳を打ち出す。

 そうして迫りくる黒い太陽に拳が触れた瞬間、凄まじい突風と共にその力を霧散させることに成功する。


「僕の力の一つにすべてを創造する力がある。君はそれとは反対のすべてを破壊する力。それってどっちに優位性があるんだろうね?」

「知るかよ!」


 魔神に向けて拳を振るう。

 完全に捉えていた筈のその拳は魔神の姿がその場から消えることによって空を切る結果となってしまう。

 どこだ?


「ゼファー!」


 そして今度はフィーが魔神に殴りかかっているのが見えた。その隣にはフィーお得意のロボットが飛び、そのそれぞれからも光線が発射される。

 光線を回避した先には極限にまでパワードスーツによって攻撃力が高められた拳が追撃する。

 しかしながらそれすらも理外の力によって回避し、また違う場所へと姿を現す。


「フィー! あなたは切り札なんだからさがって力を蓄えていて!」

「リア! 助かるわ」


 そうしてリア様がフィーを守るようにして前に立つ。

 そのお姿はまさに稀代の英雄。能力によって具現化された光り輝く鎧を身に纏い、俺が献上したヘルメラの剣を構えている。


「フィー。今代の世界樹から力を分けられていないんだから発動するまでに時間がかかるでしょう? 戦闘は私とクロノに任せて」

「うん。そうする」


 そう言うとフィーの全身が青く光り輝きだす。聖女同士だとかなり意思疎通がとれるようになるらしく、互いの考えていることが何となくわかるのだとか。

 そういえば最初、フィーの目的は今代の聖女であったはずの俺の母親だったもんな。


「リア様。リア様のお力であればあいつの怠惰の力や暴食の力は効果がありません。そして憤怒の力と傲慢の力は私には効きません。他の能力で警戒すべきはあいつの本来の力である『創造』の力だけです」

「了解。じゃあ私が前線で戦うからクロノは援護して」

「かしこまりました」


 光の速度で動けるリア様が魔神の間合いを詰め、俺がそれをカバーする。

 非常に理に適った作戦だ。

 俺はリア様の提案に乗っかると早速行動を始める。


「はああああああ!!!!」


 リア様が空中に浮かび上がった魔神に斬りかかる。

 リア様の力の前では魔神は怠惰の力も暴食の力も意味をなすことはないため、憤怒の力を使ってその攻撃を相殺しようとする。

 それをリア様の後ろから飛び出した俺が破壊の力で消し去る。

 寸分の狂いもなく計画通りに事が運びヘルメラの剣が魔神へと突き刺さる……筈であった。

 いつの間にか黒く得体のしれない何かがリア様の攻撃をからめとり、そのまま地面へと叩きつける。


「リア様!」


 地面へと叩きつけられる寸前で俺はリア様を受け止め、そのまま大地に降り立つ。


「ご無事ですか?」

「私は大丈夫よ。それよりもあなたは自分の戦闘に集中して。危なっかしくて気が気じゃないわ」


 もっともなお言葉だ。

 しかし俺には守らねばならない信念がある。

 リア様を駆り出しているのだから絶対に御身を傷付けてはならないという信念が。


「申し訳ありませんリア様」

「分かればいいわよ。私だっていつまでも手のかかる子供じゃないんだから。私はもう立派な聖女なんだしね」


 そう言ってにっこりと微笑みかけてくるリア様。

 ああ、やはりこのお方は天使か何かの生まれ変わりなのだろう。

 自然と顔がほころんでしまう。


「承知しております」


 しかしやはりネックとなってくるのが魔神のあの『創造』の力だ。『創造』という名だけあって何でも作り出すことが出来るのだ。

 つまりどんな攻撃や防御になるのかが想像つかないという事。

 以前は不完全な状態であったがそれでも強すぎたんだ。今ならもっとだろう。


「……せっかく世界を消滅させるために蓄えた力だからあんまり力を使いたくなかったんだけど仕方ないよね」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、空中に黒い太陽が次から次へと生まれていく。

 一つ一つが憤怒の魔王など取るに足らないほどの力を有している。

 それがこの量……。やばいな、これ。


「リア様。フィーを頼みます」

「ちょ、ちょっと」


 俺は上空へと飛び上がり、破壊の力を極限にまで高める。


破壊の光芒(デストラクション)


 全ての太陽を飲み込まんとする極大の破壊の咆哮が世界で唸る。

 はてさてその力は一部を消し去ることには成功するが、全てまでは不可能だ。

 人の身じゃこの程度が限界。

 幸いにも俺の背後のリア様やフィーに当たるのは防げたがその他全てが大地を穿ち、一つ一つが大きなクレーターを生み出してゆく。


 バケモンだ。正真正銘の化け物だ。


 腕に焼けるような痛みを感じる。俺の力すらも貫通して届いてきたその力は絶望を感じるに足るほどの力だ。

 ちょっとこいつは無理かもしれないな。格が違いすぎる。

 無数の黒い太陽の裏に隠れていた、世界丸ごとを貫いてしまいかねない程禍々しく、鋭利な黒い大槍が姿を現す。

 それがすでに眼前まで迫っていたのだ。

 あれほどの攻撃が俺にトドメを刺すためだけのブラフだったとは。

 もはや回避などする暇もない。


「ーーか、はっ」


 力を駆使して威力を減じようとするも虚しくその槍は俺の腹に突き刺さり、その勢いのまま全身が地面へと叩きつけられる。


「クロノ!」


 リア様の声が遠く感じる。

 ……何だこの力は。刺さった先から破壊しようにもまるで追いつかない。

 心臓を回避したから意識はまだ辛うじて繋げてるけど、これじゃ時間の問題か。


「リア! クロノを癒してあげて。聖女のあなたならこの世の理から外れた魔神の力を浄化できるはずだよ!」


 苦しげな表情のままフィーがリア様にそう告げる。

 そんな声が聞こえた瞬間、既に俺の全身は黄金の光によって包まれていた。

 すると先程までいくら破壊しようとも体が蝕まれていった感覚がなくなり、俺の腹部に突き刺さっていた魔神の力は綺麗さっぱり消え去っていた。


「ありがとうございます、リア様」

「お礼ならこの戦いに勝ってから聞くわ。それよりクロノ、まだ戦える?」

「無論です」


 未だ痛みは残るもののリア様の聖女の力は甚大だ。

 普通ならば再起不能のけがを負っていた俺の体は嘘のように軽く動かすことが出来た。

 それにしても魔神の力が以前よりもはるかに強い。

 以前であればあの程度の攻撃はすべて破壊しつくせたはず。


「今度は私が前に出てみるね」

「いえ危ないので私めが」

「ううん。だって魔神の力は聖女の力で弱まるんでしょう? だったら聖女である私が先にあいつを弱体化させた方が良いと思うの」

「なるほど……では頼みます」


 俺がそう返すとリア様は嬉しそうに顔を明るくして頷かれる。


「任せて!」


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