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259話 攻勢

 リア様が結晶を浄化した直後、破壊の力を身に纏いその拳を突き出す。

 するとその結晶は跡形もなく消え去るとともに力が霧散していくのが分かる。


「ひとまずはこれで結界は解けたか?」

「そうだね~。助かったよ二人とも」

「そりゃお互い様だ」


 フィーデル達がこの塔を奪還してくれていなければ手遅れになっていただろう。

 真ん中で今にも崩壊しそうな禍々しい力を見ながら俺はそう思う。

 少なくとも今ならまだ魔神が世界を終わらせてしまう前に解決することができるかもしれない。


「策はあるか?」

「策はあるよ。でも気になるのは嫉妬の魔王たちだね」

「それなら私が見張っておくよ」

「私も。魔神との戦いでは私は役に立たないから」


 嫉妬の魔王が邪魔をしてこないか見張る役割にカリンとライカが手を上げる。

 ライカにしては珍しく魔神との戦いに加わらないのだと思うだろう。しかし一流の冒険者というのは自身の引き際や役に立てる場面を正確に判断できるものである。

 一度魔神の力を間近で見た彼女だからこそ、この判断はいたって自然なのだ。


「ならば機動力が必要であろう。我が力を貸す」

「頼んだ赤王。となれば魔神と戦うのは俺とリア様、そしてフィーデルって事になるな」


 そう言ってフィーデルの方を向くと彼女は不満なさそうに微笑みながら頷く。

 その後に続く言葉はない。彼女が以前言っていた魔神を滅ぼす手段とはいったいどういったものなのか。

 それを語ろうとしないのには何か裏があるのか? 分からない。

 遠い昔から時を飛んできたとは言っていたが、実際の所それが本当なのかを確認する術はない。


「どうかしたクロノ?」

「いや何も。どうせ答えてくれはしないだろうし」

「ふーん。ま、なんとなく何を考えているのかは予想がつくけど。心配しないで。ていうよりも気を引き締めて。魔神との戦いで頑張ってもらわなきゃいけないのはクロノとリアだから」

「うん! 私も頑張る」

「リアは今代唯一の聖女だからね。魔神の再生能力を阻害するのは君にしかできない。頼んだよ」


 魔神を倒すのはもちろんだがリア様をお守りするのもまた俺の使命だ。


「さ、そろそろ行こっか」


 いつもとは違う真剣なまなざし。つかみどころのないフィーデルにも恐怖という感情が芽生えていることに少し意外さを感じる。

 こういうのを人間らしさと言うのだろう。俺にはもう欠けてしまった。いやリア様やアークライト家のお陰で、そして学園の友たちのお陰で取り戻しつつはある。


「これが最後の戦いだよ」



 ♢



「取りあえず粗方倒し終わったか」


 メルディン王国から少し離れた荒野でクリスはふうと一息を吐く。最初は魔神族の攻勢に押されていたメルディン王国軍であったが、カリン達が魔王を打倒し統制がとられなくなったことで徐々に押し返し、今まさに魔神族を潰走させることに成功したのであった。

 しかし被害は甚大である。兵士たちの疲弊は凄まじい。ここを抑えれば次は敵陣に乗り込もうと考えていたクリスはその考えを改める必要があった。


「殿下!」

「ジオンか。『グレイス』の他の面々は無事か?」

「全員無事でございます。現在、敗走中の魔神族を殲滅して回っております」

「そうか。こちらも兵が疲弊しているから取りあえず一度兵を引き上げたい。皆にもそう伝えておいてくれないか?」

「承知しました。それと殿下に一つお伝えしたいことが」

「何だい?」

「グランミリタール帝国から伝書がありまして。これを」


 そう言ってジオンがクリスに一つの書簡を渡す。

 渡されたクリスはそれを開き、中身に目を通すと納得したかのようにうんと一つ頷く。


「帝国は敵の本丸に攻め込むらしい。それを助力してほしいという内容だね。しかし、こちら側の兵力はかなり疲弊している。どうしようか?」

「では『グレイス』だけで向かいましょうか?」

「いやお前たちだけではこちらが兵を貸し渋っていることになって後々厄介だ。ましてや私達の国から現れた逆賊達の犯行でもあるからな。歩兵や冒険者達は退却してもらって騎士団と『グレイス』だけで向かうか。ジオン、伝えてもらえるか?」

「承知いたしました」


 そう言うとジオンはその場から消える。


「クロノ、魔神は任せたぞ」


 そんな声が戦場の激しい轟音にかき消されるのであった。

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