256話 バルドーラン家
「それは大変だったね」
「ホントよ。あーあ、王女じゃなかったらこんな面倒ごとなかったのに」
「でもフィーが王女じゃなかったら僕が出会えてなかったからこれでよかったと思うよ」
「……それもそうだけどさ」
エルザード家のもてなしを終え、疲労を蓄積しながらもようやくバルドーラン領に到着した私は出迎えてくれたゼファルに軽く愚痴をこぼしながら領内を歩いていた。
後ろには当然護衛の騎士もいる。これはまあ仕方がないから別に構わないけど。
「そういえば何気にゼファルのお母さんに会うのは初めてだね」
「そうだね。母は妹の面倒を見るためにずっと貴族のパーティには出ていないからね」
「早く会ってみたいな~」
そう言いながらゼファルに案内されること十分程度でバルドーラン家の屋敷へと到着する。
質素な造りでどこか温もりが感じられるその屋敷の前にはパーティでも顔を合わせたことのある黒髪短髪の父親とその隣にはゼファルに似た顔の整った黒髪の女の人が立っていた。
「ようこそおいでくださいました、フィーデル殿下。本当であればゼファルと共に参上するべきだったのですが……」
「そんな事お気になさらないでください。私は今王女としてではなくゼファルの友人として来させていただいている身ですので。どうぞ呼び方も王女殿下だなんて仰々しいものではなく砕けて呼んでいただければと思います。ミゲルさん」
そしてちらりと隣でにこにこと微笑んでいる美人なゼファルのお母さんに目を取られる。
何この人、すんごい美人なんだけど。ゼファルの時も思ったけど流石に今まで見たことないレベルかも。
「初めまして、フィーデルちゃん。それと後ろの護衛の方々ですね。ゼファルの母のミレイユです。いつも息子がお世話になっております~」
「初めまして! ミレイユさん! すごくお綺麗ですね!」
「またまた~」
ミレイユさんと名乗ったゼファルのお母さんは私の言葉を聞き入れてくれたのかすごく砕けた口調で話しかけてくれた。
少し隣に立っているミゲルさんの顔が歪んだがそんなことは気にすることなくどうぞどうぞと屋敷の中へと入れてくれた。
バルドーラン家の中には使用人達の姿が見当たらない。誰も雇っていないのだろうか。だとしたらお母さんが病弱な妹ちゃんをずっと見ていなきゃいけない理由も分かる。
「今日はピクニックに行くのでしょう? せっかくだからお弁当を作ったの。持っていく?」
「はい! ぜひ!」
ミレイユさんの言葉に目を輝かせながら私は即答する。
エルザード家であんまり食べなくてよかった。これからピクニック行くって言ってるのに兄上が食べなさいってうるさかったから、少しだけフルーツを食べちゃったけど。
やっぱりいい景色を見ながら食べるご飯がピクニックの醍醐味だよね。
「せっかくだし皆さんも一緒に来ません?」
私がそう言うと先程まで嬉しそうにしていたミレイユさんとミゲルさんの顔が少し申し訳なさそうに暗くなる。
「ごめんね。一緒に行きたいのは山々なんだけど娘のジーナを見ていなきゃいけなくって」
「あ、そうなんですね。こちらこそ事情を配慮することができずすみません」
「フィーデルでん……さんはお気になさらないでくださいな」
未だに私への対応の仕方をためらっているミゲルさんがそう言ってくれる。
だけどジーナちゃんの体調ってそんなに悪いんだ。ちょっと心配になってきたな。
その後、お弁当を持ってくるから少し待っててとミレイユさんとミゲルさんに言われ、私はゼファルと二人で客室で待つこととなる。
「ねえ、フィー。ピクニックに行く前にジーナに会ってくれない? あいつ、王女様を見たいって聞かないんだ」
「え、そうなの! そんなの言ってくれたらいつでも会いにいったのに! もちろんオッケーだよ!」
「……ありがとう」
妹の話となると本当に嬉しそうな顔をするね。普段は外に出られないジーナちゃんに少しでも外の世界を見せてやりたいって思ってるのかな。
少しして弁当が入ったバスケットを持ってきたミレイユさんが笑顔でゼファルに渡す。
そしてミゲルさんはゼファルに剣を持たせ、お前がフィーデルで……さんを守るんだぞ、と念押しする様子を見届ける。
「父さん母さん。ジーナの調子はどう? 出る前にフィーが会ってくれるらしいんだ」
「本当!? 今日は結構体調良いと思うから問題ないよ。むしろフィーデルちゃんが会ってくれたら病気も治っちゃうかも」
「う、う、う。嬉しいなあ」
「え、ちょっとミゲルさん!? 泣くのは流石に大袈裟ですって!?」
と言いつつも涙ぐんでいるのはミゲルさんだけではなくミレイユさんもだった。
私そこまで背負って言ったつもりじゃなかったからちょっと謎の罪悪感あるんですけど。
「ほら二人とも。フィーが困ってるから」
「ごめんなさいね。すぐ案内するから」
そうして私は客室から連れ出される。
階段を上がり、右に曲がる。そしてその突き当りにある部屋には「ジーナの部屋」と書かれた可愛らしいプレートがあるのが目に入る。
「どうぞ」
白を基調とした部屋の中にはところどころ可愛らしい桃色の装飾品が混ざっている。
そしてその中央にある大きなベッドの上で小さな誰かがこちらに気付き、身を起こすのが分かった。
私の事がだれか分からないからだろう。コクリと小首をかしげたその様子はさながら天使のように可憐でそして儚さも兼ね備えている。
バルドーラン家の皆は黒髪であるのに反して真っ白な髪の毛を持った神秘的な女の子がそこには居た。
「ジーナ。この人が君の会いたがっていたフィーデルだよ」
あまりにも美しい存在に言葉を失っていると、隣からゼファルが私の事をジーナちゃんに紹介する。
すると不思議そうにしていた表情が途端に満開の笑顔になってこちらのハートを射抜いてくる。
「え、お姫様! お姫様なの!?」
上機嫌に手を伸ばしてくる無邪気な存在に私は手を差し伸べながらこう返事をする。
「初めましてジーナちゃん。私がフィーデルだよ」
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