255話 訪問
「ごめん。君にこんなところまで来させちゃって」
「そんなのどうでもいいわよ。それより体は大丈夫なの?」
「ただ体を酷使し過ぎただけだと思うからすぐ良くなると思うよ」
今、私はフリードさんと共に学園の医務室へと足を運んでいた。
ゼファルは申し訳なさそうにしているだけで普段とあまり変わらないように見える。
医務室にいる先生からは単に能力の使いすぎで倒れたらしい。
貧血みたいな感じって言ってたけど。
「私が学園にもうゼファルを駆り出さないよう言っておこうか?」
「いや、良いよ。僕がこうして能力を使う事で家にお金も入るし単位も気にしないでいいって言われたから一石二鳥なんだ」
「でもあなたが潰れてちゃ意味ないじゃない。どうしてそこまでするの?」
「僕はこう見えて銭ゲバだからね。心配しなくても今後も部室には顔出すから」
そんな事を心配してるつもりないんだけど。ていうかいつもゼファルは肝心なところを話したがらない。
思えば出会った頃からどこか思い詰めたような表情をする事がたまにあった。
それと何か関係があるのかは分からないけど、これ以上話す気が無いと分かっていた私は話題を変える。
「次の長期休暇、家に帰るの? せっかくだしその前にどこか遊びにいかない?」
ゼファルは私と違って学園からは離れた場所に実家があったため、寮生活を送っている。
だから去年とかは家に帰っていたのを思い出しながら私はそう尋ねたのだ。
「それいいね! でもそんな事フィーのお父さん、許してくれるの?」
「許させるわ。無理にでもゼファーの家に訪問する体で抜け出してくるもの」
「フィーの事だからだいぶファンキーな事しそうだよな」
「失礼な。ファンキーとは程遠いよ。どっちかっていうとお淑やか?」
「んなわけ……そうだね、どこが良いだろ」
そういうとゼファルはどこか楽し気に顎に手を当てる。その姿を見て私は最近ゼファルの笑みを見ていないことを思い出す。
久しぶりに楽し気なゼファルを見てこのままではいけないなとどこか思いながら提案を待つと、直後にポンと手を打ち鳴らしてゼファルが嬉しそうな笑みを浮かべてこちらを振り向く。
「そうだ! バルドーラン家の近くにすごく綺麗な場所があるんだ。そこにピクニックでもどう?」
「いいね~。というかゼファルが景色に興味持つことあるんだね」
「良いだろ。僕だって風景を愛でる心の余裕はあるよ」
どこかいじり合いながら楽しく話す日常。今までこの日常がどれほど少なかったことか。
私は家に帰りたくないからと一人で機械をいじり続け、ゼファルは常に研究機関に駆り出されていた結果、一番の友達との思い出を学園生活で作り損ねるところだった。
「そうそう、そういえばさ、学園でさ、――」
それからというもの私とゼファルはそれまでの時を取り戻すかのように雑談を続ける。
そしてあまりにも話すぎている二人の間を医務室の先生が止めたところでようやくゼファルが体調を崩して倒れていることを思い出し、その日は帰路につくのであった。
♢
私は馬車に揺られながら不服そうに車窓を眺める。今日はゼファルと共にピクニックに行く日だ。
それなのにどうしてそんなに不服そうなのかって? その原因は目の前にいる男の存在にある。
「フィーデル。どうしてそんなに嫌そうにするんだよ」
「別に。ていうか何で兄上が着いてくるの」
「そりゃそうだろ。我が妹が遠出するのが心配でならないじゃないか」
「だからってこんなに護衛をつけなくても良いじゃない」
私と兄上が乗る馬車の他にもう二台も馬車が並走している。
それらの中にグレイス王国が誇る護衛部隊が乗っている。はあ、せっかくゼファルと二人で遊べると思ってたのに絶対邪魔されるよね~これ。
「ところで昔みたいにお兄様と呼んでくれても良いんだぞ? 何ならお兄ちゃんとかでも良いし、何ならおにいとかでも……」
「兄上の邪な思惑を妹にぶつけないでよ。まったく。向こうに行っても邪魔しないでよ?」
「分かってるって。私はエルザード領にいる友人にでも会っているさ」
エルザード領の友人というのは十中八九、エルザード家の跡継ぎの事だろう。あの入学式の時に話しかけてきたゴルドー・エルザードの兄だ。
弟のゴルドーは権力にやたらと興味がある、というかエルザードはその傾向があるのだが、今の跡継ぎはそんなことはなくむしろ権力には無頓着なのだとか。
いやどうだろ? メルディン派の大きな勢力であるエルザード家の跡継ぎが次代国王の兄上と仲良くしているのは若干権力臭はするけど。
「……それとバルドーラン家に単独でフィーデルが行くのはあんまり良くないからね」
「?」
「こっちの話さ。フィーデルは分からなくても良い」
それから馬車は何の妨害もなくバルドーラン家へと向かっていく。
バルドーラン家とエルザード家は隣接しているため、馬車が無くてもその二つの領地を行き来できる。
まずはエルザード家で兄上と共に挨拶をしてからバルドーラン家へと向かわなければならないらしい。
はあ、面倒くさい。
「プリム殿下、フィーデル殿下。本日は遠くまでお越しいただき誠にありがとうございます」
「こちらこそ突然訪問させていただいたにもかかわらず歓迎の言葉を頂きありがとうございます」
「いえいえ、エルザード家の持つすべてを以て歓迎いたしますとも。ささ、中へお入りください」
そう言ってエルザードの領主が屋敷の中へ入るように促してくる。
中に入るとそこには黒髪で長髪の美青年といつぞやに見たゴルドーの姿があった。
そういえばゴルドーって人、初日以外はあんまり話しかけてこないようになったな。若干気まずくて視線をそらしてしまう。
「やあ、アインズ。来たよ」
「よく来たなプリム。突然すぎて家中大パニックだったよ」
「ははは、そりゃすまない」
兄上とエルザードの跡取りの人が挨拶を交わしている間、私の頭の中にあるのは「いつになったらバルドーラン家にいけるのだろう?」という疑問だけであった。
そんな感情が顔に出てしまっていたのか私の目の前にゴルドーが来る。
「殿下。まだ私めの存在が疎ましいでしょうか? その……入学式の日に無礼な行動をとってしまったせいで」
「あー、まだそのこと気にしてたの? 別にわざわざ疎くなんて思ってないよ」
ていうかあんまり眼中にないだけだけど。でもその言葉で彼のこわばっていた顔が少し解けたような気がした。
「それで今回はどうしてここに来られたのでしょうか?」
「いや私はエルザードに用事があったわけじゃなくてバルドーラン家に用事があるだけだけどね」
そして私のこの言葉によってまたもやゴルドーの顔がこわばる。
でもさっきまでの雰囲気とは違う。どこか怒りにも近い感情が何となく伝わってくる。
貴族の世界に幼少の頃から触れてきたからこそ分かる。ましてやまだそんな経験が浅いゴルドーだからこそ猶更分かってしまう。
バルドーラン家をいつまでも下に見ているのは変わってないんだね。
いやでもそれはこいつだけじゃないか。バルドーランという名を言った瞬間に、この家の中にいる者すべての雰囲気が変化した。
そう、兄上もだ。それはいつも感じる雰囲気ではない。何かがおかしい。
「さあさあ殿下御一行の皆様、奥の部屋にお食事を用意させていただいておりますので、そちらでごゆっくりとお過ごしくださいませ」
そうして私の違和感は解決されることのないまま、歓迎の場へと案内されるのであった。
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