25話 決着
「な、なんなのだ、お前は!」
渾身の一撃を片手で止めた俺にグラン副会長は動揺する。
「当てられてしまいましたか」
俺は拳を掴んでいた手に力を込めていく。
「ぐわああああ!!」
あまりの激痛にグラン副会長は地面に膝をつく。
「どうです? 降参しますか?」
「降参などしてたまるかああ!」
グラン副会長は痛みに悶えながらも根性の一撃を放ってくる。
が、それももう片方の手によって軽々と防がれてしまう。
拳を握る力を強くしても、降参する気配が無いため、俺は手を放す。これ以上やると手がもげそうで怖い。
俺が手を離すと、グラン副会長はサッと俺から距離を取る。
そして、既に感覚がマヒしているだろう手をぶらぶらと振る。
「まだやりますか?」
「当たり前だ。私はまだ負けていない」
格の差を見せつけたというのに未だ心が折れていないのは流石だ。これでは先程のようにしても痛めつけるだけだな。
「これはさっきの攻撃よりも更に一段階上の攻撃だ」
グラン副会長の体の周りに纏われる衝撃の波が徐々に赤く染まっていく。
確かに能力強度は上がっているようだが、まだ体が耐えきれていないようだ。目が血走っている。
これ以上は危険だな。
俺はそう悟ると、誰にも目で追えない速さでグラン副会長の後ろに回り込む。
「その調子ですと私に攻撃する前に倒れますよ?」
トンッと後頭部に手刀を加えて意識を奪う。
シュンッと赤い衝撃の波が消え、グラン副会長の体が地面に伏せる。
あっという間の決着。
まさかの王国で最高の学園の副会長が学園に入ったばかりの1年生に圧倒されたという事実に対する驚きが少ないながらもこの決闘を見守っていた観衆の間に走っていく。
そして、パラパラと打ち鳴らされる小さな拍手の音が決闘場を包んだ。
「クロノ!」
決闘を終えた俺の下にリア様が駆け寄ってくる。
「良かった。最初は勝てるわけないと思ってのに……まさか副会長に勝っちゃうなんて吃驚したわ!」
「まあ、たまたまですよ。相手が私のことを見くびっておりましたのでその隙を突いただけです」
「それはウソね」
リア様の後ろから現れたセシル会長が声を掛けてくる。
「彼、最初は油断していたみたいだけど、後半は確実に本気を出していたはずよ」
そう言うと、意識を失って倒れているグラン副会長の方を見やる。
「そんなグラン君をいともたやすく倒すなんて……能力強度の記録を見る感じでは絶対にありえない。あなたいったい何者?」
「何者って、決まってるじゃないですか」
疑うようにこちらを見てくるセシル会長の目を見て答える。
「私はリア様の付き人。リア様を害を為すものからお守りするただの使用人ですよ」
「そう、答えてはくれないのね」
俺の決め台詞はセシル会長の素っ気ない一言によって消し飛ばされる。もう少し興味を持ってくれてもいいのに。
セシル会長はそのまま倒れているグラン副会長の下まで行く。
「あらあら、そろそろ起きたらどうなのかしら?」
そう言うと、倒れているグラン副会長の頬を思い切り叩く。
「だ、大丈夫なのでしょうか?」
その勢いといえば普段あまり取り乱すことの無いガウシアも驚くほどである。
「……う、くっ」
頬を叩かれた衝撃で体を起こすグラン副会長。目の前には鬼の形相をしているセシル会長の姿が。
「グラン君。少しお話があるんだけど良いかな?」
微笑んでいるのに全然優しそうに見えないセシル会長のその姿を見てあのグラン副会長ですら身震いをする。
そして紡がれるは恐怖の言葉。
「お説教の時間だよ?」
♢
「本日はうちの馬鹿が皆様に迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「フンッ」
「あら?まだお説教が足りないかしら?」
「……すまなかった」
セシル会長とやつれた顔のグラン副会長が頭を下げる。
「いえいえ、こちらも少しやり過ぎましたので」
グラン副会長の手を見ると、結構うっ血している。
「それで提案なんだけど。クロノ君、あなた生徒会に興味は無い?」
「無いです」
「だと思った」
それから、会長たちは生徒会室へ、俺達は寮へと戻るのであった。
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