249話 最愛の存在
カリンの力が覚醒した一方で、強欲の魔王の子であるグリーディと対峙していたフィーデルとライカはその圧倒的な力の前に辛い戦いを強いられていた。
「知りたい知りたい。どうして君達はまだ諦めないの?」
見た目の幼さからは想像もつかないような邪悪な笑みを浮かべながらヒタリヒタリと二人へと近づいてくる。その右手にはあの黒の執行者の能力をコピーした破壊の力が纏われている。
それに加えてライカの雷纏による身体強化もコピーしているため、近接戦ではかなりの凶悪さを誇っていると言えるだろう。
「どうしよ! 私のパワードスーツ、もうそろそろバッテリー無くなっちゃうよ!」
「ん。フィー、その割には余裕そう」
「まあね~。私のカラクリはまだまだ沢山あるから」
そう言ってフィーデルはパワードスーツの中から何やらカプセルのようなものを次から次へと取り出していく。そして彼女がひとたびそれを地面へと叩きつけて割ると中から2mくらいの鎧を着た兵士が姿を現す。
「ほら、兵士君Aだよ。私のパワードスーツと同じ素材で作ってるから結構頑丈なの!」
「でもクロノの破壊の力で一瞬で壊される」
「……うん! そん時はそん時! じゃ行くよ! ライカちゃん!」
「ん」
フィーデルと共にライカ、そしてカラクリ兵士たち合計10体程度が一斉にグリーディに向かって走り出す。カラクリ兵士たちの動きは洗練されており、まるで本物の兵士かのように見事な陣形を保ったまま走っていく。
付け入る隙などある筈もない、そのように形成されたカラクリ兵士達の連携は凄まじいもので、その技術力だけで言えばグランミリタール帝国の黄金騎士団にも勝るほどの実力を発揮する。
されどその連携というものは大いなる力の前では無に帰する。
黒く禍々しい波動を纏った幼い手が振りかざされた瞬間、一体また一体と数を減らしていく。
更には他のコピーされた力によってすべて打ち砕かれてゆく。
「おー、流石にあの子の力、強すぎるね」
「あいつの力じゃない。クロノの力」
カラクリ兵士たちが次から次へとやられてゆく様を見てもなおさして焦りを見せない二人。
それは現状を悲観するのではなく、次の一手を考え続けているが故である。
雷纏によって超加速されたライカの動きを誰も補足することはできない。いくら魔王の力がライカの能力をコピーしたとしてもそれはオリジナルには敵わないのである。
一方でパワードスーツを着込んだフィーデルも凄まじい速度でグリーディへと迫りくる。
「知りたい知りたい知りたい! あなた達じゃあ勝てないのにどうしてまだ諦めないの!?」
「ふふん、ただ単に昔っから諦めが悪いだけだよ」
気付かれぬようにグリーディの背後を取っていたフィーデルがパワードスーツによって強化された拳を叩きつけると、グリーディの華奢な肉体はメキメキと嫌な音を立てて体をくの字に曲げられる。
「――いつの間に」
その直後超加速されたライカが雷に纏われた大槌を振り下ろす。
バチィッと雷光を辺り一面に迸らせながら振り下ろされた一撃は破壊の力をもってしても相殺することはできず、グリーディはその身を雷に包まれてしまう。
「ん、雷の力を使うのにその耐性がないのは意味がない」
「おっとっと、ライカちゃん辛辣だね~」
小柄の体型をしているにもかかわらず、自分の身と同じくらいの大きさである槌を振り回すライカはかつてのS級冒険者であった時を思わせるほどの迫力がある。
だが、それよりもグリーディには引っかかる存在が居た。
認識外でいつの間にか自分の背後を取って攻撃してきたフィーデルの存在である。
彼女はライカと共に走り出した筈。速度も途中まではライカより遅かった。
それは彼女自身もしっかりと目で確認している情報だ。しかし、その後の行動を思い出そうにも思い出すことができない。それこそカラクリ兵士達を相手していた隙に姿が見えなくなっていたのである。
「あなたの能力は何?」
「へえ、案外普通に喋れるんだね。まあでも知っても意味ないと思うよ。見えないからね」
その瞬間、フィーデルの姿がグリーディの視界から消える。そして先程と同じように背後へと気配を感じ、すぐさまその場から飛び退く。
「あれ? やっぱ二回目は無理か~」
「何をした?」
ここでグリーディは先程までは低かったフィーデルへの警戒を一気に上げる。カラクリ兵士達による陽動がなくともその場から姿を消したのだ。
グリーディの強欲の魔王の力はあくまで自身が想像できる範囲内の能力でしかコピーすることはできない。例えば、クロノの力は根源的にどのような力であるかを理解しきれていないがために、ただ物を破壊する力として作用しているため劣化版に過ぎないのである。
それでも元の力が強すぎるが故にこうしてグリーディの主力武器にはなっているわけだが。
「君が理解できなくても仕方ないよ。だって私、聖女だし」
「ん? そうなの?」
「うん。そういえばクロノにしか言ったことなかったけどそうだよ」
「そもそも聖女の力をあんまり理解していないけど」
聖女の力というのは公には秘匿された存在であるが故にライカにはあまりピンと来ていない様子であった。リーンフィリアが居るからかろうじて知っているという程度なのだろう。
「じゃあそろそろ終わらせちゃおうかな?」
「……っ」
フィーデルの拳が深々とグリーディの腹に突き刺さる。フィーデル自体はさほど筋力が高いわけではない。だが、何段階にも強化されたパワードスーツによってその膂力は最早S級冒険者をも超えるほどにまでになっていた。
フィーデルによって吹き飛ばされたグリーディへと次に襲い掛かるのは雷神が如く大いなる槌を振りかざした一撃である。
「雷神の槌」
世界が明滅するほどに強大化した雷撃が一人の少女に降り注ぐ。全身を刺すような鮮烈な痛みがグリーディの全身を駆け巡っていく。
「……また下劣な……人間なんかに……大切なものを奪われるんだね」
ボソリと呟く魔王と乖離した少女の嘆きは虚しくも目の前には武装したフィーデルと大槌を持ったライカの姿があった。
体を動かそうにもそれも叶わない。ただ生を諦めた少女の生きがいとなった存在のためだけに働いてきた彼女の虚ろな瞳には昔に受けた仕打ちと同じような光景が広がっている。
はずであった。
「まったく人間という種族はいつになっても使えないから困る」
死を待つだけの筈であったグリーディの目の前に現れたのはいつも追っていた者の背中。
傍から見れば人間と対峙する魔王、だが彼女からすれば命を救ってくれた恩人の姿がそこにはあった。
「ま、ママ。いえレヴィ様」
「そこで寝ておきな。後は妾が始末する」
全身に数えきれないほどの傷を有する彼女。言葉は厳しいが、グリーディを守るために覚醒したカリンの攻撃を背中で甘んじて受けたことが高い再生力をもってしても治っていないその大きな傷から察することができる。
「ごめん、二人とも! そっちに逃しちゃった!」
「ううん。大丈夫」
「ん。これで魔王と共闘できる」
グリーディの眼前に広がるのは愛しき魔王が満身創痍の状態で覚醒した勇者とその仲間達と対峙している景色。そう、自分のためにだ。
レヴィアタンは魔王に与えられた使命として魔神を置いて逃げることはできない。だがグリーディにとっては会ったこともない魔神よりもレヴィアタンの方が大事なのである。
その状態から彼女にできることはただ一つであった。
「聖域」
そう呟いた瞬間、レヴィアタンとグリーディの姿がその場から消えるのであった。
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