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248話 時間稼ぎ

「何だい? 悪足掻きかい?」


 世界樹がカリンとガウシアの二人を包み込み、上空へと昇っていく様を見て嫉妬の魔王レヴィアタンはそう独り言ちる。

 悪足掻き、彼女がそう評するのも無理はない。彼女の守りを突破できないからと籠城しているようにしか見えないからである。

 至る所から世界樹の枝で出来た鋭い蔓が彼女を串刺しにせんと襲い掛かるもその尽くが手刀によって薙ぎ払われていく。

 

「やはり私の能力に対してはあなたの能力は使えないようですね」

「なんだ出てきたのかい? 巣ごもりでもしながら妾を攻撃するのかと思っていたのに」


 ガウシアが姿を現すと更に周囲を世界樹が覆っていく。それはまるで上空に居るカリンの存在を忘れさせるかのようにレヴィアタンの視界を遮っていく。


「さて、何の策略もなしに其方だけが出てきたわけではあるまい。大方、あの黒髪の勇者に世界樹の力を分け与えようとでもしているのだろう。妾の力が及ばぬように」

「さあ、それはどうでしょう?」


 レヴィアタンの問いかけにもさして動じることもなく毅然とした態度を貫くガウシアの姿はまさに一国の王家に相応しい姿ともいえよう。

 

「はぐらかしても無駄だ。妾は力を操る能力じゃぞ? 空間に漂う力の流れなどいとも容易く捉えることができる。そう、あの者の居る場所に力が集中していることくらいは!」


 そう言うとレヴィアタンは凄まじい勢いで飛び上がる。


「させません!」


 ガウシアもそれと同時に飛び上がり、世界樹の枝や蔓を四肢のように操り、レヴィアタンの動きを止めようと迫る。世界樹に選ばれし守り人としての力をいかんなく発揮して、レヴィアタンの体中を絡めとり、締め上げる。

 しかし憤怒の魔王と同じくあの大戦を生き延びた最強の魔王の一角である。そう容易く束縛などできる筈もない。

 聖なる力が宿された世界樹の弦といえどもはや一瞬の気休めにしかならなかった。

 

「……そんな」

「妾は家族の中で魔神様に次ぐ存在じゃ。小娘如きの力で封じられるはずもなかろう」


 そして一瞬でガウシアの目の前まで移動するといつの間にか手元へと顕現させた真っ黒な杖を思い切り振りかざす。

 ガウシアも防御態勢に入ろうとするがそれが間に合うことはない。

 レヴィアタンの杖が直撃したガウシアはそのまま宙を舞い、いとも容易く体を吹き飛ばされる。


「ふむ、またその奇妙な技で回復しおったか」


 吹き飛ばされた先で世界樹に包まれ体を癒すガウシアを見てレヴィアタンは嘆息する。世界樹とはそれこそ魔神よりも遥かに長い年月をこの世界で過ごしている存在。

 彼の者の起源は誰も知る由もない。だがそれ故に無尽蔵の力を有している。

 それがレヴィアタンには酷く気に入らなかった。所詮ガウシアの力も勇者の力も聖女の力も世界樹によって作り出された紛い物の力。

 魔神のような唯一無二の存在とは程遠い。いや、つい最近それが唯一無二ではなくなったわけだが。


「特異点。それが指すのは其方たちが考えているよりも遥かに重い意味を持つ」


 レヴィアタンの脳裏に浮かぶのは真っ黒な鎧に身を包んだまだ若い青年の姿。

 そしてかつて魔神族へと単独で最大の被害を生み出した存在。かの存在であればもしかすればあの唯一無二の存在である魔神を撃ち滅ぼしてしまう危険性があるのではないかとレヴィアタンは頭の隅っこで危惧しているのである。


「妾の役目は其方たちを滅ぼし、あの魔神様と同じ世界の特異点を撃ち滅ぼす事なり」


 杖の先端部分に黒く禍々しい力が集まっていく。その力はまるで聖なる力以外のすべての力を吸収していくようで、周囲の木々は枯れ、大地には罅が入っていく。


「さあ、これで終いじゃ」


 まるで黒の執行者が生み出したかのような破壊の根源がレヴィアタンの杖先から放たれ、宙を舞う。そしてガウシア達とレヴィアタンとの間の、まさに真ん中にまで浮遊した後にそれは発動する。


破滅する世界(ルーン・ザ・ワールド)


 直後、世界が弾けたかのように黒い閃光がまばゆく輝き、そして大地を埋め尽くす破滅の衝撃が暴れだす。

 触れたものは触れた先から瓦解していき、やがて生命を奪ってゆく。

 誰も打ち勝つことのできないその力はやがて大いなる流れとなって世界を破滅へと導いていく……その筈であったのに。


「……何故立ってられる」


 ボロボロになってもなおカリンを覆う世界樹を守ろうと力を駆使してその破滅の衝撃流に抗う者が居た。むろん、ガウシアである。


「……」

「もはや言葉も喋れぬか」


 レヴィアタンが侮っていたのはその精神力である。紛い物の力と見下し、その者の本来備えている力を軽視しているが故の誤算。

 か細くなった意識の糸を綻んでもなお保ち続けるガウシアの精神の器を見誤っていたのである。


「だがもう貴様は戦えぬ。真にこれで終いじゃ」


 そう言ってレヴィアタンがガウシアへと止めを刺そうと杖を振りかざした瞬間であった。背後の世界樹が赤紫色の力に包まれ始めたのである。

 そしてそれはガウシアを守るかのように濃密な力がガウシアの周囲を覆っていく。

 やがてその力は具体的な力を象っていき、レヴィアタンの眼前に姿を現す。


「ごめん、ガウシア。ちょっと待たせすぎちゃった」


 普段の勇者の力とは違う、全身に赤紫色の力を具現化したかのような装具を纏ったカリンの姿がそこにはあった。

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