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246話 嫉妬の魔王

「私の攻撃が……効いた?」


 光に体が蝕まれていくサタンを見てリア様はそう呟く。最初の攻撃がすべて吸収されていたのにいったい何故なのかとお考えなのだろう。

 都合が良いとは思うけど、やはり自分で大丈夫なのだろうかと迷っていた意思が一つに定まったからこそ聖女の力もそれに答えてくれたんじゃないかって思う。

 力っていうのは器だけじゃなく、それ相応の意志の強さも必要になってくる。


「……くっ、強度はそれほどでもないというのにこうもダメージを食らうとは。厄介な物を生み出しおって、あの木風情が」

「何だまだ生きてたのか」


 聖なる光によって回復は妨げられてはいるものの流石は七罪魔王の中で最強といったところだろうか。しぶとくもその光の中から姿を現し、悪態を吐く余裕があるみたいだ。

 いやただの強がりか。リア様の攻撃で明らかに防御力が下がっている。

 叩くなら今だな。


 俺は最大限の力を両手に纏わせるとサタンの目の前へと駆けだし、大きく拳を振りかぶる。


「くっ、悪食(グラトニー)!」

「遅いな」


 一度聖なる力に触れた暴食の力が間に合う事はなく、サタンの体はもろに俺の破壊の力によって侵される。

 通常であればその程度ならまだまだ耐えていただろう。

 しかしリア様の一撃を食らった直後の魔王の体は抵抗むなしく破壊の力によってこの世から姿を消すのであった。


「つ……強い。我ら龍族を一機で殲滅したあの男をこれだけの短時間で滅ぼすとは。開いた口が塞がらぬとはまさにこのこと」

「すまないな。とどめはお前に任せればよかったか」

「いやそのような気遣いは無用じゃ。我は目の前で仇敵が滅びるのを見ることができればそれで十分」


 一体の魔王を倒すことには成功した。それも恐らく配下の中じゃ一番強い奴を。だが、これでもまだまだ安心できないのがあのど真ん中で今も禍々しい力を放っている存在だ。


「魔王も倒したしいったん結界の鍵を解きたいわね」

「仰る通りでございます、リア様。赤王、探すぞ!」

「お主、あからさまに我とリアとの態度が違うよな」

「そりゃそうだろ。リア様は俺の主人だからな」


 こうしてサタンを倒した俺達は結界を解く鍵を探し始めるのであった。





「知りたい知りたい知りたい! どうしてレヴィアタン様の邪魔をするの?」


 クロノ達と別れた後、私達の前に居たのは一柱の魔王ともう一人。世界樹の力を吸収しにきた時にも居たあの少女だ。

 魔神教団の教祖にして七罪魔王の内の一柱。メルディン王国に現れたような偽物の魔王なんかとはわけが違う。正真正銘、魔神本人から力を与えられた存在。


「迂闊に能力を見せちゃダメだよ。あの子、こっちの使った力を真似てくるから」

「了解。なら、能力を使わない戦い方をすればいいだけだね!」

「能力を使わない? それって……」


 そこまで言って気が付く。そう言えばフィーって何かのスーツ着ながら戦ってたよね。

 実際にその姿を目の当たりにして思い出したけど。


「知りたい知りたい知りたい! どうやって私に勝てるのかな!?」


 そう言うと少女は黒い力を身に纏わせながらこちらへ向かってくる。

 黒い力。それを見て私はハッとする。幼少の頃から見てきたその力。


「ブレイク!」


 小さな少女の体から放たれたあの黒の執行者と同じ力が迫り来る。

 あの時、世界樹を襲いにきた時に習得したんだろうな。これはちょっと厄介かも。


「勇王顕現!」


 私は即座に能力を解放させると力を放った少女の方へと駆け出す。

 この場に居る中でクロノのあの力に対抗できるのは勇者である私だけ。

 そう思って走らせた剣が少女の破壊の力と衝突する。

 その時、背中にゾワッと悪寒が走る。


「セパレート」


 嫉妬の魔王が何か唱えた瞬間、全身から力が抜けたかのような感覚に陥ったかと思うとさっきまで対等にせめぎ合っていた筈の相手の力によっていとも簡単に私の剣が弾き飛ばされてしまう。


「世界樹の護り」


 破壊の力が私に迫るまさにその瞬間、視界が真っ白な大樹の枝に覆われると同時に力を失っていた体を包み込まれる。


「ガウシア、ありがと!」

「いえいえお互い様ですから!」


 ガウシアの世界樹の力を貫通するほどの破壊の力じゃ無いのね。

 世界樹に阻まれ、後方に飛び退いた少女の姿を見て私はそう確信する。

 

「カリン、あいつら一緒に倒すのは面倒」

「そうだね」


 あの瞬間、私の力が突然抜けたのは確実に嫉妬の魔王の能力。

 戦闘はあの強欲の力を使う女の子に任せて自分はこっちに能力を使って弱体化させれば良いってことね。


「何とか二手に分けられないかな?」

「それなら私に任せてください」


 そう言うとガウシアのすぐ近くに見上げるほど大きな樹が生み出される。

 そしてその樹に繋がる根が嫉妬の魔王と少女の方へと向かっていく。


「ちっ、世界樹の力は剥がせないからのう。仕方あるまい。グリーディ」

「承知致しました!」


 ガウシアの力に対して少女もその力をコピーして対抗してくる。

 しかし本物の力には及ばないのかそれらの一切がガウシアの力に飲み込まれていく。


「知りたい知りたい知りたい! どうして私の! ママの邪魔をするのか!」


 ママ? 聞き間違い? でも確かにそう言ったような……。


 そしてガウシアの力はやがて巨大な根となって嫉妬の魔王と少女を二分する。


「所詮は紛い物の力。ホンモノには勝てぬか」


 何あいつ? 自分の仲間の癖に馬鹿にしたような言い方して。

 ちょっとだけ故郷の頃を思い出しちゃうかも。

 とにかくこれで相手を二分できた。後はこっちの分け方だけど。


「ん、私とフィーであの娘を処す。そっちは任せた」


 そう言うとライカはすさまじい勢いで少女の方へと突っ込んでいく。せっかく二手に分けたのにこの一瞬の間で合流されちゃったら意味ないもんね。

 見上げるくらい大きな根が壁みたいになっているとは言っても上空は繋がってるんだし。

 

「オッケー。じゃ嫉妬の魔王の相手は私とガウシアだね」

「りょうかーい」

「了解です!」


 そうして私もライカを見習い嫉妬の魔王の方へと駆けだす。どこか余裕そうな笑みを湛える魔王に不気味さを感じながら。 

ご覧いただきありがとうございます!


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