244話 憤怒と暴食の魔王
「我は憤怒と暴食の魔王サタン。魔神様には近づけさせんぞ」
俺が破壊の力を使ったからなのか、それとももっと前から気付いていたのか。
果たして俺達が塔の屋上へと登る前にその本人が現れるという。まあ、近くで戦ったら結界に影響があるから出向いてやろうという考えなのかもしれない。
「黒の執行者、そして龍王か。ふむ? そちらの者はあまりこの場にはそぐわない程度の力しか持たぬようだが?」
リア様の事を言っているのか? まったく魔神族とやらは見る目が無いらしい。
「このお方は俺が仕えている気高き聖女様だ。お前たちが見計らえないほどに大きな力をお持ちなんだよ」
「別に良いわよクロノ。覚えておいてもらう必要ないから」
リア様の全身が光り輝き始める。その光量は俺が知っているリア様のものとは格段に違う。
これがリア様の光の聖女の力か。どこか懐かしい雰囲気がある。
思えば俺が最初にリア様と出会った時、割とすぐに心を開けたのはこの雰囲気があったからなのかもしれない。
「どうせ世界樹にでも貸し与えられただけの紛い物の力だろう? その程度の力ならば我らのステージに立つには相応しくない!」
瞬間、目の前に凄まじい力を持った球体が無数に浮かび上がる。
その燃え盛る様はまさに小さな太陽の様だ。
あれが憤怒の力だな。いまいち力の効果は知らないけど。
「破壊すればいいだけだ」
破壊の力を身に纏うと、リア様の前に立ち構える。
「リア様。私が攻撃を消しますのでリア様は赤王と共に本体を攻撃してください」
「あら? 任せてくれるようになったじゃない」
「お顔からどうやら意趣返しがしたそうに見受けられましたので」
それに本当に実力が足りていないと思うのならばこんな所に付いてこさせなんてしない。いつもの通り俺が一人で潰すだけ。
少し前までの俺であれば考えられない事だろう。主を危険にさらすなどもっての外だ。何なら今でも若干そう思う。
だからこそ最善を尽くしてお守りするのが付き人の義務ってモンだ。
「破壊の黒光」
瞬間、視界が一気に破壊の力で覆われる。普段の姿で使う破壊の力とは異質なほどの漆黒の光がサタンの攻撃を掻き消す。
その厚みは完全に能力に身を預けたこの姿でないと発揮することはできない。
「ようやく本気の力を出してきおったか。それでこそ魔神様と対等に渡り合ったあの時の貴様の真の力だ!」
サタンが俺の攻撃に気を取られている中、背後からリア様と赤王が迫る。リア様は光の聖女として覚醒したお姿で、赤王は部分的に龍化させ炎を纏わせた爪を構えて。
「魔王よ! 仲間の仇じゃ!」
その瞬間、赤王の右腕に纏われた焔が凄まじい大きさにまで成長し、サタンへと降りかかる。流石は五大龍王の一人だな。
まあ、リア様も負けていないが。
麗しい体を聖なる光が包み込む。右手に握られたヘルメラの剣は元よりリア様の光の力を存分に発揮できるよう、世界一の武具職人の弟子である俺が作ったものだ。
「はああああっ!!!!」
荒々しく燃え盛る龍王の力と人の身でありながら神々しく光り輝く聖女の力が混じり合い、サタンへと迫ってゆく。
両方から挟み込まれた状況でこいつがすることはまあ想像がついているけど。
「悪食」
サタンはリア様と赤王の攻撃に向かって暴食の魔王の力を使う。そしてもう片方の手をこちらに向けてくる。
「憤怒の太陽」
二人の力を吸収したからか先程よりも更に強力な攻撃をこちらへと放ってくる。へえ、そっちの攻撃を吸収するんだな。
「やはり貴様らの力では暴食の力の前では無力だな! 全て吸収しつくしてくれる!」
「嘘……」
リア様と赤王の攻撃を吸収し終えたサタンは続けざまにリア様たちへ向けて攻撃を放つ。
煌々と燃え盛る小さな太陽は凄まじい引力により周囲に落ちている石などをもすべて呑み込み蒸発させながら二人の方へと突き進んでいく。
龍王を屠った力だ。触れれば一溜まりも無いだろう。
俺も向こうに行きたいのは山々だけど……。
「大丈夫そうだな」
流石の機動力でリア様も赤王も軽々と攻撃を避けているのが見える。リア様はそもそも速さに関して言えば俺よりも上だからな。
心配する必要はない。
「そんで俺の攻撃をこの程度で止められると思ってるの、甘いな」
もしも俺の攻撃の方を吸収していたら止められたかもしれない。だが、そうでない今ただ破壊の力で相手を圧倒するだけだ。
「なにっ!?」
「終わりだな」
本体は任せたとか言っといて二人には申し訳ないがこうなってしまえば俺の勝ちだ。
破壊の力を纏い、サタンの攻撃を打ち砕いた俺は即座にサタンの目の前へと移動し、さらなる力を蓄える。
「グ、悪食!」
「もう遅い。破壊の災禍」
破壊の力が最後に放たれた暴食の力ごとサタン自身を飲み込んでいく。あの肥大化した暴食の魔王ですらも屠ったこの一撃。
果たして耐えられるか?
音を置き去りにした衝撃波と共に破壊の力が地面に叩きつけられ、周囲の大地を削り取っていく。
やがて巨大なクレーターを作り上げるほどに強大化した力はサタンの息の根を止めにかかる。
「あ、相変わらず凄まじい力だな」
「俺にはこれしか無いからな」
こちらへと浮遊してきた赤王の言葉に俺は何の感慨もなくそう返す。
あの頃の、殺戮者としての感情を思い出してちょっとだけ憂鬱になっちまったな。
「倒せたの?」
「いやリア様……」
破壊の力で埋め尽くされた中に確かに残る強力な力。多分……。
「ここからが本番です」
その瞬間、激しい突風と共に漆黒の力が吹き飛ばされ、中から更なる力を得たサタンが姿を現すのであった。
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