243話 二手
「ここに魔神が居るの。でもこの建物に行くためにはあの結界を解かないとダメ」
フィーが地図を広げながら俺たちに説明していく。どうやらここに残っている間に魔神側の動向を調べていてくれたらしい。
そんな事をこんな魔神族だらけの場所で出来るのかよと思いながらも初めてであった頃のことを思い出し納得する。確か俺の真似事が出来るくらいには強かったもんな。
自分で言っててあれだけど。
「その結界ってどう解けばいいの？」
「良い質問だねリア！ あの塔みたいな建物見える？ どうやらあそこの最上階にある透明な球体からその魔力が供給され続けてるみたいなの。だから多分、あれを壊せばいいと思う」
「なるほど。ただ要なだけに多分魔王とかが守っているのかな？」
「ご名答だよカリン。この最上階に魔王が二体居るの。一体は嫉妬の魔王レヴィアタン。魔王達を管理する側の存在ね。能力はあんまり分かってないけど、とにかく強いのは確か」
嫉妬の魔王か……。俺も戦ったかどうかあんまり覚えていないな。どちらかと言えば暗躍してるイメージの魔王か。
「そしてもう一体は憤怒の魔王だけどこっちはよく分かんないな」
「それなら一度戦った我が教えよう」
ここで赤王が手を挙げて言う。そういえばここで魔神族の侵攻を止めようと憤怒の魔王と戦ってたのが赤王だったか。
「ていうか私達。まだこの子？ についてあまり知らないんだけど」
「おっと失礼。我の名は赤王。この龍達の楽園、ドリューゲンにおける五大龍王の一人である」
少女の姿となった赤王はえっへんと無い胸を張ってそう告げる。そしてそのあと、すぐにしゅんと落ち込んだ様子を見せる。
「まあもう我らの故郷も同胞も居らぬが。とおっとこれまた失礼。わざわざこの場にきて士気を下げるようなことを言ってしまった」
「謝らなくていいよ。むしろそれだけ気持ちの整理がついてるほうが珍しいくらいだもの」
「それはそうじゃ。お主らとは生きておる年月が違う」
そうか。少女の姿で騙されていたけど、若い龍とはいえ俺達よりは遥かに年齢を重ねてるのか。
それなら同胞が全滅させられたのにもかかわらずここまで取り乱さずにいるのは納得だ。
「それで憤怒の魔王の事じゃったな。まず脅威となるのはこやつの吸収能力じゃ。我が放った攻撃はすべて吸収された。一定以上の攻撃は吸収されはしないようだが、その時は吸収された力を用いて物量で圧倒してきよる」
思い出すのは黒い一対の角を生やした赤髪の男性の姿をした魔神族。奴の放つ力は何かを条件として力が増加していく。
それに暴食の力が加えられた感じか。だとすれば多分だけど配下の中じゃこいつが最強だな。
「憤怒の魔王は俺が相手することになりそうか。ただ俺はリア様から離れたくはないんだが」
「じゃあ私とクロノで憤怒の魔王を倒しましょう」
「うん。そっちの方が良いかもね。じゃあこっちは私、ガウシア、ライカ、フィーとあとは赤王ちゃんはどうする？」
「我は敵を取りたい故、憤怒の魔王とやらを倒しに行く」
まあ赤王はそうなるか。目の前で仲間が殺されてるわけだしな。
「大丈夫か？ お前の攻撃、全然効かなかったんだろ？」
「無論、大丈夫じゃ。何とかしてみせる」
自信たっぷりの表情でそう告げる赤王を見て俺はそれ以上聞かないこととする。
龍種はプライドが高いと御伽噺では聞く。その中の龍王と呼ばれる地位に座していれば猶更だろう。
少なくとも何かの秘策はあるに違いない。
ここにヘルメラ鉱石さえあれば龍向けの武器とか作れるんだけどな。残念ながらそんなに都合の良い事はなく、赤王本人の力に期待するしかない。
というか俺が頑張れば良い話だ。殺戮しか出来ないこんな不器用な能力の使いどころなんて今くらいしかないんだし。
「取り敢えず組み合わせは決まったな。それじゃあ……」
俺はそう呟くと全身を黒の執行者と呼ばれる姿へと変化させると、二つの塔に向かって力を放つ。
「破壊の光芒」
二方向に向かって放たれる破壊の力はその周辺にたむろしている魔神族たちを殲滅していき、道を開けていく。
「リア様、向かいましょう」
「オーケー！ それじゃ皆！ 健闘を祈ってます！」
「「はいっ！」」
こうして俺達は二手に分かれて塔に向かうのであった。
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二手に分かれ塔に向かっている途中、怖気づくことなく巨大な敵に立ち向かっていく皆を見て少し不思議に思っていた。
普通ならばただの学生の年齢だ。誰に頼まれた訳でもなく魔神を倒すために死力を尽くすなんてする者はほとんど居ないだろう。
まあガウシアやリア様は世界樹からの力を得て魔神を倒す宿命があると思っているのかもしれないが。
兎にも角にも世界の命運を背負うにはあまりにも若すぎる、と思う。
そんな姿が眩しく映って。その光で俺の惨めさがさらに加速するような気がして。
俺はそんな輝かしい理由があって魔神を倒すわけじゃない。ほぼ恨みに近い感情だから。
「リア様は怖くないのですか？」
「ん？ 今更何言ってるのよ。そんな事考える暇もなかったわ」
微笑みながら告げられるその言葉に俺の心が晴らされた気がした。
――訂正だ。俺の暗い気持ちはこの人の一笑で消える程度のしようもない悩みなんだな。
「それは良かったです。早く倒して一緒に末永く穏やかな人生を送りたいものですね」
「え、そそそそそれってどういう！？」
「？ そのままの意味ですが？」
何故か突然取り乱し始めたリア様。あれ？ 今俺何か変なこと言ったか？ 付き人として当たり前のことを言った気がするんだが。
「惚気ていないで集中せい。敵は目の前じゃぞ」
赤王の言葉と同時に上空から途轍もない力の本流を感じ取る。
周辺にいるような上級魔神族とは比較にならない程の重圧。ちょっと前にあった時よりも更に力を増している気がする。
「よく来たな。黒の執行者よ」
低く響き渡る声が頭上から聞こえてくる。
「我は憤怒と暴食の魔王サタン。魔神様には近づけさせんぞ」
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