241話 古代兵器の力
「お前は優秀だ。だが、一人で我らに挑むというのは愚策であったな」
色欲の力によって操られた魔神族に囲まれている、その真ん中にセレンが肩で大きく息をしている。
「……行かせない」
「セレン。抵抗はよしな。君の能力はお館様も買ってくれているんだ。おとなしく従え」
「私はもう間違いは起こさない」
アンディは幼い頃から共に研鑽を積んできた同士だとしてセレンに同情しているのだろう。
しかしセレンがその甘言に対し首を縦に振ることは無い。
かつて罵倒し貶した元幼馴染のクロノ。
最初は彼に恐怖したことで軍門に下った。いや、それだけではない。彼女は自身が持つ千里眼をもってして未来を見据えていたのである。
このままではエルザードは落ちぶれる、と。
打算的に仲間となったセレンは最初の方こそ恐怖でクロノの言葉にいちいち怯えていた。裏切るなど考えるまでもなく彼の力を恐れていたのだ。
そんな彼女に対して、かつての怨恨もありぶっきらぼうにしかし決して見捨てることのなかったクロノとリアへ徐々に恐怖から好意へと変化していった。
そしてやがて本当に忠誠心を抱くようになったのである。
クロノがどれほどエルザードを憎んでいるかが良く理解している。そしてリアが巻き込まれることをどれほど危惧しているのかも。
だからこそ彼女は一人ですべてを背負い、己の命をもってしてエルザードの野望を止めようとしていたのだ。
「クロノ様はあなた達の事を憎んでいる。あなた達が生きているだけで心を蝕まれるくらいには。それだけあなた達が行ったことは非道そのもの」
そう言うとセレンは懐から一振りの小刀を取り出す。
「本来ならクロノ様は私の事も疎いはず。それらすべてを一手に消すにはこうするしかない!」
「……何をするつもりだ?」
「これを見てもまだわからない?」
そう言うとセレンはその小刀を思いきり自分の腕に突き刺す。突き刺したその場所から小刀に閉じ込められていた途轍もない怨嗟の声がセレンの体中に響き渡ってくる。
「もしやそれは……」
「古代兵器の鍵よ。あなたが暴走しないようにって昔怒りの谷から取っておいたの」
古代兵器を起動させるにはエルザード家で代々受け継いでいる鍵を使用しなければならない。
そしてシノ達はまさにその鍵を取りに行こうと怒りの谷へと向かっていたのである。
クロノに恐怖を抱いたセレンはシノがクロノに対して余計な事をしない様にと密かに古代兵器の鍵を盗んでいた。
領地の者の目を盗み、怒りの谷から古代兵器の鍵である小刀を手に入れる……それは千里眼を持つエルザード領で一番の諜報員であるがゆえに為せた業である。
「私の能力強度を使って古代兵器を起動し、あなた達を消す。これであの方が憂いを抱く存在はこの世からすべて消える!」
憂いを抱く存在はすべて……それは彼女自身も含まれているのだろう。
クロノに対して忠誠を誓いすぎるがゆえに過去に行った自分の所業が余計に許せなくなった。
そんな彼女の思いがこの自滅覚悟の特攻へとつながったのである。
「ば、馬鹿者! それをすればどうなるか……」
本来ならば生贄となる者に突き刺す古代兵器の鍵を自身の体に突き刺す。
それが意味するのは己が能力強度を生贄に捧げ、その力を得ようというのである。
「アアアアアアアッ!!!!」
響き渡るセレンの苦悶の声。その体から徐々に大きな茨が生えてくる。
「お館様、あれは?」
「茨の巨人。かつて勇者がその身を犠牲にし、茨の巨人へと姿を変えて魔神を葬ったと言うが」
茨の巨人となりその身を犠牲にして魔神を封印した、その功績を称えられ『勇者』と呼ばれ尊ばれることとなった。
そしてその茨はやがて朽ち果て、魔神とその配下である七罪魔王を封印する鍵だけが原型を留めたという。
しかし、伝承に聞く茨の巨人とは違い、セレンのその姿は小さい。
「どうやら奴の能力強度ではあの程度しか力を発揮できぬようだな。それもそうか。史実では隠されているが、古の勇者は自身と幾人かの犠牲を払って巨人を生み出したというしな」
やがて巨人というには小さい女性の姿をした茨の魔人の姿がそこに生まれていた。
意志ある者を依り代として力を発揮するこの古代兵器をシノは誰に使おうとしていたのか……それは言うまでもないだろう。
「セレンの奴、お館様の古代兵器を勝手に使いやがって」
「エヴァン。逸るなよ。お前は少々頭が足りない」
「も、申し訳ありませんお館様」
姿を大きなオオカミの姿へと既に変貌させていたエヴァンを止めるとシノはアンディの方を向く。
「あれを聖域に転移させられるか?」
「やってみます。聖域展開」
その瞬間、アンディとセレンであった者の姿がその場から消える。魔神の血を飲み、超強化されたアンディの能力、『聖王』。いかに強力な古代兵器と言えど魔王にも匹敵するほどの力を無視することなどできはしない。
「馬鹿な真似を。古代兵器の力を使えど私には『色欲の魔王』の力があるのだから操れば良いだけだというのに」
アンディに聖域へと移動させたのはシノがその力を蓄えるため、ただそれだけである。
「むしろ自ら来てくれて好都合だという訳だ。ハッハッハッハッ!」
シノの高笑いが地上に響き渡った数瞬後、空間に裂け目のようなものが生まれる。
そしてやがてその空間の裂け目から途轍もない勢いですさまじい量の茨が放出されてくる。
『愚かな人間どもよ。神の力を侮るな?』
「せ、聖域なのに僕の攻撃が全く効かないだと!?」
空間の裂け目から出てきたのは茨を身に纏ったセレン、続いてアンディの姿であった。
アンディの『聖王』は自身が作り出した聖域内では思い通りの事がすべて成しえるという力を持つ。
しかし、今のセレンにはその一切が効かず、おまけに聖域からも脱出されてしまったのである。
「おらあああっ!!!」
オオカミの姿となったエヴァンがセレンへと飛び掛かる。しかし、大きく振るわれた茨によって弾き飛ばされその体を地面へとめり込ませる。
次いで無限に湧き出してくる茨は次から次へと周囲に居る魔神族たちを滅ぼしていく。
「フハハハハッ! 流石は伝説の力だ! これが今から我が手に入るとは考えただけで笑みが零れてくる」
『くだらない力に囚われた愚かな人間よ。朽ち果てるが良い』
人格を茨に飲み込まれたセレンの口がそう告げると、魔神族を滅ぼしつくした茨がすべてシノの方へと襲い掛かってくる。
「準備完了だ。セレン、いや茨の魔人よ。貴様の力は今から私の物だ。魅了」
シノが力を放った瞬間、茨はピタリと止まる……かと思いきやその勢いを止めることなくシノの身体を突き刺す。
「かっはっ……」
体を貫かれたシノは最初、訳が分からなかった。どれだけの実力者であろうと魅了し、使役することができる色欲の魔王の力。
しかしそれは伝説の存在にはまったくもって効果が無かったのである。
「こ……こんな筈じゃ……」
体を貫かれるも魔王の力で再生されていく。
そしてスッとセレンの方を見る。
「こんなもの……兵器などではない。どうやら私の先祖は触れてはならない者に触れていたみたいだな」
もはや人ならざる存在となってしまったセレンを見てそう呟くのであった。
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