239話 行方
ドラゴン達の楽園、ドリューゲン。しかし現在ではドラゴン達の楽園からは程遠く、ところどころに戦闘の跡があったり、ドラゴンの亡骸が転がっていたりする。
いかに最強の種族といえどその生存を脅かされることがあるのだと思い知らされるような残酷な光景の中を歩く者たちの姿があった。
「お館様。どちらに向かわれているのですか?」
「魔神が元々封印されていた怒りの谷だ。そこで魔神を弱らせるある装置を手に入れる」
「ある装置?」
荒原を歩くのはシノ・エルザード達。そしてその背後にはシノが手に入れた『色欲』の力で魅了した魔神族の群れを引き連れている。
「古代の兵器の力。それは魔神を復活させるのに必要であったのと同じく能力強度が必要となる。だが、ここには奴等から奪い取った能力強度の結晶がたんまりとある。これを使って古代兵器を起動し、魔神を弱らせるのだ」
魔神によって世界の大半が滅亡されたがゆえに伝わり切らなかった古代の文明。しかしてそこに眠っている力は人間では計り知れないほどの威力を発揮する。
そしてシノがなぜそのことを知っているのかというのは彼が勇者の宗家であることから察することができる。
「我が家に代々受け継がれてきた本来であれば復活した魔神を再度封印するために使う力。魔神を我が物とするためにそれを使う事になろうとは。人生とは分からぬ物だ」
世界が己にひれ伏し、各国の王が献上品を捧げる光景を妄想し、ほくそ笑む。
何がこの男をそこまでにしたのか。力こそ至高、弱きは排除せよといっていたこの男が欲していたのは勇者一族の気高さなどではなく、他者への支配のみであった。
支配を求むるからこそ力を欲する、誰よりも支配欲が強い男であったのだ。
気高く貴い勇者の家系から生まれし、支配欲に塗れた男は口元に笑みを浮かべる。
そしてその様子を遠く、はるか遠くから見守る存在がいた。
「やっぱりあれを狙ってるのね」
そう呟くとセレンは千里眼の能力を解く。エルザード家が向かっている方向はクロノ達が向かっている方向と真逆だ。
そしておそらくクロノ達が到着する前に怒りの谷へ到着し、古代兵器とやらを起動することになるだろう。
「私が行くしかないわね」
クロノ達には魔神をいち早く止めに行ってもらう。そして自分は己を犠牲にしてでも魔神が討滅されるまでの時間を稼ぎ、シノの思惑を廃することを決断する。
彼女も元は竜印の世代だ。能力強度は1000万を超えている。その程度の役割であれば十分に果たすことができるだろう。
そうしてセレンは誰にも気づかれることなく一人、その場から姿を消すのであった。
♢
「そういえばリア様。セレンとは一緒ではなかったのですか?」
俺たちは今、ガウシアとリア様も新たに加え、赤王の背に乗りドリューゲンへと向かっていた。
そこでふとセレンの姿が見当たらないことに気が付き、リア様に聞いたのだ。
「そういえば……途中まではいたと思うんだけど」
おかしいな。セレンには基本的に俺が不在の時はリア様の警護を頼んでいる。彼女が仕事を放棄するはずがない。少なくとも俺に一回は連絡するはず。
何かあったのか?
「コミュニティカードで一応見てみる? ペアリングはしてるはずだよ」
「そうですね。見てみましょう」
リア様のコミュニティカードにセレンのコミュニティカードの位置が表示される。
「ここから近いですね。一度連絡してみます」
俺は持っていたコミュニティカードでセレンへと通話をつなげようと試みるも、一向に繋がる様子はない。
これは本格的に何かあったのかもしれない。しかしリア様のすぐ近くにいるのにリア様が気が付いていないとなると、聖女になるための儀式中に何かがあったか。
いやそれなら世界樹が気付いているはず。それなら彼女の意思で何かをしに行ったと考えた方が良いか。
だが何のために? セレンが動かなければいけない事情が起こったからか?
なまじ千里眼の能力で世界が見えすぎるがゆえに何らかの未来を見越して行動していてもおかしくはない。
「心配だね。セレン、いつもクロノに迷惑をかけない様にしてたから。自分であんまり背負ってないといいけど」
意外にもカリンからそんな言葉が飛んでくる。どうやら俺の知らないところでたまに親交を深めていたらしい。
「そうだったのか……この様子だとコミュニティカードも置いて出て行ってるっぽいな」
何か嫌な予感がする。その胸騒ぎが俺の中で収まることはなかった。
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