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235話 ゼルン王国の動乱

「撃て―!」


 遠方からの一斉攻撃が魔神族の群れを襲う。エルフの国、ゼルン王国の戦いの主体はこうした遠隔攻撃により、敵の体力を削った後に白兵戦を仕掛ける。

 これが功を奏したのか大方の魔神族たちはゼルン王国の遠隔攻撃に敗れ、地面へと伏していく。しかしそれはあくまで下級の魔神族だけ。

 翼を持った魔神族の力はSランク冒険者並みの力があるとされている。それらはゼルン王国側からひっきりなしに撃ち続けられる能力の応酬をものともせず、進軍してくる。


 そんな中、一際輝く大樹を操り、次から次へと上級魔神族たちを薙ぎ払っていく者が居た。


「皆様! 先頭には私が立ちます!」


 そう言いながらガウシアは世界樹の力を存分に発揮してゆく。しかし王女が戦線のそれも前線に立つなど本来であれば有り得ない話である。

 それが勝利確定とも思えるような戦であり、王女としての名声を高めるためならばまだしも、最も勝利が不確定であろう魔神族との戦いで、ならばなおのことである。


「殿下! 危険ですのでさがってください!」

「ヘルミーネ。この力はゼルン王国を守るために世界樹ちゃんから託されたものです。これを使わず持っておくだなんて可笑しな話ではありませんか? それに……」


 ニコリとヘルミーネに微笑みかけると、決意の籠もった瞳で前方を見据える。

 その奥の方には二つの強大な力を保有する存在が居る。


「私が居なくてはあの二体を対処することが出来ないでしょう?」

「そ、それはそうかもしれませんが」

「大丈夫です。私を信じてください」


 そう言うとガウシアの大樹が無数の蔦へと変貌し、戦場へと駆け巡っていく。


「な、なんだこれは?」

「あれ、段々体力が回復していくような」

「おい、こいつの傷が塞がってるぞ!」


 ガウシアの放った世界樹の蔦は戦場で疲弊している兵士の疲れを癒し、傷を治していく。これこそが世界樹の守り人として選ばれた最強の盾である。


「たとえ魔神でもこの国を滅ぼしはさせません! この国の王女として国民を守ります!」

「共に行きます!」


 一通り兵士たちを癒し終えたガウシアは明らかに他とは異彩を放つ二つの力の内片方の下へと向かう。もちろん、ガウシアの護衛であるヘルミーネも一緒だ。


「好きにはさせませんよ!」


 魔神族を大樹の大質量でなぎ倒しながら力の源泉へとたどり着く。


「これはこれは世界樹の伏兵じゃないか。よく来たねぇ」


 間延びした声に、眠たそうな眼をした少年。いつぞやに見た存在と同じようで実態は違う。


「さてと、退屈だし君で遊んじゃおうかな」

「はああああっ!」


 ガウシアの光り輝く大樹と少年の生み出した竜巻がぶつかり合い、それが更なる衝撃波を生み出し周囲へと伝えていく。


「さあさあ! 僕の退屈しのぎになってくれよ!」



 ♢



 ゼルン王国軍が魔神族を迎撃している一方、世界樹では一人の美しい少女が宙に漂う透明な球体の中で静かに目を閉ざしていた。

 最初の頃は見受けられた力の乱れや精神の乱れもなく、ただ静かに目を閉じていたのだ。


「そろそろ……だな」


 世界樹がそう呟くと、リーンフィリアの周囲に光が集まり始める。それはやがて一つの大きな力となってリーンフィリアの体内へと吸収され、一斉に放出される。

 そしてリーンフィリアを覆っていた透明な球体を弾き飛ばすのである。


「……あれ? 今私、何してたっけ?」

「無事聖女となれたようだな、リーンフィリアよ」


 そうして肩にとまった鳥の姿に擬態した世界樹からそう声を掛けられる。


「言うなれば『光の聖女』といったところか?」

「聖女って言われると違和感はあるけど、こんなに力が(みなぎって)ってくるのは初めてだし変わってるっていうのは実感できるわね」


 リーンフィリアを纏う光が徐々に数本の剣へと象っていき、リーンフィリアに向かってまるで会釈をするかのようにその剣先を下げる。


「ナニコレ凄い。自分の手みたいに自由に動かせるじゃない」

「威力も更に上がっているはずだ。だがゆめゆめ忘れるでないぞ。一夜にして強大な力を手にした者は……」

「騒がしいわね。ちょっと様子見てくるわ!」

「……っと老人の講釈も聞かんかね。最近の公爵令嬢は……コホン、我もついていくぞ」


 世界樹に認められたれっきとした聖女の力を手にしたリーンフィリアは世界樹が放った言葉を完全に無視して音のなる方へと向かうのであった。

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