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231話 魔神族の攻勢

 母の事を思い出し、俺は少し懐かしい気持ちを抱く。そしてだから最初会ったことがあるような気がしていたのかと母の顔に妙に似ているフィーデルの顔を見てそう思う。


「時の聖女ってことはお前も何かの代償を払ってここに来たって訳だな?」


 未来まで時を飛ぶなんて離れ業が神以外に出来る所業とは思えない。俺の母さんは命を代償にして人二人分の時を戻すという力を使った。

 だとすればフィーデルの代償はかなり大きいことだろう。


「さあ、ご想像にお任せするよ」


「そこは教えてくれないのかよ」


 まあ、これに関しては別にただの俺の好奇心だし別に無理やり聞く必要はないけど。

 俺がフィーデルからそれ以上を聞くのを諦めたその時だった。


「ん? クリスから連絡だ」


 俺のコミュニティカードにクリスから連絡が入ってきたのである。


「どうした? クリス」


『どうしたもこうしたもないさ。魔神が復活したんだってね?』


「おっと、そうだったそうだった。すまない。少し立て込んでいて伝えられなかった」


『いや、別にそれで責めるつもりで連絡をしたわけじゃないんだ。連絡したのは魔神族の攻勢について伝えたいことがあったからなんだよ。今、各地で魔神族たちが人間の国を襲い始めてる。そしてメルディン王国も今まさに魔神族の大群に襲撃されているんだ。状況はかなり厳しい。今から戻ってこられるかい?』


 そう言われて俺は遠くに見える魔神の気配を見て少し躊躇う。しかしメルディン王国には俺にとって今最も大事な人の内の一人であるリア様が居る。

 セレンが一緒とはいえ魔王級の奴が出てきた場合、どうなるか分からない。だが魔神の方も気がかりだ。今はまだ復活したばかり。もしかすればまだ聖女が居なくとも俺一人で倒せるかもしれない。

 少しの間考えを巡らせた後、決断する。


「分かったすぐに向かう」


 そう言うと俺はクリスからの連絡を断つ。


「行くの?」


「ああ。リア様が心配だ」


「オッケー。じゃあ私はちょっと準備をしておかないといけないからここに残るね。魔神が世界を滅ぼすまでには帰ってきてね」


「分かってる!」


 フィーデルの言葉にそれだけ返し、駆け出そうとするとそれを引き留めるかのように俺の肩をぐいと引っ張ってくる存在が居た。


「二人して我の事を無視しおって。急いでいるのであろう? 我が力を貸そう」


 その言葉の先に居たのはここドラゴンの地に連れてきてくれたドラゴンの少女が居た。確かにすっかり頭から抜け落ちていたな。他の事が衝撃的過ぎて。

 いやしかし、ここでドラゴンの背中に乗って移動できるのは大きいな。なるべく機嫌を損ねないように。


「いや全然忘れてなかったぞ()()! ぜひお前の背に乗せてくれ!」


()()じゃ。一言で矛盾するでない。まあ良い。我も魔神とやらに同胞を殺されておるゆえ、魔神どもを滅ぼす助太刀は十分にしてやる」


「ありがとうございますっ!!!! ()()さん!!!!」


「赤王じゃ。貴様、わざとだろ」


 そうして俺はドラゴンの姿に戻った赤王の背中に跨り、メルディン王国に向けて飛び去っていくのであった。



 ♢



「迎え撃てー! 国境を絶対に超えさせるな!」


 襲い来る魔神族たちを迎え撃つメルディン王国の騎士団。ドラゴン撃退の任務に取り掛かっていたのが功を奏したのか、魔神族の軍勢が突然襲い掛かってきてもなお、国内へ攻め入らせないことに成功していた。

 その真ん中で騎士達の指揮を執るのは団長であるハル・ゼオグラードである。


 しかし、それも最初の方だけなのはハルも理解していた。『五つの光』として換算されていたのはメルディン王国ではなく、エルザード家である。

 つまり、王国自体にはそれほどの力は無いという事だ。


「他国にも協力要請しているが……頼るのは難しそうだな」


 他国も他国で魔神族の攻勢を防ぐのに必死なのである。協力はその後、とすれば何日後になるか分からない。どうすれば良いのか、そうハルが頭を悩ませていた時、彼の肩を誰かがポンと叩く。


「そんなに思いつめなくて良いよ、ハル。私が来たからにはね」


 そう言って笑いかけるのはクリス。この国の第一王子である。


「クリス殿下! こんな危ないところに来られてはなりません!」


「何言ってるんだい? 危ないところだからこそ私が来なくてどうする?」


 そう言うと前方に向けて能力を発動する。その力はどう見ても一端の学生が出していい程のものではない。クリスの成長率に目を見開いて驚くハルにクリスはこう声を掛ける。


「私の能力は『封印』。奴等の能力を封印できる。能力ごり押しの奴等には有効打だ。そうだろう? 指揮は私に任せてハルはとことん暴れまわってきてくれ。君ぐらいじゃないと上級の魔神族を相手できない」


「承知致しました!」


 そう言って白い焔に包まれた獅子は戦場へと走ってゆく。


「殿下、私達は?」


「『グレイス』は魔神族共の群れに潜入して奴等の首を狩りまくれ。今回、私の護衛は要らない」


「御意」


 そう言うとジオン率いる王の影こと『グレイス』はその場から消え去る。


「クリス、魔王が居る」


「ライカか。魔王は今のところカリンに相手してもらってる。リアとガウシアは?」


「ガウシアとリアは少し前にゼルン王国へ行った。私はここに残った。だから戦う」


 そう言うとライカの周囲に雷が纏われていく。バチッバチッと不穏な音を鳴り響かせて、ライカは続ける。


「クロノに連絡した?」


「うん」


「なら良い。私は少し暴れてくる」


 ニヤリと笑みを浮かべそう言うと、身に余る程大きな槌を手に、凄まじい速さで戦場へと飛んでいく。Sランク冒険者、それが更に強くなったのである。

 これほど頼もしいことはない、そう思いながらクリスは前方を見据える。


「我らの地力を魔神族共に見せつけてやれ!」

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