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224話 本当の力

 ゴツゴツとしたドラゴンの背に乗り、悠々と空を飛ぶ。このドラゴンに言われて俺はドリューゲンに向かっている最中だ。そして現在、俺の後ろにはもう一人ドラゴンの背にまたがっている人物がいる。


「フィー。お前の能力は一体何なんだ」


 カリンやライカならまだわかる。しかし、事情を一切伝えていないフィーがここに来るのはいよいよもってして分からない。彼女の能力が関係しているのだろうがそれにしても早すぎないか?


「君もよ~く知ってる能力だよ、クロノ」


「俺もよく知ってる?」


 フィーみたいな能力の使い手と出会ったことは一度たりともないんだが。それか昔にフィーと会ったことがあるとかか? フィーが何を言いたいのか分からないが取り敢えずこれ以上言及しても口を割らないことを察して話題を変える。


「そういえば魔神を封印するんじゃなくて滅ぼす方法があるって言ってたよな? せめてそれくらいは教えてくれ」


「簡単な話だよ。クロノが魔神を弱らせてくれれば私が仕留められる。ただそれだけ」


「仕留められる? 奴はそんな簡単に死なないぞ」


 一度対峙し、お互いが壊れるまで戦いあったから分かる。龍へと変貌した奴の回復能力は回復能力に特化している怠惰の魔王とは比にならないほどに凄まじく、傷がついた傍からすぐに塞がっていく正真正銘の化け物である。


 何度全身を吹き飛ばそうとも塵一つさえ残っていればそこから復活するまさに不死身の存在だ。それをどうにかできるとは到底思えなかった。


「やったことないけど多分できるよ」


 説得力はないが、その言葉には絶対にできるという確信が籠っている。だがどうしてそうも悲しそうな顔をするのだろうか?


 素性が何一つとして分からないフィー。しかし世界樹がフィーの事を知っていたり学園に入れるほどの後ろ盾が居たりと只者ではないのは確かだ。だからこそ今回の同行を許したのだが。


「あっ、因みに魔神を倒す能力は一回しか使えないからチャンスは一回だけだよ。そこんとこよろしくね」


「分かった」


 魔神を滅ぼすくらいの力だ。一回しか使えなくて当然であろう。まあ魔神が復活しないのが一番なんだがな。


『もうすぐドリューゲンへ到着する。少し加速する故、しっかりしがみついておいてくれ』


 そう言うとこれまで以上の速さでドラゴンが加速し、扉のような物の中へと突っ込んでいくのであった。



 ♢



「ドリューゲンへ向かったのね」


 リーンフィリアは自室で自身の付き人の事を考えていた。なにせドラゴンが住まう他、魔神教団の総戦力が集結しているドリューゲンへ向かったのだから心配して当然なのだ。


 しかし、同時にクロノが黒の執行者であることも知っているリーンフィリアはそんなことを考えるのすら烏滸がましいのかと思ってしまう。


 リーンフィリアがそんな風に物思いに耽っていた時、コンコンと扉をたたく音が聞こえる。誰だろう? 疑問に思いながらリーンフィリアが扉を開くとそこに立っていたのはガウシアであった。


「あら、ガウシアいらっしゃい。どうしたの?」


「どうやら世界樹ちゃんがリアさんとお話ししたいみたいで」


 そう言ってリーンフィリアが顔を上に向けるとそこには青い鳥がガウシアの頭の上にとまっている。最近、あまり意識していなかったがそういえばこれが世界樹の化身とやらであったなと今更ながらに思い出す。


「中に入って。お茶でも飲みながらお話ししましょう」




 机の上に二人分のティーカップと世界樹用のお菓子が並べられている。リーンフィリアは自分でも茶を嗜むため基本的に常備しているのだ。


「ありがとうございます」


 リーンフィリアから茶を受け取るとガウシアは上品な所作で飲み始める。一方世界樹はガウシアの頭の上から机の上へと移動しており、菓子を頬張っていた。


「それで話ってなに?」


「お主の能力についてだ。端的に言おう。お主の能力はまだまだ不完全なままじゃ」


「それは十分、分かっているわ。いつもクロノには助けられてばかりだもの」


 それは主と護衛という観点からすれば当たり前のことかもしれない。しかし、クロノと対等な関係を築き上げたいリーンフィリアにとって守られてばかりいるのは主として不甲斐ないと思っていたのだ。


 しかしそう言うリーンフィリアの言葉を世界樹は首を横に振って否定する。


「そういう事ではない。実力というのではなくお主の能力には根本的に欠けているものがあるのだ」


「欠けているもの?」


「うむ。お主の能力の根幹となる聖なる力が足りておらぬ」


 聖なる力。そう言われてもあまりピンと来ない。


「私の力は光の力よ?」


「いや違う。お主の本当の力の名は『光の破片』ではなく『光の聖女』、どちらかと言えば聖の力だ。何か覚えはないか? 不浄なるものを浄化したことを」


 不浄なるものを浄化したことと言われてリーンフィリアは考えを巡らせる。そしてとあることを思い出したリーンフィリアはあっと声を出す。


「そういえば魔物に姿を変えられていた子供たちを元の姿に戻したことがあるわ。もしかしてそれのこと?」


「うむ、その通りだ。そしてその力はあの少年が近くに居ることで引き出されたわけだが、それだけでは足りない。完全に引き出せるようになるにはまず欠けているピースを補わなければならない」


「そうすればクロノの助けになる?」


「助けになるどころか共に魔神と戦える」


 その言葉を聞いた瞬間、リーンフィリアは机の上に身を乗り出して世界樹へと迫る。


「その方法、教えて!」


「そう焦るな。我が何のためにお主の下へ来たと思う?」


 そこまで言うと世界樹は菓子を食べるのをやめてリーンフィリアの眼を真剣な表情で見つめる。


「我が本体のもとへ来い。そこでお主の欠けている力を補ってみせよう」

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