21話 生徒会
昼休み、俺達が学食へ向かおうとした時、ガラッと扉が開き、男女数名がSクラスの教室の中に入ってくる。
なんだろう?
俺だけが知らないのだろうか。周りの反応はとうとう来たぞと言わんばかりの期待の眼差しを彼らに向けている。
「1年Sクラスの皆さん。貴重なお昼休みにお邪魔してしまい、申し訳ありません。私達はここメルディン王立学園の生徒会です。私が生徒会長のセシル・グラスバーンです」
「俺は副会長のグラン・エスケードだ」
「私は生徒会庶務を務めております、アイリス・スフォーリアです。よろしくね!」
最後に少しキャピキャピした人物が挨拶をする。生徒会にもああいう人が居るんだな。てっきり全員、お堅い感じかと思ってた。
「本日は私達生徒会の新たなメンバーをスカウトしに来ました。といっても私たちが気になっている人だけですけど」
セシル会長はそう言うと、ずらーっとクラスメイトの顔をなでるように見回す。
「私が気になっている子はー、勿論、ライカちゃんかな」
急に名前を呼ばれたライカはビクッと体を震わせる。
「私?」
ぼんやりとした顔でライカがセシル会長に問いかけると、セシル会長はにっこりと微笑んで首を縦に振る。
そして、何を思ったかライカのすぐ目の前までくると、頭をなで始める。
「入学式の時から思ってたけどやっぱり可愛い~」
ライカが特に嫌な反応を示さなかったためか、そのままヒートアップしていき、挙句の果てには机越しにライカを抱きしめる。
その豊満な胸がライカを押しつぶす。押しつぶされているライカの表情はあまり変わっていなくとも、今回は何となくわかる。絶対嫌がってる。
「セシル会長。その辺で止めておけ」
オレンジ色の髪の男子、グラン副会長がセシル会長の肩をトンと叩くと、会長は我に戻り、バイバイと小さく手を振ってライカの下を離れる。
ライカの顔は言うまでもなく無表情である。
「何、あれ。凄く嫌」
「災難だったな」
俺は突然の災難に見舞われたライカを労う。
「会長のせいで少し変になったが、私、グランがスカウトしたいと思っている人物はそちらのリーンフィリア公女殿下だ」
「えっ!? 私?」
先程まで自分は関係ないとライカを可哀想な眼差しで眺めていたリア様の名前が呼ばれる。
「はい。あなたのような高貴な存在を体現している方こそが我が学園の生徒会に相応しい。私はそう思うのです」
今度は副会長が近づいてくるということは無い。
しかし、恍惚とした表情を浮かべながら告げる副会長の顔には少し引いてしまう。良いイケメンが台無しだ。
「で、でもこのクラスには私より優秀な方が沢山いらっしゃる気がするのですが……」
「あなたほどの方が何をおっしゃいますか! 私は貴方こそが最も高貴な方だと、そう思っておりました」
その口調はまるで昔からリア様のことを知っていたかのような口ぶりだ。まあ、不思議ではない。リア様は貴族の中でも特に美人な方として有名だからな。
貴族の世界ではリア様のファンが多すぎるために公爵様が目を光らせているのだとか。本来ならば貴族として出席が必須のダンスパーティにすら行かせない程の徹底ぶりである。そのため、高位貴族では有名なリア様も低位貴族には知られていないことが多い。
「私はクリスくんかな~。カッコいいし」
最後にやたらキャピキャピしたピンク髪の庶務、アイリスさんがクリス王子を指名する。
「是非に」
いつの間に移動したのだろうか。アイリス庶務の手を流れるように掴み、生徒会への誘いを承諾する。
「キャッ」
ポッと顔を赤くしてクリス王子の顔を見つめるが、当人は不思議そうな顔をしている。どうやら生徒会には入りたいが、目の前の女性にはあまり興味が無いらしい。
「じゃあ、これで私達は退散します。今誘われなかった子も是非生徒会に応募しに来てね。ではでは~」
「リーンフィリア様。生徒会室でお待ちしております」
「バイバーイ。クリス君は後で生徒会室に来てね~。生徒会に入るための書類があるから~」
「分かりました! アイリス庶務!」
嵐のように過ぎ去っていった。
「変な方ばかりでしたね」
「そうだな」
一番ましなのが実はアイリスさんなのかもしれない程に生徒会長と副会長のキャラが濃かった。
「ライカはどうする? 生徒会に入るの?」
「絶対ヤダ。リアは?」
「私は、う~ん、迷ってるな」
「まあ、考えてからでも良いと思います。期限があるわけでも無さそうでしたし」
ある意味で自由な校風というところだろうか。いつでも生徒会の人員は入れ替え可能らしい。
流石に上限人数は決まっているため、生徒会に入る人は全員その学年で優秀な人間が入るらしいが。
「何にせよ、取り敢えず食堂に向かいましょう? 私、お腹が空きました」
ガウシアの言葉に同意して、一旦生徒会について考えるのをやめて学食へ向かうのであった。