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191話 危険な話

「こんな残酷な世界に残してしまってごめんなさい。でも……」


「待ってくれ!」


 何かが遠ざかっていくのを防ごうとしてそう叫んで手を伸ばす。あれ? 


 周囲の景色は先程まで見えていた暗い谷底ではなく、公爵家にある自室だ。何だ、夢か。


 久しぶりに全力で戦ったからかあの時の事を思い出してしまったようだ。いつまでも心の中に残っている、自分は生かされたのだという記憶を。


 取り敢えず汗で濡れた部屋着からいつもの使用人の正装へと着替えて部屋を出る。


 あれから結局、奴等が逃げた先は見つかっておらず未だ魔神教団を殲滅できずにいる。一応、本拠地と目されていた場所は壊滅できたから一旦連合軍は解散となったため、近々学園が再開するとのことだ。俺達も公爵家の軍になりはしたが、一旦は学園へ通うつもりである。


 それから俺は使用人の朝の仕事を終え、朝ご飯の準備が出来た頃合いを見計らって、リア様を呼びに行くことになる。


 コンコンコンッ。


「クロノです。リア様、起きていらっしゃいますか? 朝食のご用意ができましたのでお迎えに参りました」


「ちょっと待ってて。すぐ行くから」


 そう言われて少し待っている。朝の着替えは付き人である俺が異性のため大体、女性の使用人がリア様の着替えを手伝う。俺はただ扉の前で待つだけだ。


「お待たせ」


 そう言って出てきたリア様はやはりいつも通りお美しい。


「何してるの。早く行くわよ」


「あっ、はい」


 少し見とれていたら逆にリア様に急かされて朝食の場へと向かう。朝食には公爵様、公爵様夫人様が既に着席していらっしゃる。


「おはようございます、お父様、お母様」


「「おはよう」」


 朝の挨拶を交わし、リア様が定位置にお座りになる。


「そういえばリア。急に戦場に行きたいなんて言い出すから驚いたわよ」


「そう? 元々メルディン王立学園って能力者の育成だから珍しくないと思うんだけれど」


「まだ学生だから驚いているのよ。まああなたには頼れる騎士様が付いているから心配はしていないけどね」


「そうね」


 リア様の反応を見て夫人様はへえと感心するような眼差しを向ける。


「前まではそうやって言うと怒っていたのに今日は怒らないのね」


「だって本当の事だもの。怒る必要なんて無いわ」


「な~んだ、いじりがいが無くなったわね」


「ハハハッ! リアも成長したという事だよ」


 確か騎士様って直に言われたしな。今更恥ずかしがることもないかもしれないとぼんやりと思い出しながら話を聞く。


「そういえばクロノ君って好きな人は居ないのかい?」


「はい?」


 突然公爵様から振られた話題に困惑したような声で返事をしてしまう。


「好き……というのは?」


「交際したいと思っている人は居るのか、ということだ」


 なるほど、リア様の次は俺か。ていうか何故だかリア様もわざわざこちらを振り向いていらっしゃる。


「特にこれといった方はいらっしゃいません」


「ほう。リアやカリンはその対象ではないと」


 何だろう。滅茶苦茶圧をかけられている気がするんだけど。ていうかいきなり何でこんな質問を一使用人の俺にぶつけてくるんだ。


「えーと、それはそのー……」


「おはよう!」


 俺が答えに詰まっていると部屋のドアを豪快に開けてカリンが入ってくる。


「ごめんごめん。少し遅くなっちゃったよ……って皆どうしたの?」


 無言でいる公爵様達の異変をいち早く察知してカリンが尋ねる。


「いや、何でもない。さあ、揃ったことだし食べ始めるとするか」


 ナイスだカリン。公爵様達からの危険すぎる質問から逃れられた俺はカリンに感謝すべく心の中でそう呟くのであった。

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