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188話 暴食vs執行者

 前方で先程よりも激しい轟音が聞こえてくる。カリンたちが戦闘を開始したようだな。幾度となく響き渡る地鳴りがその激しさを象徴している。


 俺が到着するまでの間に討伐が成功していたらそれはそれでいい。問題は、俺が到着する前にカリンたちが暴食の魔王を前にして敗れることだ。


 その焦りに呼応して段々と走るスピードが上がっていく。そんな時、ふと前方から先程までとは毛色の違う気配を感じ取る。間違いなく奴の仕業だ。近いぞ。


 そう思った俺は更にスピードを上げ、目の前の景色に勢いよく飛び出し、今にもカリンたちに降りかかろうとしている巨大な拳目掛けて全力で殴りかかる。


 俺に殴られた魔王の拳は触れた瞬間に弾け飛ぶ。そしてまるで何もなかったかのようにすぐに再生し、元の姿へと戻る。


「待たせたな、カリン」


 遅れたことを詫びるため、カリンに向かって俺はそう呟く。それを聞いたカリンも頷いてくれる。


「え? 黒の執行者様が二人? ど、どうなっているのですか?」


 不意にそんな声が聞こえてくる。カリンしかいないだろうと思っていたから油断していた。そこには不思議そうな顔をしているガウシアと相変わらず無表情の癖にため息を吐いて呆れているようなライカの姿があった。


 というか待てよ。黒の執行者が二人? ってことは……。


 辺りを見回すと全身から煙を上げており、今にでも倒れてしまいそうなもう一人の黒の執行者が居た。あいつが噂に聞いていた偽物の黒の執行者か。俺の真似をしているのかはたまた武具を着ていたら自然とああなってしまったのか。


 まあそんなことはどうでも良いか。一旦、目の前の脅威から片付けたい。


「カリンさん、暴食の魔王は辺りに倒れている者達からでも力を吸収します。俺が戦っている間にその人達を遠くへ移動させてくれませんか?」


「分かった。任せてよ、執行者さん!」


 俺の話し方から察してくれたカリンはあたかも正体を知らない風に答えてくれる。後ろでガウシアから質問攻めに遭っているのが聞こえてくるがそこはカリンに任せよう。


「何せ俺も相手するのは初めてだからな」


 暴食の魔王。魔王の中でも特に異質な能力を持ち、戦闘能力だけで言えば魔神に次いで強いと言われる魔神族だ。いくら俺が魔神に引き分けたとはいえ、それだけで慢心できるような相手ではない。


「最初から全力だ」


 周囲に危害が加わらないことを確認して、一気に破壊の力を高めていく。そうして高まった破壊の力を暴食の魔王に向けて一気に解き放つ。


破壊の光芒(デストラクション)


 全てを破壊しつくす黒い閃光が魔王に向かって一直線に発射される。対する魔王はその大きな口を開いていく。


悪食(グラトニー)


 魔王の口から巨大な渦の様な物が現れ、それが俺の攻撃を吸収せんとして纏わりついてくる。どちらの力が上回るか、その格差はもう歴然たるものであった。


 俺の攻撃は暴食の魔王の吸収を意にも介さず、そのまま魔王の体を貫いたのである。しかし、巨大が故に一気に全ての細胞を消し去ることはできない。一瞬にして再生し、元通りになる。


 普通の魔王であれば怠惰の魔王の力を使っていたあの少年のように攻撃し続ければ回復力が落ちていくが、こいつに関して言えばそうもいかない。


 周囲から常に力を吸収し、体力すらもそれで回復するため、カリン達が周囲の人たちを魔王の力が及ばない程遠くまで運んでくれるまではほぼ無限に回復していく。


 というかこれも早くしなければならない。魔王に力を吸収され続けている者は直に能力が枯渇し、疲弊してしまう。


 ちらりとカリン達の様子を眺めようと、視線を移すとその光景に驚愕する。アークライト家の家紋が目に入ったからだ。リア様達と合流して駆けつけてくれたのだろう。暴食の魔王は今、俺に集中している。そのため、俺以外の者に攻撃するまで気が回らない。


 他にもいろいろな家紋の兵士たちや冒険者たちが意識を失っている者達をひっそりと運んでいっている姿が目に入る。


 今なら近くに倒れている人が居ないから安心だ。なら、俺がするのは一つのみ。


「そろそろこの場所も飽きてきただろ? 移動させてやるよ!」


 虚空で拳を振るう。その拳は次々と空間を破壊していき、やがて魔王へとたどり着いたときにはすさまじい衝撃波となって激突する。そうして衝撃波によって吹き飛ばされた暴食の魔王を追いかける。


「よう、自分より小さい奴に吹っ飛ばされた気分はどうだ?」


 地面に倒れ込んでいる魔王の腹の上にトンと着地する。それにいら立ったのか、魔王は口を大きく開き、魔獣の様な咆哮を繰り出す。魔王ともなればこの咆哮ですら驚異的な威力を持つわけだが、破壊の力を持つ俺には残念ながら効くことはない。


 代わりに周りの緑や大地が枯れ果てていく。


 こいつ、本当に何でも食べるんだな。


「まあ良いさ。これでようやく思う存分戦える」

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