18話 実習授業
Sクラス全員が指定された実習場に集まる。初回の授業でいきなり実習ってどんなカリキュラムだよと疑問には思ったものの、そもそもSクラスの人間に教えられることが少ないから他のクラスとは違い、基本的には実習授業になるらしい。
俺はそっちの方がありがたい。わざわざ知っていることを聞くだけの授業程面白くないものは無いからな。
「よし! 皆、揃ったな! では、これから実習訓練を行いたいところなんだが、その前に二人ペアを作る。今から俺がお前らの能力強度を見てペアをつくりたいところなんだが……」
ギーヴァ先生はそこまで言うと、一枚の紙きれを見ながら押し黙る。恐らくあそこに俺達の能力強度が書かれているのだろう。
「一人、規格外なやつが居てな。どうしようか迷っているところだ」
ああ、そのことか。規格外というのは間違いなくあいつのことだろう。
「先生。もしかして規格外というのは私のことでしょうか? 確かに私は周りからは天才王子だのなんだのと呼ばれておりますが、下の者に合わせるくらいはできるかと思いますよ?」
クリス殿下が恥ずかしげもなく手を挙げて発言する。うん、君じゃないと思うよ。
「いや、クリス。お前のことじゃない」
「アハハッ、そうでしたか。それは残念」
ギーヴァ先生の短い否定の言葉に軽く笑うと、クリスはその上げている手を降ろす。あまり気にしていないようだ。
それってもしかして俺の事じゃないか?と声を上げ、戦場に儚く散っていった歴戦の猛者たちのようにはならない。流石はメルディン王国第一王子。恐るべし。
「ライカ。お前のことだ」
だろうな。
ギーヴァ先生がそう言うと、全員の視線が幼い見た目の白髪少女に向く。当の本人は素知らぬ顔でぼんやりとギーヴァ先生の方を見上げている。
「私は大丈夫」
「いや、お前が大丈夫でもペアの奴が大丈夫じゃないんだ」
「そういうことじゃない。私の相手ができる人がいるから」
そう言うと、ライカが俺の方を指差す。
おいおい、面倒なことをこっちにまで持ってくるんじゃないよ。今、この場に居る全員の視線が俺に突き刺さってるじゃないか。
「クロノのことか? あいつの能力強度は確かに高いが、このクラスではそうでもないぞ?」
おいおい、ギーヴァ先生や。それを本人の前で言うかね。俺じゃなかったら泣き出しているところだ。
「クロノじゃないと私の相手は務まらない」
頑なに言い張るライカにギーヴァ先生がやれやれと頭を掻く。
「う~ん、そこまで言うならクロノ。ライカの相手をしてやってくれ」
そんな投げやりで良いのかよ。というか俺には既に先約が居る。
「先生、すみません。私はリア様と組みますのでライカと組むことはできません」
これは決定事項である。俺はリア様と組むと決めているのだ。
「おいおい、お前もそんな調子かよ。困ったな」
本当に困り果てているようだな。だが、それで意見を変える俺ではない。
「ちょっとクロノ。先生を困らせちゃダメじゃない。そもそも私はまだあなたと組むとも言っていないし」
「私がリア様と組みたいのです」
「もう、嬉しいけどそれじゃ授業が進まないわ。先生、私はガウシアと組みますので気にしないでください」
「おお! それはありがたい。じゃあクロノ、お前はライカと組んでくれ」
「ええ、リア様~」
リア様に目の前で振られてしまい、俺はショックを受ける。
「仕方ないでしょう。こうするしかなかったんだから」
そうして、Sクラス全員のペアが決まり、大きな実習場の中をペアで固まって広がっていく。ある程度広がったのを見計らい、ギーヴァ先生は開始の合図を出す。
「たく、お前が居る時から薄々こうなるとは思ってたよ」
「ふふっ。組んでくれてありがと」
普段表情を見せない彼女がニコリと微笑む。
普通の人ならばこの可愛らしい笑顔に心を射抜かれる者もいるだろう。しかし、ライカのことをよく知っている俺は違う。こいつが表情豊かになるということは臨戦態勢に入ったということだからだ。
バチバチッと白い髪の毛が逆立ち、目の色も赤く燃え上がっていく。
その姿は誰もが見たことがあるだろう。戦場を迸る雷。その嬉々として敵を破壊する様は正に脅威の一言。そんな彼女に付けられた二つ名が『雷姫』。
「どこからでもかかってこいよ、Sランク冒険者さん」
「うん、そのつもり」
ライカが雷を纏ってこちらに突っ込んでくる。
ドガンッ!!!!
「待て! お前ら! やり過ぎだ!」