17話 初授業
あれから4人で教室に入り、そのまま固まって席に座る。
一番左が俺、その隣からリア様、ライカ、ガウシアの順番で席に着く。
「そう言えば気になっていたのですが、クロノはどうして私達の一歩後ろを歩いているのですか?」
「リア様の付き人だからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
俺の中ではそこだけは譲れないものがあった。
「頑固だと思わない?」
「頑固です」
「……頑固」
酷い言われようだ。どうしよう。
俺が困っていると、教室にギーヴァ先生が入ってくる。
「お前ら、出席とるぞー」
そう言うとギーヴァ先生は一人ずつ名前を読み上げていく。
「よし、登校初日は遅刻なし、と。流石はSクラスだな」
パタンと名簿を閉じると、ギーヴァ先生は紙の束を机の上に置く。
「魔神族が復活しちまったせいで去年までできなかったが今年からまた各国の学園同士で競い合う、闘神祭が開かれることになった。この紙は闘神祭のための選考試合への出場希望の紙だ。じゃあ、後ろにまわしてくれ」
闘神祭というのはギーヴァ先生が言った通り、全国の学校の猛者たちが集まって、その年の闘神を決める祭典のことだ。これで闘神に選ばれれば、将来の出世ルートが確定するので誰もが目指す。
どうするか。俺は正直言ってあまり興味が無い。公爵家で一生過ごせたらそれでいいと思っているからだ。
まあ、何かのために出ておいても良いかな。
「はい、クロノ」
「ありがとうございます」
リア様から紙を受け取ると何気なく目を通す。ん? なんだこのサブタイトルは? 黒の執行者を称えて?
「そう言えば今回の闘神祭は先の戦いで最も活躍した黒の執行者様を称えて、闘神となった者にその象徴として黒い鎧が与えられるらしい」
その説明に俺は軽く頭がふらっとする。これは夢か何かだろうか。すっごく恥ずかしいんだが。
「まあ、素敵ですわね!」
こちらに一人お喜びになっている方がいらっしゃいます。何を隠そう彼女こそはエルフの国、ゼルン王国の第一王女にして黒の執行者の大ファンであるガウシアさんだ。
「……」
ライカは相変わらず何を考えているか分からない。毛先をいじりながら無表情のままである。
というか、ライカにどうしてこの学園に来たのか聞こうとしていたのに結局聞けなかったな。主にタメ口で話せ案件のせいで。
「正直、そんな鎧を貰ってもどこに置けばいいんだよ!と思うやつも居るかもしれないが、安心しろ。生徒が持ち帰れない場合は学校に送られてそのまま飾られるそうだ」
言っちゃったよ。まあ、確かにトロフィーならまだしも鎧なんて欲しくないわな。重いし、邪魔だし。
「ちなみに闘神祭の選考大会は本来なら2年からしか受けられないが、Sクラスだけはどの学年も受けられる。いい機会だと思って挑んでみると良いぞ」
周りを見渡すと迷っている者は居ない。どうやらこのクラスは大半が選考大会に出るらしいな。
まあ、体育祭みたいなもんだし俺も出よう。楽しそうだ。
俺はそう思い、参加のところに丸を付ける。
「クロノも出るの?」
「はい。なんだか楽しそうですので」
「珍しいわね。普段はあんまり実力を出したがらないのに」
「ハハハッ、今回もほどほどにしておきますよ」
別に実力を出しても良いのならいくらでも出す。しかし、黒の執行者という名前がこうも広まってしまっては俺の願望である公爵家に仕え続けるということができなくなってしまう。
そのために隠しているのだ。
学生が相手の闘神祭くらいなら本気を出さなくても別に大丈夫だろう。
俺は紙を前に回す。
「よし、全員参加だな。じゃあ、連絡事項を伝え終わったところで早速1時限目の授業だ。実習場に来い。選考大会のための授業をする。準備体操をしっかりしてから来るんだぞ?」