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131話 影の世界

 とある要塞にて二人の少女が大勢の武装した兵士たちに取り囲まれている。そしてその中央に位置するのが竜印の世代、ダーズ・クラウンである。


 二人の少女、リーンフィリア・アークライトとセレン・イズールは四方八方から絶え間なく繰り広げられる攻撃を尽く防ぎきっていた。


「すごい、相手の動きが手に取るように分かるわ」


「そりゃそうでしょ。私の目を共有してあげてるんだから」


 セレンは当然だと言いながら目の前の兵士に蹴りをお見舞いする。彼女の能力が異端である一つの理由は正にこのことにある。自身の見た世界を味方と共有することができるのだ。嘗て竜印の世代が傷一つなく魔神族との戦いに勝利してこられたのは彼女のお陰であった。


「だったら最初からしてほしかったわ」


 リーンフィリアは最初、セレンが自身に対し右、左など声で指示していたことに不満の声を上げる。この能力が発動されたのはつい先ほどなのである。


「それは無理ね。あなたが私の事を信頼していなかったから」


「そういうことね」


「戦闘中におしゃべりとは余裕だな」


 その声と共に二人の立っている地面に大きな影が生まれ、ダーズが飛び出してくる。それも千里眼の能力で読んでいたリーンフィリアは光の剣でダーズの小太刀を受け止める。


「ちっ、能力強度が低いくせになんで俺の攻撃を防げんだよ!」


「昔からクロノに手合わせしてもらってたからかしら。それに比べたらなんてことないわ」


「はっ、道理でな」


 光の剣によって攻撃を防がれたダーズは身をひるがえしてその場を離れる。その時にはもうセレンとリーンフィリアの手によって家来たちが全て倒されていた。


 人数不利から一転してリーンフィリアたちの方が優勢となる。その状況にダーズは嘆くわけでもなくただ呆れたように、はぁとため息を零す。


「たくっ、何の役にも立たねえなお前らは。何のためにエルザード領で鍛えられてきたんだ。セレンにならまだしも一学生如きにも負けるとはな」


 エルザードは独自の訓練を自身の家来たちに施す。それはそれは過酷なもので末端の一人一人が他国の精鋭として数えることができるほどにまで洗練されていた。その兵士たちを学生という身分で倒したリーンフィリアは異常といってもいいくらいなのである。


 しかしダーズの中ではリーンフィリアが異常という考えに至ることはなく、ただ単純に自身の家来たちを学生に敗北した未熟者という考えに行きついた。だからこその怒りと呆れであった。


「こんな弱い奴等に使うのも癪だが仕方がない。影の暗黒世界(シャドウディストピア)


 その瞬間、ダーズを中心として部屋全体に渡って濃密な影が展開される。その影はやがてダーズの体をも呑み込む。全身を真っ黒に染められたその姿は、影と見分けがつかない。これが能力「影と同化する者」の名前の由来である。


「影人形」


 そう呟くとリーンフィリアとセレンを取り囲むようにしてダーズと同じ見た目の分身が現れる。全身が真っ黒に包まれ、目の部分だけ赤く光るその不気味な様相は英雄というよりも化け物という言葉の方が似合っていた。


 影人形たちは手にダーズと同じ小太刀を持ち、リーンフィリアたちに襲い掛かってくる。


光の剣(ホーリーブレード)!」


 リーンフィリアが一体の動きを止めるもその隙にもう一体が懐へと潜り込み、小太刀を振るう。エルザード領で最も隠密に優れているダーズの攻撃は光の速さを持つリーンフィリアですら対応することが出来ず、そのままその一太刀を浴びる。


「痛っ」


「ちっ、その鎧厄介だな」


 光の鎧に軽減されたとはいえ、能力強度が格上の相手による攻撃にリーンフィリアは体勢を崩す。対するダーズは当主の命令で殺しきることもできず、かといって気を失わせるほどの攻撃をしても光の鎧がそれを阻む状況にいら立ち、舌打ちをする。


「取り敢えず拘束しておくか」


 先程の攻撃で体勢を崩したリーンフィリアの足元の影から漆黒の鎖が生成され、リーンフィリアの体を縛り上げる。見た目はただの鎖だが、その強度は最早ただの鎖ではない。光の鎧を纏うリーンフィリアですら身動きが取れなくなるほど頑丈なものであった。


「後はお前だけだ、セレン」


「まったく、私の目を共有してあげているのに負けるなんてねぇ」


 厳しい目を向けるダーズに対してセレンは茶化すようにそう呟く。既に十体の分身に取り囲まれていたセレンにとってそれは最早、勝敗が決しているようなものだったからである。


「お前の処罰は後でお館様に判断を仰ぐ。そこでおとなしくしておくんだな」


 そうしてリーンフィリアと同様、セレンも影に束縛される。やがてその鎖からも影が広がっていき、二人とも影に呑み込まれていく。


『見つけた』


 勝利に浸ることもせず、ただただ当たり前とでも言いたげな様子で近くにあった椅子にどかっと座ったダーズの耳元にふとそんな声が聞こえた気がした。


 ダーズは驚き、広々とした部屋を見渡すもそこには自身の家来たちの倒れた姿しかない。何だ気のせいか、そう思い自身の家来たちをも影に呑み込んだその時、凄まじい衝撃音を伴って天井から何かが降ってくる。


 その人物の姿を見とめた瞬間、ダーズの思考が停止する。慄きながらただ、どうして、と繰り返すだけであった。なぜなら、本来であればまだ魔神教団の枢機卿たちによって足止めされているはずのクロノの姿がそこにあったからである。

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