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129話 覇王

 競技場内に立ち込める地煙。その中心には一人の大男に剣を突き立てる少女の姿があった。


「ガフッ……ま、まだ、まだ終わっていないのである!」


 ガインは息も絶え絶えな中でその驚異的なまでの回復力で体を動かし、剣を突きさすカリンの足を払う。既に全力を出し尽くしていたカリンはいとも簡単にその場で尻餅をつく。


「ハァ、ハァ、これでもまだ生きてるだなんて」


 腹を黒い刀で貫かれながらも立ち上がったガインの姿を見て、カリンは絶望しながらそう呟く。最早、全力を出し尽くした後であるカリンとジオンは立ち上がる気力すらわかないのである。


「当然である。我は、魔王、として、魔神を()()()()()まで終われ、ないので――」


 そこまで言ってガインから次の言葉が続くことはなかった。ただ、何も発することなく仁王立ちでまっすぐと前を向いていた。最初は不思議に思っていたカリンは強大な力が一つ跡形もなく消え去っていることで目の前の存在が亡くなっていることを理解して、ふぅっと人知れず安堵のため息を吐く。


「よかった。約束通り、後は頼んだよ」


 そう呟くとカリンの意識もそこで途絶えるのであった。


 ♢


 ~時は魔神族との戦いがあった約2年前へと遡る~


「よお、ガイン。お前、今日も魔神族をかなり葬ったらしいじゃねえか」


「まあな。といっても全て翼の生えていない下位魔神族か中位魔神族であるが」


「それでも凄えよ。俺達Aランク冒険者なんて中位魔神族一体仕留めるのにも10人は必要なんだからな。やっぱりSランク冒険者様はちげーぜ!」


 そう言うとガインに話しかけてきた冒険者はガッハッハと豪快に笑う。ガインもそれにつられてフフッと笑みをこぼすが、彼の中ではその称賛があまりしっくりきていなかった。ある存在が彼の頭の中で引っかかっていたからである。


「そういえば今回の侵攻、イライザはどうだったんだ」


「ああ? あいつか? そりゃあいつも通りバシバシ倒しまくってたって話だ。それこそあいつの前じゃ上位魔神族も何のこたぁねえからな。それがどうしたんだ?」


「そ、そうであったか。いやなに、少し気になっただけである」


 少し気になっただけ、そう言葉では言ったものの実際はそんなことはない。またやられたか、と少し肩を落とすのであった。イライザとは能力強度現一位であり、最強の冒険者でもある。ガインは同じSランク冒険者だというのに彼女との差があまりにも大きく、その功績を聞くたびにいつも誰にも悟られないように一人劣等感に苛まれるのであった。


「お? ガイン。もう帰るのか?」


「ああ、今日は依頼で疲れた。もう寝る」


 そういうとガイルはそそくさとギルドを後にする。いつもならば祝勝会にでも参加して士気をあげるところなのだが、今日は違う。ある出来事がきっかけでとても勝利を祝う気にはなれなかったのだ。


「あのイライザと一緒に居た子供……只者じゃない」


 最近、耳にはしていたイライザの連れ子。聞くところによるとイライザが実力を見出して孤児院から預かったらしい。最近、冒険者登録をして既にAランク冒険者であるとまでは聞いていた。しかし今日見たあの実力は……。


「最早Sランク、まだ俺よりかは弱いが……」


 いずれ越えられる。いつだって才能は軽々と先に歩いている者を超えていく。まるでそこに何も障害が無かったかのように素知らぬ顔で歩いていくのだ。凡人が苦労したその道を。かつて天才と謳われ、最強を志していた男は一人寂しく宿屋の自室へと戻り、更なる天才の出現に打ちひしがれていた。


「……ま、まあ、何だ! 味方だと思えば心強いじゃないか! そうだ! 心強いさ!」


 ハハッと乾いた笑い声をあげると、ガインはベッドに横たわり、目を閉じるのであった。

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