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128話 覚醒

覇嵐(はらん)!」


 カリンの振るった1つの大きな斬撃が2つ、3つと分裂し、次第に無数の赤黒い斬撃の嵐となってガインの四方八方を囲い込む。


 その斬撃の嵐に見初められたものは最早逃げることは叶わない。普通ならば圧倒され、絶望するものであるが、目の前の男の目には絶望とは程遠い余裕の笑みが浮かんでいる。


「今更こんなもので我が狼狽えると? 煩わしいだけである!」


 そう叫ぶと同時にガインの両腕だけに纏われていた禍々しいオーラがゆっくりと全身を覆っていく。蛇の如く緩慢に動くそれはいつしかガインの全身を覆いつくし、濃密な力へと変化していく。


「グオオオオオ!!!!」


 獣の様な雄たけびを上げて全身に迸る激しい痛みを耐え忍ぶ。この技をガインは成功はおろか試そうとしたことすらなかった。かつての魔王のように全身に“傲慢の力”を張り巡らせるにはSランク冒険者として成功したガインの体ですら耐えきるのは難しいと判断していたからである。


 ではなぜ今この状況で発動したのか。それはガインが()()()とは思っていながらも()()()()とは思っていないからである。


雪化粧(アイスメイク)


 ガインの変化に気付き、その危険度を察したジオンは一瞬にしてカリンの放った無数の斬撃の一つ一つに氷の属性を付与する。勢いを衰えさせることなく、寧ろ勢いを増した氷の斬撃が傲慢の力を抑え込もうとしているガインの下へと降り注いでいく。


 対するガインはその攻撃に対して何ら反応を示すことはない。ただ、自身の内に潜む強大な悪魔との戦いに身を投じているのみであった。


 そして、斬撃の嵐が衝突するその寸前、ガインの体を蝕んでいた傲慢の力のオーラが突如として体の中に吸収されたかのようにして姿を消す。次の瞬間には幾多もの斬撃を全身に受けるガインの姿があった。


「……手ごたえはあったけど」


 氷の斬撃により舞い上がった土と氷の結晶が入り混じった煙を見てカリンは呟く。斬撃のそのどれもがガインの体を切り刻んだ感覚が確かにあったもののまったく動きのない煙の中から未だ力の波動を感じ取れることに言いようのない不安感を抱いていた。


氷闇(ひょうあん)(つるぎ)


 対してジオンはガインの息がまだ残っていると考えて、氷の中に闇をはらんだ数十にも及ぶ剣を作り出し、煙へと放つ。相手は手負い、されど手を抜かないのが第一王子専属部隊グレイスの決まりだ。


 そうしてジオンの放った剣は見事ガインの全身を貫……くことはなかった。


「ハハハハハハッ!!!! これこそが! これこそが我の求めていた最強の力ァッ!!!!」 


 突如として生まれた膨大な力が剣もろとも煙を吹き飛ばし、中から全身を純白に光らせた()()が笑い声を上げながら姿を現わした。


「これは不味い、あの時の魔王と同じくらいの力を感じる」


 数年前、討伐まではいかなくとも撃退に成功した怠惰の魔王をカリンは思い出す。あの時は竜印の世代が5人そろっていたからこそ撃退を成し遂げられたことであり、今この場にジオン以外戦えるものがいないことに強い焦燥感を覚えていた。


「次は私から仕掛けます。カリン殿は相手の隙が出来た瞬間に()()を叩き込んでいただければ」


「全力……ね。その口調からして私の能力をある程度知ってそうな感じだね。分かったよ。その代わり()()を使ったらしばらく動けなくなるから後はよろしくね」


「お任せを」


 嘗て魔王を撃退した時の力、それは他の者ではない、カリンが勇者であるからこそ体得しえた妙技であった。カリンはあの時よりも数段強くなっている。それこそ魔王を討伐することも適うほどにまで。


勇王顕現(ゆうおうけんげん)!」


 カリンの力が目の前の魔王と遜色ないくらいに増幅する。通常、勇者の力は使用者の能力強度を10倍にまで引き上げるだけの能力である。しかし、カリンのこの力は通常時の1000倍にまで能力強度を増幅させる。まさに勇者の中の王。これが人類史上最強と謳われたカリンの真なる奥義なのである。


「いくら貴様が強くなろうと関係ない。完全なる魔王の力に目覚めた我は全ての能力を無効化するのである」


「でもその力を使っていた傲慢の魔王は黒の執行者にやられていた。ということは無効化するのにも限度があるってことだよね?」


「フンッ、黒の執行者でもない貴様にそれほどの力が出せるわけがないであろう」


「さあ、それは分からないよ」


 二者の視線が交わった刹那、二人の体が一瞬にしてその場から姿を消す。と同時にジオンも次なる一手を打つべくその手を前方へと掲げていた。


冥府の闇氷(コキュートス)


 生み出されるは氷の理想郷(ユートピア)。銀世界の至る所ではガインを貫かんと氷でできた無数の槍が降りかかっていく。その尽くがガインの体に触れるたびにまるで一瞬で気化したかのように姿を消す。


「そんなもの、今の我には全く以てを意味をなさないのである!」


「意味があるかは私が決めることだ」


 無表情でそれだけを告げると、ジオンは空に向かって右腕を上げる。いつの間にか銀色の地面に大きく黒い影が映っていた。これこそがジオンが現状出せる最強の技。この技を当てるためだけにわざと効かない攻撃をし続けていたのである。


氷闇の水晶(ダーククリスタル)


「ほう、これは驚いたのである。まさか王国がこれほどの駒を隠していたとは」


 最初は気にもとめていなかったガインはその技を今まで通りに受けては不味いと思ったのか足を止め、頭上にある巨大な氷塊を見上げる。


「だがそれも我の力の前ではやはり無力」


 そう言うとガインの背中から二対の翼が生え、空へとはばたき、拳を走らせる。


「傲慢なる魔王の拳、名付けて魔王拳(まおうけん)!」


 ズガアアアアアンッ!!!!


 ガインの拳が氷塊に突き刺さるも今までのようにすぐに消えることはなく、力がせめぎ合う。


「フンッ!」


 力がせめぎ合ったのはほんの少しだけの時間で、ガインが拳を振り切るときにはジオンの作り出した巨大な氷塊は姿を消した。しかし、技を打ち砕かれたというのにジオンは驚くことなくさらに上空に飛び上がり自身の技の後ろに隠れていた何者かの姿を見つめていた。


勇王の剣(ブレイブソード)!」


「何ッ!?」


 先程の巨大な氷塊よりもさらに大きく赤紫色に燃え上がるカリンの剣がジオンの技を打ち砕き、無防備となっているガインの腹へといとも簡単に突き刺さる。


「ぐわあああああッ!!!!」


 それは全ての能力を無効化するガインの能力を上回った瞬間であった。そのままガインとカリンは勢いよく落下していく。


 ドガアアアンッ!!!!


 凄まじい衝撃波を伴いながら二人は地面へと衝突する。その勢いは競技場のほとんど全域が吹き飛ばされるほどであった。

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