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121話 大男

「カトリーヌ、兄上を頼んだ」


「はいよ、隊長」


「ちょっと待っ……」


 ジオンの言葉の直後に姿を現したカトリーヌはハルの制止を聞く間も無く背負ってそのまま姿を消す。大男が気付いていた時、操られていた王国騎士たちはすでに地面に倒れ伏していた。


「なんだぁ? さっきの奴より弱そうな奴が来やがったな。我に勝てるつもりか?」


「よし、観客の移動も完了したな。これもクリス殿下の能力があってこそ」


 傲慢の魔王の子である大男の問いかけに全く耳を貸さず、ジオンはステージから観客席の方を見回し、そう発言する。


 対する大男はそのジオンの態度にイラつきを覚えたようにこめかみにピキッと線が走る。


「見たところただの学生が身の程を弁えずにこの場に来た感じであるな。ならば我が教育してやる」


 そう言うと大男はジオンに向かって拳を振りかざす。


「覇王拳!」


 極太の腕が大きな衝撃波を伴いながらジオンの下へと迫っていく。


「さっきと同じ技か、芸がない」


 避ける素振りも見せないジオンに大男の拳が突き刺さろうとした途端、突如として振り抜かれた拳がピタリとその勢いを止める。


「こちらの能力が通じないのは腕だけだろう?」


 大男は自分の足を見下ろし、いつの間にか地面に凍結されている事に気がつく。


「我が気付かぬ早さだと? ありえん!」


 大男が少し力を入れるだけでパリンっと氷は砕け散る。自由の身となった大男は目の前にいる白髪の少年をギロリと鋭い眼光で睨みつける。


 格下だと思っていた相手に止められたことに対して苛立ちを覚えているのだ。


氷の鎖(アイスチェイン)


 大気中の水分を一瞬にして自身の思いのままに操る無数の氷へと変貌させる。そしてキラリと反射して光る氷の鎖は這うように四方八方から対峙している大男を捕えんと降りかかっていく。


 バキンッ!


 それを大男はその場から動きもせずに拳をひとたび振るうだけで木っ端みじんにする。


「この程度で我が捕らえられるはずがない。所詮は弱者よ、強き者である我には敵わない。先程の弱者同様、貴様も叩き潰してくれよう!」


 強い殺意を持って大男はジオンへと飛び掛かる。さながら鬼神のようなその顔つきは常人ならば見ただけで恐怖に震え上がるであろう。


 しかし、ジオンは違った。ただ淡々とその突進を眺めると、前方に向かってスッと片手を差し出す。


冥府の闇氷(コキュートス)


 その刹那ピシンッと世界が銀色に包まれる。大気に飛び交っていた鳥たちも自分たちの状況に気が付かず、逃げる様子も見せないまま、その場で凍り付いている。


 本来であれば、凍った小鳥は落下するはずだというのにその一帯の大気までもが凍り付いているせいなのか時が止まったかのようにその場にとどまっている。


 肝心の大男はというと、やはりこれも拳を引いたままの姿勢でかっちりと凍り付いている。


「……兄上は弱者ではない。仲間が操られている状況では万全な力を発揮できなかった。ただそれだけだ」


 スウッと懐から小刀を取り出し、スタスタと氷の像と化した大男の下へと歩いていく。


「これでおしまいだ」


 大男の目の前にたどり着くとその洗練された神の如き速さで大男の首元をめがけて斬りかかる。


 カキンッ!


 すると、小気味の良い音が鳴り響き、ジオンの持っていた小刀が真っ二つに割れる。本来であれば体が二つに分かたれるはずが逆に自身の持つ小刀が半分に折れたのを見て、ジオンは驚きに目を見開く。


 そして徐々にピシ、ピシッと大男の体の至る所からひびが入っていく。


「完全には凍っていなかったか」


 自身が作り出した氷にできた罅を敏感に感じ取り、凄まじい速さでその場から離れる。


「ああ、うざったい!」


 そうして声を荒らげて大男が氷の中から姿を現わす。普通ならば凍り付いた影響で身体能力が少し低下していてもおかしくないのだが、大男の体からはそのような異常が起こっているようには見えない。


「それも腕の能力のおかげか」


 大男の能力の一つである腕の部分だけ相手の能力を無力化させるもの。ジオンの力が強大であったがゆえに一度は凍ったものの大男の能力によって緩和され、表面しか凍り付いていなかったのだ。


「搦手ばかり使いおって。我がその気になれば貴様如き一瞬で倒せるのである!」


 そう言うと大男の力がどんどんと膨れ上がっていき、それまでと比べて格段に増大していく。その余波により、大男が身に着けていた白色の仮面がパキンッと音を立てて割れて素顔があらわになる。


「……お前は」


 普段表情を変えないジオンですら素顔の意外さに目を細める。それもそうだろう。その顔を見た者は一様に皆驚くはずであるからだ。かつて戦場を駆け回り、破竹の勢いで戦果を挙げていた英雄の中の英雄、S級冒険者ガインと聞けば誰もが尊ぶ存在であった。


 そんな英雄にも近しい男がまさか魔神教団などという怪しい団体の幹部の地位に就いているとはだれも思わないだろう。


「そうか、少し前に話題になっていたSランク冒険者というのはお前の事だったか、ガイン。戦場の豪傑がずいぶんと落ちぶれたものだ」


「落ちぶれた? 価値観の違いであるな。我は前よりも偉くなったのである」


「そうか。ならもう貴様に言う事はない」


 諦めた口調で言うとジオンの能力も膨れ上がっていき、その強大さゆえに自身の体をも氷が覆っていく。


「そろそろ隠居してもらう」


「ほざけ! 若造が!」


 そして立ち上るは氷の竜。


 凍てつく牙をちらつかせながら目の前の超常なる存在を視界に入れるが否や飛び掛かっていく。


「覇王拳!」


 飛び掛かってきた竜に向かってガインが極大の力を振るう。


 ドガンッ!!!!


 そうして激しい音を鳴らしながら二つの強大な力が衝突するのであった。

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