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104話 来訪者

 メルディン王立学園と第二帝国学園との試合が終わり、次の試合が始まるという最中、一人の男が廊下を歩いていた。先程の試合で大暴れしたギュスターブ・ドラーシクである。


 特に反省した素振りはなく、寧ろいら立ちを見せながら廊下を歩いていく。


「止まれ」


 その暴れん坊に向かって後ろから男の声がかけられる。


「……どうかされましたか? アレス皇子殿下」


「他の者はどうした?」


「他の者? 第二帝国学園の奴等の事ですか? 医務室ででも寝てるんじゃないですかね?」


 くるりとアレス皇子の方を向き、ギュスターブはニヤリと笑いかける。


「そんなことよりさっきの試合見てくださいましたか? 流石に第一に入れてくれても良いんじゃないですかね?」


「さっきの試合? あぁ、無様にも貴様が醜態を晒したあの見世物のことか」


 アレス皇子がそう言うと、ギュスターブの顔が歪む。


「無様ではないでしょうよ。この俺の最強の力を以てしてあのエルフの国の第一王女をあそこまで追い込んだのですよ?」


「貴様のそれは最強の力ではない。ただの借り物の力だ。そんなもので威張っているから私は貴様の入学を拒否したのだ」


「……まだ認めてくれないんですね。こんだけでかい大会で暴れたら考えを変えてくれると思ったんですがねぇ」


 そう言うと、ギュスターブは引きつった笑みを浮かべながら力を纏い始める。


「やっぱり殿下はクレスト殿下だけで十分だ」


 そうしてその振り上げたこぶしを端正な顔に叩き込まんとした瞬間にギュスターブの体が凍てつく冷気で瞬く間に冷凍される。


 その様には一切の乱れはない、綺麗な一体の氷像が出来上がる。


「これが噂に聞いていた『王国の影』の仕業か。私の弟の氷とどちらが強いだろうな?」


 そう言ってアレス皇子は目の前にいる黒いローブの男に話しかける。


「……私ではクレスト殿下には敵いませんよ」


「それはどうだろうか。この繊細な力の使い方は私の弟ではできないと思うぞ」


「ご想像にお任せします。それより帝国の問題をこちらに持ち込まないでいただけますか? 開催国としては少し不愉快ですので」


「すまなかったな。この男には後できつい罰を与えておくから許してくれ」


「承知しました。では私は()()に戻らせていただきます」


 そう言うとアレス皇子殿下の目の前から黒いローブの男が姿を消す。


「本業……か」


 そう言うとアレス皇子は氷像に火を当て、解凍されて気絶しているギュスターブを脇に抱きかかえるとゆっくりと廊下を歩いていくのであった。



 ♢



 メルディン王立学園と第二帝国学園との試合が終わった後、第二帝国学園は戦闘不能者が続出したために欠場するという闘神祭において前代未聞の事態へと陥った。


 始めは観客からの不満の声もあったが、大会は中断することなく進められていった。


 そして現在、第一帝国学園とオーディン学院との試合が繰り広げられている、いや厳密にいうと繰り広げられていた、か。


『あ、圧倒的です。第一帝国学園、オーディン学院をストレートで下し、第1回戦突破となります』


「強いわね」


「そうですね。しかもこれでまだアレス皇子が出場していないことを考えると最早恐ろしいですね」


 第一帝国学園の予想以上の強さに控室のモニターから見ていた俺達も衝撃を受けていた。特に先発で出ていたクレスト皇子の力には目を見張るものがあった。流石はあのお方の息子だと感心するとともにこの前の性格の悪さを思い出し、惜しいなと思うのであった。


 だからこそ後ろで控えるアレス皇子には興味が湧いた。人格もできていてさらには実力もあるのだろう。いつかあのお方のお話をしたいな、とひっそりと思う。


「次の試合はアルラウネ学園とですか」


「まだ決まってはいないけど負けるとは思わないから恐らくね。嫌?」


「嫌という訳ではないのですが、少し気まずくはありますね」


「普通に考えたら自分の国の王女様がわざわざ他国の学校に通っているのって疑問に思うわよね」


 それも黒の執行者に会いたいからとかいうファンキーな理由だからな。


「少し気まずいですけど、攻撃することをためらってしまうという事はありませんので安心してください」


 胸を張ってガウシアがそう言うと、コンコンと控室の扉をノックする音が聞こえる。


「ちょっといいかしら?」


 学長の声が扉越しに聞こえてくる。今度は本物だな。


「はい、大丈夫です」


 リア様が答えると、学長がガチャッと扉を開ける。


 そして後ろで厳重に守られている女性を見て部屋に居た全員が驚く。


「は、母上!?」


 そこにはゼルン王国、現女王が居たのであった。

 

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