性格矯正医の息子
うちの両親は性格矯正医をやっている。現代日本では性格の良し悪しが数値化される。学力試験と共に性格測定も含まれる入試制度が一般化している。就職だって性格を見られる。
そんな世の中のため性格を良くしようとする人も増える。そこで生まれたのが性格矯正医という医師だ。彼らは1年という時間で数値を大幅に上げることが可能だ。うちのクリニックは地域で評判が良く、県外から診察に訪れる人もいる。
俺はそんな両親を尊敬している。仕事が忙しくてなかなか家族旅行などは行けなかったが、学校ではクリニックの一人息子という肩書きでクラスメートにチヤホヤされたりするので寂しくはない。
ある晩、俺は喉が渇いたので寝床から出た。リビングに入ろうとすると、両親が何か話している。俺は子供ながら扉を開けるのを躊躇った。いや、開けられなかった。俺の耳に入ってきたのは、俺の中の両親のイメージを破壊するようなものだった。
「今月もかなり儲かったわね。」
「まぁ、今月は出戻りが多かったからな。」
「そういえば、長野から来た田中さん。効果が切れるのに。」
「そうだな。ちょっと念じが甘かったか。」
「次から気をつけてよ。私たちの獲物がほかに獲られてしまうから。」
「最近はこの詐欺も増えたもんな〜」
「詐欺じゃないわよ。彼らがしたくてやっていることだから。」
「まぁ、性格なんてそう簡単に変わらないことがわからないバカどもだからな。」
二人は大声で笑った。今まで俺に見せたことのない欲に満ちた汚い笑いだった。
「ちょっとあの子起きちゃうでしょ。」
「すまない。すまない。あいつはいい子だからな。」
「そうよ。クリニックの息子が数値悪いなんて絶対いや。」
今まで一度も反抗をしたことがなかった。親の言われたことには首を縦に振り、両親が望むいい子を取り繕ってきた。しかし、今夜限りで俺はそれを卒業することに決めた。今の贅沢な生活の根本には両親を頼って騙された人がいる。それを見て見ぬふりをして生活を続けることができようか。これは正義感ではない。罪悪感である。被害者への償いとしてである。あのモンスターたちからこの日本を守るんだ。もう二度と被害者が出ないように。俺は寝床に戻った。
翌日、俺は両親の目を盗んで顧客リストを手に入れ、彼らの家をまわった。ことの顛末を説明して深く謝罪をした。彼らの中には、怒りや悲しみ、失望いろいろなリアクションをとった。しかし、最後に必ず、あなたは将来、必ずいい人になれる。と言われる。自分が詐欺の被害にあったのにも関わらず、その加害者の息子をいい人と呼べる彼らに涙が出た。それと同時に怒りも湧いていくる。こんないい人たちを獲物と表現する外道に。
その後、外道たちは逮捕され、クリニックの実態が明るみになった。全国のクリニックに捜索が入り、多くの者が逮捕された。日本政府は再発防止に、努めるという。日本では今回の件から性格を数値化すること自体に疑問を呈する者が増え、性格の数値化は終わりを告げた。