52 魔王、現る
三話連続投稿です。
一話目、1時投稿。
二話目、3時投稿。
三話目、5時投稿となります。
二話になります。
一話目が、まだという方はそちらから、お読みください。
「誰だ?」
どう見ても魔族だが、士也を見る女性魔族からは一切の敵意、殺気、憎悪などの負の感情が感じない。
「戦う……つもりは、ないみたいだけど?」
「ええ……その通りよ。
貴方は勇者でいいのよね?
ちなみに、この大陸……私から見れば大きな島陸だけど、各国に潜んでいた魔族も全員引き上げさせたわ」
「……へえ?
本当かどうか、知らないけど……それが出来るなら、君が魔王だったり?」
「正解。
私は魔王。
名はバーミリオン。
でも、貴方と戦うつもりは、本当にないのよ?」
魔王は両手のひらを見せる。
「……わかった」
双剣を収納し、魔王バーミリオンの下に向かう。
「信じよう。
俺は士也。
シナリ・ヤガシラだ。
勇者かどうかは知らないけど、一応、そいつらと一緒に巻き添えで召喚された」
近寄り、改めて魔王を見た。
見た目年齢は士也と変わらないが、長命の魔族なので本当の年齢はわからない。
腰まであるストレートな朱色の髪に、金色の瞳、人族でも十分に通用しそうな整った綺麗な顔立ち。
ただし、魔族として例外なく、士也は3人目だが一番立派な角が空に向かって2本のびている。
身長も士也と変わらず、細身だが胸は大きい。
マリーシアに負けない大きさだ。
(マリーシアは大きな胸を恥ずかしがり、少しでも小さく見せようとしているが、隠せないでいる)
また、名にちなんだ朱色の服装(扇情的なドレス)を着ており、スリットの入った足も魅力的だ。
「……巻き添え?
そのわりには、強すぎるわ。
おそらく……レベルMAXまでいってるんじゃない?
召喚されたのは半年くらいだと聞いていたけど、どうすれば短時間でそういう事になるのよ?」
バーミリオンは呆れている。
「う~ん、勇者補正と効率的なレベル上げ、あと巡りあった相手かな?
でも……俺も、君とは戦いたくないな」
「あら?
どうしてかしら」
「君の方が強い、からな。
もしかして……レベルMAXを越える方法ってある?」
「なるほど。
そこまでわかるのなら、そのレベルは本物ね。
ええ……あるわよ。
限界突破する方法……知りたい?」
バーミリオンはニヤニヤと笑う。
「まあね?
備えあれば憂いなしって言葉、俺がいた世界にはあるし?」
「ふ~ん?
貴方、完全には、この世界を信じていないのね?
……いいわ!
私の条件さえ、のんでくれたら教えてあげるけど、どう?」
「条件、ねえ?
ちなみに、どんな条件?」
「私の夫にな「却下」……最後まで聞きなさいよ?」
速攻で断られ、唇をとがらし拗ねるバーミリオン。
「いや、ありえないだろ?
それに……俺、婚約者、いるし」
「証拠」
「え?」
「証拠みせて」
「……証拠は、ない。
まだ、口約束だし、いろんな国見て、戻ったら正式に婚約する事になっているし」
「ふ~ん?
言っとくけど、私の夫になればメリットいっぱいあるわよ?
例えば、平和条約をしたとして……まず私が他の魔族に負けない限りと、死なない限りは続くわね。
私はまだ17歳だから短くても百年は続くわよ?」
(17歳……同い歳なんだ)
思った以上に若かったので驚いた。
「他には……どうかした?」
「え、いや……あ~、それよりさ。
そいつ、上手い事溶かせば蘇るぞ?」
歳のわりに、目がいくスタイルの持ち主から誤魔化す為、話題を変えた。
「え、本当?
どうすれば、蘇る?
やってくれる?」
バーミリオンは士也の腕を握り、何度も軽く飛ぶ。
「あ、ああ……いいけど。
蘇らせて襲う様な事なら、速攻で殺すぞ?」
士也はバーミリオンから目をそらし、思った事を告げた。
「大丈夫!
魔王である私の言葉に、魔族は逆らえないから」
胸を張るバーミリオン。
(……わざとやっているんじゃ?)
そう思わざるをえない士也だった。
ネイビーにかけた魔法を解き、素早く冷気を抜いた身体に電流でショックを与えた。
ドクンと大きく心臓代わりの魔石が震え、身体中に血が巡り、ゆっくりと意識を戻した。
(ちょっと強引だったけど、魔族の強い身体だからいけたみたいだな)
士也は、ネイビーの血色がよくなっていく顔を見て、安心する。
「む……ん、ここは?
私は……いったい?」
状況が把握出来のか、辺りを見渡すネイビー。
やがて、士也を見つけ、なにがあったのか思い出した。
「……貴様、殺す!」
「はい、ストップ!
ネイビー、駄目だよ」
飛びかかろうとしたネイビーを、魔王の言霊で動きを封じるバーミリオン。
「なっ?
ま……魔王様?
どうして、ここに……いや、止めるのだ?
コイツは、カーマインを殺した勇者だぞ?」
「知ってる。
んで、ネイビーも負けたよね?
覚えている?
君はま、け、た、の!」
「くっ……では、どうして、魔王様は戦わないのか?
魔王様なら勝てるはずだ?」
「確かに、レベル差で勝てるかもしれない。
けど、他の実力や技術で負けるかもしれない。
そんな相手と戦いたくないわ、私」
バーミリオンは両手を広げ、首を振る。
「そんな……」
「それに私が負けて死んだら、ただでさえ少なくなっていく魔族がさらに減るじゃない?
だから、今、彼に取引している途中なの。
わかる?」
しゃがんで目線を合わせ、人差し指を振るバーミリオン。
「取引?」
「そう、私の夫になってって頼んでいる」
「な……ありえない!
魔王様、正気か?
人族の……しかも、勇者だぞ?
他の奴等だって承諾するものか」
「したよ?
ちゃんと説明して、納得してくれた。
もう、皆、国に帰ってるよ」
「そ、そんな……馬鹿な?」
ネイビーは地面に手をつき、ショックを受けている。
「ねえ、士也?
魔族が、各国を侵略しようとした理由、聞いてくれる?」
バーミリオンは立ち上がる。
「聞こう」
「ん……もう、魔族がすむディストピアは強すぎる魔物でいっぱいなんだ。
ただでさえ、長命のひきかえに、たまに産まれてくる赤子は成長して大人になれるのはごくわずか。
なんらかの理由で、死んでしまうから。
現状、私の下には10人もいないんだ。
私が、魔族で1番強く魔王となったのも理由があって、強すぎる魔物と同じ理由なんだ。
ディストピア大陸は年々、瘴気……魔素が濃くなり変化したモノ……が、増えてきてる。
人族と魔族の違いって知ってる?
動物が瘴気で魔物になるのと同じで、魔族も瘴気で魔物化した人族なんだ。
こっちの赤子だって、向こうにいれば魔族になるんだよ?
だから、ネイビーや、カーマインはこの大陸を支配して移り住む予定で、侵略したんだ。
これ以上、瘴気を取り込まない為と、狂わない為に」
「そんな理由が」
「カーマインがスライムオーシャンと契約して取り込んでも、ディストピアにいる魔物達にはかなわなかったんだ。
限界突破が出来たのも私だけだし。
その私だって倒すのは骨がおれるし。
だから、士也……私の夫となって魔物を倒すのと、瘴気が生まれる原因を調べるのに手伝ってほしいのよ。
向こうで戦い続けていけば、瘴気で体質も変わり、限界突破が出来るのよ」
「なるほど……そういう仕組みか。
納得いった。
って、俺も魔族化するのか?」
「ううん、多分ならないと思う。
かつてディストピアにきた勇者は、他の仲間と違って魔族化しなかったみたいだし?
調べたら勇者の身体はある程度瘴気を浄化出来るらしいよ?」
「なるほど?
はあ……仕方ない、戻るか。
はあ……マリーシア、怒るだろうな~?
気が重い。
バーミリオン、プレリューム王国に行くぞ」
「え、どうして?」
「君の事、魔族の事、話さなきゃならない。
それに向こうにはレベルに関係なく嘘を見抜く人がいるし、君が話した事、その人を通じて信じてもらえると思うよ?
それに……俺の婚約者は、その国の王女だ。
王女……マリーシアを説得出来たら、俺は君の大陸に行ってもいいと思ってる」
「そういう事……わかったわ。
行きましょう。
行って理解してもらうんだから。
ネイビー、貴方は隠れ家にいる皆と待っていなさい」
「し、しかし」
「私はもう、誰も死んでほしくないのよ」
バーミリオンは悲しそうに笑った。
「ーーーッ?
……わ、わかりました」
バーミリオンの笑顔を見て、ネイビーはなにも言えなくなり、葛藤をえがきながらも了承した。
「貴様、もし魔王様の身になにかあれば、王国を消滅してやるから覚悟しておくんだな」
「言ったろ?
嘘を見抜く人物が王国にいると、覚悟するの魔王だ」
そう言って、士也は魔王バーミリオンを連れ、プレリューム王国に戻る事になった。
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残り、後一話。