表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/54

50 マリーシア、士也を見送る

 お父様……プレリューム王国国王ガルシアの生誕祭が終わって一週間のあいだ。


 私、マリーシアは生誕祭の後処理や、新たに出てきた問題が書かれた書類に追われ、忙しい日々を過ごした。


 士也は、シヤに変装し、護衛侍女として側におり、仕事で目を回しているマリーシアを見かね、仕事の手伝いも行っていた。


 仕事を手伝ってもらう事に悪いと思う気持ちでいっぱいだったが、一週間が過ぎれば、護衛の依頼は満了し、シヤがいなくなる事のほうが嫌だと思い、このまま、時間が過ぎなければいいと考えた。


 仕事が終わらないのは、それはそれで嫌だけど。


 だけど、そうもいっておれず、時間は経過し、なんとか仕事は落ち着き、士也が去る日となった。




 見送りには、私や、総騎士団長アルベルトや、団長3名や手の空いた騎士達、リンダ侍女長に、お父様まで姿を現した。



「……なんか壮大な見送りだな?」

 士也は集まった顔ぶれを見て苦笑する。


「そう言うな?

 それだけ、お前が貢献して、信頼を得た証しだろう。

 それに、お前はこの王国の勇者で、知るものが知る英雄だ。

 見送らないはずないだろうが」

 ガルシアは士也の態度に笑いながら答え、集まった皆の顔を順番に見て、一歩下がる。

「皆も言いたい事があれば、言うといい」


「……ええ、では、私から」

 本来、身分からいえばマリーシアが話のが正しいのだが、マリーシアが下を向き言い難それにしているので、リンダから皮切りに話始めた。

「貴方が、本当は男性だと知って驚きました。

 それだけ女性として、侍女の働きは完璧だったので。

 前も言いましたが、貴方には本当に残っていただきたいと思います。

 ……今は、違う意味でですけど」

 チラリとマリーシアを見る。

「でも、本当の意味で、それを言わなければならないのは、私ではありませんので、これ以上は。

 シヤ……いえ、士也様でしたね。

 なにがとは言えませんが、私は貴方ならばと思いますので。

 これからも、是非、顔を出す場合は、私のところにも来てほしいと思います。

 貴方の旅に……御武運と、御無事を願って」

 リンダは言い終わり、ガルシアと同じように下がった。


「そうですね……もし、ここに来られたなら門番には顔パスで通す様に言っておきましょう。

 次に会える時を楽しみにしております」

 リンダに続き、アルベルトが挨拶をかわす。


 こうして順番に別れの挨拶をかわしていき、最後に残ったのは、今まで黙っていたマリーシアのみとなった。


「士也……」

 マリーシアは顔を上げ、顔を真っ赤にして話そうとするが。


「マリーシア、俺は1つ1ついろんな国を見たら、何度か戻ってくるよ。

 たくさんのお土産と思い出話をもって帰るからさ、その時を楽しみにしていてほしいんだけど……いいかな?」

 マリーシアを遮り、士也は自分の考えを先に言った。


「もちろん、聞かせてもらうし、楽しみにして待っているわ。

 でも、無理して怪我とかしないで、無事に戻ってきなさい……いいわね?」

 ふん、と横に顔を振り、チラリと士也を見ながら言う。


「ああ、わかったよ」

 士也は素直になれないマリーシアを微笑みながら返事した。


「……あー、話の途中で悪いんだが」

 ガルシアは、娘の煮え切らない態度に呆れ、再び一歩前に出て、マリーシアの横に立ち、割り込んできた。

「士也よ?

 お前に、冒険者として受けた依頼料以外に、なにか渡そうと思うのだが、ほしいモノはあるか?

 大抵のモノなら構わないぞ?」


「ほしいモノ?

 別にこれといったモノはないけど……いや、そうだな?

 ……うん、決めた。

 今はいらないが、いずれ旅が落ち着いた時にだが……この王国を俺にくれないか?

 もちろん、それに必要なモノも含めて、だ。

 どうだ?」

 士也は、ガルシアにニヤッと笑い問う。


「……そうか?

 この王国をか……くくっ。

 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは…………わかった。

 国をもらうに必要なモノも含めてだな?

 いいだろう、お前がそれを望んだ時、我が持つすべてを、お前に譲ろうではないか!

 皆、聞いたな?

 士也が言った事は、我は認めた!

 皆もそれに従え、よいな」

 ガルシアは、士也が言った言葉と思いを正確に受け取り、盛大に歓喜で笑い、後ろに立つ、見送りにきた者全員に命を下した。


「「「「はっ、騎士団、承知致しました」」」」

 アルベルト以下、騎士団は敬礼し応諾の言葉を発する。


「承りました。

 執事、侍女の教育をして、いつでも、その時をお待ちしております」

 リンダも深々と礼をとる。


 その他の者達も同じようにそれぞれの礼で答え、全員が顔を上げた時、ガルシアと同じように歓喜の笑顔だった。



 ただ1人、マリーシアを除いて。


「え、なに?

 みんな、どうして嬉しそうなの?

 え?

 士也が、この王国をもらうって事は、国王になるって事よね?」

 マリーシアは、まだ混乱している。

 いや、理解しているのだが、士也が言った事が脳が考える事をストップさせているようだ。


「マリーシア……よかったな?

 士也なら、安心していられる」

 ガルシアは、マリーシアの頭を軽く叩き、再び盛大に笑う。


「お父様?」

 マリーシアは、ガルシアの行動で更に混乱の拍車をかけた。


 後ろに立つ者達もガルシアと同じだ。

 中には涙ぐむ者も少なくない。

 だが、それは、この先の王国の未来を祝ってか、マリーシアに憧れをえがいた者の涙かはわからなかったが。




「んじゃ、行くよ。

 マリーシア、元気でいろよ?」

 荷物は収納を付加した魔法具で、手ぶらな士也は踵をかえし歩き始めた。


「……士也!

 私、私……待っていますから、必ず無事に帰ってくるのですわ」

 マリーシアは、士也の背を見ながら、手を振り叫ぶ。


 そんなマリーシアに、背を向けたまま手を振り返す士也だった。





「ねえ、お父様?」

 士也の姿が小さくなり、手を振るのをやめ、マリーシアは隣にいたガルシアに質問する。


「なんだ?」


「さっき士也の言った事ですけど……」


「おお、よかったな。

 マリーシア!」


「それですわ!

 ……士也はこの王国の国王になるのに、どうして、私がよかったですの?」


「……なにを言っている?」


「いえ……ですから、どうしてみんなが喜んだのかわからなくて……いえ、士也が国王になるのは私も嬉しいのですけど……他にも意味があるのかと?」


「なっ?

 マリーシア、お前、それを本気で言っているのか?

 だが、さっき、士也に待っていると……まさか、そのままの意味だったのか?」

 ガルシアは、マリーシアが本当に理解していない事に驚く。


 離れているアルベルト達も去ろうとしていたが、動きをとめ、マリーシアをガン見して固まっていた。


「マリーシア様、士也様は、いずれは国王になるとおっしゃいました。

 そのあと、国王になる必要なものを含めてもらうとも」

 みかねたリンダは、マリーシアに諭す様に、わかりやすく説明を始めた。


「……ええ、そう言ったわね?」


「陛下が生誕祭で発言した事は覚えておられますか?

 陛下は、次期国王にマリーシア様を指名されました。

 各国の来賓者達の前で」


「ええ、そうね」


「士也様はいずれとおっしゃいました。

 つまり」


「簒奪?」


「違います。

 マリーシア様を嫁に……いずれ国王となり、マリーシア様を妻としてもらうからという士也様の宣言だったのです。

 それを陛下は認め、私を含め後ろにいる者全員に、陛下も命を下され、我々も承け入れたのです。

 もちろん、命を下されなくても、我々は士也様の事を認めていますが」


「……私が妻?

 結婚?」

 マリーシアは、やっとストップした脳が動き出したのか、だんだんと顔どころか全身真っ赤になっていく。


「ご婚約、おめでとうございます。

 マリーシア様。

 次に士也様が戻られた時、正式に書類をかわす事になりますが……本当に、よかった。

 私達、一同、マリーシア様の幸せを望んでいますから」

 リンダは微笑む。


「うむ、長い事、マリーシアに見合う相手が国内におらなんだから、どうしようかと悩んでおったが、士也なら、知性、礼儀、品格、節度、実力すべて、この王国を発展させるであろうよ」

 ガルシアは、再び笑う。


 実際、ガルシアは悩んでいた。

 今回の生誕祭で、大陸から帝国の第3王子リッセントがきたのも、帝国皇帝の相談の手紙を書き、無理を言ってリッセントに顔を合わせる為きてもらったのだが、マリーシアの態度と、士也を見て考えを改めてた。


 ガルシアはリッセントに、マリーシアの父親として頭を下げ謝罪した。

 リッセントも2人を見て、ガルシアに笑顔で断りを承け入れ、皇帝にも上手く言っておくと言っていた。


 リッセントはガルシアから皇帝への謝罪の手紙と品々を受け取り帰国した。


 こうして、ガルシアにとって最大の悩みは解決したのだった。



あと数話をもって書き終わりとなります。


よろしければ、もうしばらくお付き合い下さい。


よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ