４９ 国王ガルシアの生誕祭終了
お待たせしました。
「いつ出て来ても、負けるつもりはない」
サーディン首領は誇らしげに自信をもって説明した。
「負けるつもりはない……だが、士也殿といったかな？
万全を尽くすならば、勇者である君が我がサーディンへと来て、魔族と戦ってくれるとありがたい」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか？
そういう事なら、うちだって勇者に来てもらいたいぞ！」
自信のある発言を、すぐさま返すような首領の言葉に、セカドリスの大臣も慌てて話に乗る。
「…………はぁ」
そして、それを聞いた士也は答えずに深いため息をはき、苛立ちで言葉使いを戻した。
「私は……いや、俺は一度も己自身の事を勇者とは言ってはいないし、勇者だとは思ってない。
（嘘だけど）
呼ばれたと言っただけで、言ったのはプレリューム国王だ。
そもそも、何故、俺がすべての国に潜入している魔族と戦わなくてはならないんだ？
それに俺が魔族討伐を受けたとしても、他国同時だった場合、どうするつもりだ？
それに、こうして話している間にも、魔族が侵略していたらどうするんだ？」
「な、なら、どうしてお前は、この国にいて、魔族を倒したのだ？
不公平ではないか？」
大臣は唾を飛ばしながら、士也に問い質す、
「……不公平？
言っている意味がわからないね。
ある日、俺と仲間達は、突然、違う世界に呼ばれ、帰れるかと聞けば、向こうの世界では死んでいて、どうする事も出来ないと言われた。
他の仲間は大陸に渡って、俺は残った。
王国が仲間の追跡する場合、邪魔をする為にな。
魔族と戦ったのは、単なる偶然だ。
それに……国王と王女からは、すでに詫びの言葉と頭を下げられているからな……まだ、お互いにしこりは残っているけど俺は許した」
士也は、ガルシアとマリーシアを見て、２人は頷き返す。
「俺は、自分で言うのもなんだが、強いと思う。
貴方達の、自分の国を守ってほしいという、気持ちもわからなくもない。
だが、俺だって怪我をすれば死ぬ事もある。
なのに、俺は勇者とは思ってないが、勇者だから魔族と戦うのは当たり前だと思ってないか？
なぁ、各国の代表で、この国に来ているお偉いさん方？」
「確かに、その「……ご託はどうでもいい。
お前は間違いなく勇者で、我が国に来て魔族を倒し、民を守ればいいんだ」
セカドリス大臣は、サーディンの首領の言おうとした言葉を被せ、暴論をはく。
「……嫌だね」
士也は無表情で答える。
「なっ？」
「それより、サーディンの首領は、さっき、なにを言いかけたんだ？」
絶句する大臣はおいといて、首領に問う。
「いや、確かに君の言う通りだな、と思ってな。
しかし、勇者ではないという君が、王国を守る事になった理由が気になってな……もしかして君は冒険者で、王国からなにかの依頼を受けたのか？」
首領は考え１つの答えにたどり着く。
「ああ……その通りだ。
この世界に来て、金がない、レベルを上げたい、自由に生きたい……それを考えたら、冒険者しか考えられなかった」
「じゃあ、君に「指名依頼は受けない」……どうしてだ？」
首領の言葉を先読みして、士也は答える。
「今は、金にも、レベル上げにも困ってないから。
そうなると誰にも邪魔されず、自由に生きたいじゃないか」
「なるほど」
「この国を拠点に、旅に出ようと思っているんだ。
せっかくの異世界だ。
いろんな所に行って、いろんな食べ物、いろんな風景、いろんな国を見て楽しみたいじゃないか。
その上で、邪魔が入るなら……魔物なり、魔族なり、時に、俺の敵になるなら人や、町、国も関係なく潰すから」
両手を開け、士也は思いを告げる。
「……そうか」
首領は士也の心意を理解し笑う。
「ならば、私を含む、我ら十二首領が納めるサーディンに来て楽しんでくれ？
それぞれの首領が納める都市は、それぞれみんに変わって楽しめると思うぞ？」
「……いいね？
今から、楽しみになってきたよ。
ぜひ、近いうちに行かせてもらうよ」
首領も、士也も笑いあう。
その２人を見て、ガルシアは含み笑いをし、マリーシアは寂しそうにする。
「……なっ、なにを呑気に？
魔族が侵略を始めたら、そんな事も言ってられないんだぞ？
だから、お前はセカドリスに来て、勇者として魔族を倒せばいいんだ。
そうすれば、名誉も金も、なにもかも手に入るんだぞ！」
大臣は顔を真っ赤にして、士也に叫ぶ。
「……ぷっ。
あはは、あはははははははは……」
ジェネレシェア大陸の帝国第３王子は、未だ士也の心意に気づかず、己の事ばかりを言う大臣に、腹を抱え笑う。
「なっ、なにがおかしい？」
大臣は第３王子に怒りを覚え、問い質す。
「いやいや……これが笑わずにいられるものか？
彼の……士也の心意に気づかないとは、セカドリスの大臣とはこんなモノか……そんな事だから、士也に嫌われるんだ」
涙目を擦りながら、なんとか笑いを納め、大臣を馬鹿にする。
「なあ、士也よ？
私は、君が気に入ったよ。
ぜひ、ジェネレシェア大陸を渡って、我が帝国にも遊びに来てくれ？」
「ああ、そうするよ。
それに、別れた仲間にも会いたいしな」
士也も笑う。
「ぜひ、そうしてくれ。
……プレリューム王国国王陛下。
私、ウーノ帝国、第３王子リッセント・セレム・ウーノは、帝国を代表とし、この度の陛下の生誕を祝いを申し上げる。
また、魔族の騒動に対し、一切の問題を取り上げないと申し上げる」
第３王子……リッセントは立ち上がり、帝国ならではの礼をとり、再び椅子に座る。
「ならば」
首領も立ち上がり、頭を下げる。
「サーディン十二首領国連邦を代表し、マッカイヤー・エイスが国王陛下に祝いを奉る。
そして、魔族侵略に巻き込まれた事に対し、一切の非難、問題を取り上げない事を誓う」
これを皮切りに、各国の来賓者は次々と同じ様に誓っていく。
セカドリスを除いて。
「～～～～～～……くっ。
……我がセカドリスも同じく誓う」
大臣は顔をしかめながら誓う。
その顔は真っ赤を通り越し、赤黒くなっていた。
「各国の代表の皆様の祝いと心使いに感謝する。
……また、思わぬ騒動となり、巻き込んだ事に申し訳ないと思う」
ガルシアは、各国の代表に頭を下げた。
こうして、プレリューム王国国王ガルシアの生誕祭が終了した。
