46 士也、決着をつける
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「なっ?」
カーマインは驚く。
それは今放ったスライムの分身が一瞬で凍らせられた事が、士也が言ったディアスが倒されたという言葉か、いずれにせよカーマインは、自分を脅かす存在が現れた事に焦りを感じた。
「どうした?
次がないなら、こちらから行くぞ」
士也は両手をカーマインに向け魔法を放つ。
「『猛吹雪』」
士也はカーマインを中心に大粒の雪を吹き荒らせた。
「くっ、くそ、こんなモノ……『炎嵐』!」
カーマインは、さきほど士也が分身を凍らせたのがイメージで残っており、冷えていく身体が凍る事を恐れ、慌てて火魔法を発動し対抗する様に、自分を中心に炎の竜巻を起こし相殺する。
「ど、どうだ?
この程度の攻撃、何度でも凌げるぞ」
「そう?」
「そうさ!
次はこちらの番だ」
凌げた事で気をよくしたカーマインは、攻撃をしかける。
自身の魔力を高め、足元のスライムの侵略速度を早め、津波の様に高波をもって、士也を襲う。
「……『氷壁』」
士也は迫りくる粘液の津波を、氷の壁で部屋の端から端、天井までと分断する様にたてた。
粘液は氷の壁で押し止まるが、溶かしているのか凄まじい勢いで蒸気をあげいる。
士也はその状態を確認し、溶ける氷を魔力で溶けない様に補強しながら、マリーシア達の方に振り向きしゃがむ。
「なあ、マリーシア?
前に言ってた本当の事って、こういう事だったんだよ。
傷ついたと思うけど、気にする事ないぞ。
だって、俺……この世界にきた事に不満はないから。
それと、君が勇者召喚に対しての本心も聞いているし、俺、君の事、とっくに許しているから。
それと、総団長……前も言ったけど、冒険者として受けた依頼だから、ちゃんとマリーシアを守るよ。
あと、目につく範囲はついでだから守る……これも言ったからには守るよ」
士也は立ち上がる。
「……そうだ、マリーシア?」
「な、なにかしら?」
マリーシアは、まだ少し恐れている様で、答えがどもる。
「……湯浴み、手伝わなくてよかっただろ?
俺としては、本当は手伝いたかったけどね」
士也はニヤリと笑い、カーマインの方に振り向いた。
「……は?
なっ……あ?
あっ~~~~~~~?」
マリーシアは士也が言った事が最初、意味がわからなかったが、かつて、アルベルトに、この事で助言を求めたのを思い出して、耳まで真っ赤にして両手で顔を隠した。
「「ぶっ」」
そして、あの時、その場にいたアルベルトはもちろん、リセラも吹き出し笑いをこらえた。
だが、士也の番を安心させる為の、マリーシアいじりを言ったのも関係なく、士也を怒らせた者がいた。
「き、君は……あの時、勇者召喚で呼ばれたオマケの少年なのかね?
だ、だとしたら、オマケでもなんでもいい、アイツを……あの魔族を倒せ!
それが、オマケであろうと勇者として召喚された者の義務だろう?」
宰相だった。
結界内で怯え震えていた宰相が、士也にそう言った。
次の瞬間、宰相は国王に全力の拳を顔に打ち込まれていた。
士也も宰相の言葉にキレて、双剣の一振りで結界を切り壊そうと振りかぶっていたが、国王の行動に目を丸め驚き、動きを振り返った状態で止まった。
「……すまない。
士也……と言ったか?
馬鹿が余計な事を言った。
この事は……馬鹿の主である、我の……国王としての罪である。
あの時の事を含め、今、全て謝罪を申しあげる」
国王は士也に対し、深々と頭を下げた。
「……その謝罪、承りました。
プレリューム王国国王陛下」
士也は深くため息をはき、再びカーマインの方に向いた。
「感謝する」
国王はドスンと座り込み、士也の戦いをもって、士也を見届けようと決めた。
「宰相殿」
アルベルトは、殴られた顔を押さえ、懲りずに国王に言いつのろうとしている宰相に声をかけ、殺気ごと剣に乗せ突きだし、宰相に向けた。
「次に余計な事をおっしゃれば、私が貴方を切り殺します。
なぜ……国王陛下に殴られたのか、反省し理解なされるといいでしょう」
「ぐうぅっ」
殴られた顔が痛み、殴った国王、剣を向ける騎士総団長、更に総団長の配下……団長リセラと騎士2人、そして、士也に対し恨みのこもった目で睨みつけた。
士也は、もう後ろは気にせず、戦いを終わらせる準備を始めた。
「来い、みんかな『スライム召喚』」
魔方陣が現れ、スン、ラン、イル、ムウが飛び出てくる。
「「「「ごしゅじ~ん」」」」
現れて、すぐボヨンボヨンと士也の側を跳び跳ねている。
「か、かわいい……」
青、赤、黄色、紫の丸い半透明ボディが士也にまとわりついているのを見て、マリーシアが抱きつきたそうに、手をわきわきと結界の中でもだえている。
「……後で抱かせてやるから、今は待ってな」
士也はクスリと笑い、スン達に指示を出す。
「イルは後ろの結界強化の手伝いを、他は俺と合わせて魔法を放つ……30秒後だ。
ちなみにマリーシア?
この子らの抱き心地は最高だぞ、楽しみにしておくといいぞ!
そろそろだ……3、2、1、今だ『永久凍結、絶対零度』」
魔力の補強をやめて、氷の壁が溶け、粘液が再び襲いかかる瞬間を合わせ、士也の前にスン、左右にランとムウを配置し、同じ氷魔法『永久凍結、絶対零度』を広範囲で全力で、前方に放った。
ディアスの時は直接だったが、今回は距離を置いての魔法の為、スキル共有と吸収スキルで、スン達の力を借りた。
それは、ディアスの魔石と、凍ったディアスを吸収したスン達はいったん融合し、再び4匹に別れ、吸収した能力を区分けした。
そして、ムウの固有スキル『魔物鑑定録』でディアスと下位魔族の記録を見た時に、色々とわかった事があった。
ディアスは、カーマインに吸収されたが、あまりにも強い感情(シヤへの好意)が、存在まで吸収されるはずだったが、別の意思を持つ者として分裂したという事。
分裂はしたが、ディアスのスキルは、カーマイン(スライムオーシャン)のスキルに加わり、そのままディアスのスキルにもなった。
それで、カーマインには時間を止める能力はなく、空間を切り離し、一時的な別空間と小さなスライムで侍女を操りマリーシアを騙していたと理解した。
そしてもう1つ、カーマインが持つ特殊な固有能力がわかった。
その能力は『エナジードレイン』。
直接、間接に関係なくカーマインに触れれば体力、魔力を少しずつ吸収される。
だから、剣で幾度と攻撃する事で、アルベルトは体力と魔力を失っていったのだった。
本来なら、このスキルは、スキル『鑑定』ではわからなかったが、魔物鑑定録には記載されていた。
だから、エナジードレインを警戒し、士也は最初から離れた場所からの攻撃だけを行った。
1人と3匹の全力魔法はカーマインを含む広がっていたスライムオーシャンを凍結出来た。
が
「うう……身動きがとれん?
スライムで抜け出す事も出来んとは……ま、魔法も無理だと?
この……ままで、は……」
カーマインは凍った身体をなんとか抜け出そうとしているが叶わず、最後には意思も凍結し死んだ。
士也は凍結したスライムオーシャンの上を歩き、カーマインの側まで近寄り触る。
エナジードレインの影響はなかった。
完全に死んだ事を確認したあと、ディアスの時の様に、スン達4匹にカーマインの始末をさせた。
士也は、マリーシア達の方へ歩き向かった。