39 シヤ、冒険者ギルドで報告をする
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護衛侍女の依頼を受けてから1ヶ月が過ぎ、今、シヤは冒険者ギルドに来ていた。
「あれ?
シヤ、お久しぶりね?」
久々に立ち寄ったのに、前と変わらず担当受付のミリアがシヤに気づき受付の中から出てきた。
「うん、久しぶり。
ミリアも元気してた?」
変わらず笑顔で対応するミリアに、シヤは嬉しく、挨拶を交わしギルド内を見渡す。
「……前より、少し冒険者増えた?」
「あ、わかります?
やっぱり、国王陛下の生誕祭が近づくにつれ、冒険者もですけど、人が増えてきましたよね。
依頼も少しだけ戻ってきましたし、受ける冒険者も頑張っていますよ」
ミリアは両腕で軽くガッツポーズをして、気合いが入っている。
「あ、でも……王都に人が増えたから、治安は悪くないんですけど、なんか雰囲気というか空気が悪い様な気がして……」
「……そうなんだ?」
軽くため息をはくミリアに、シヤはよく見てるなと感心した。
実際、王都の町なかを歩いてきたシヤも、同じ様な気配を感じていたから。
「それより、シヤのその格好……依頼受けにきたの?
と、いうより、護衛侍女の依頼は?
なにかやって失敗したとか?
いえ……それなら情報がくるはずだし、聞いてるはずだし……今日、護衛、休みなの?」
ミリアはいろいろ考え、結論が出たのか尋ねてくる。
「正解、今日から一週間ほど休みもらって、身体鈍るし、なんか依頼ないかな~と思ってさ。
よってみたんだけど、良さげな依頼ないみたいだから、ちょっと大森林で討伐してこようかな」
ミリアのコロコロと変わる表情を可愛いなと思いつつ、依頼が貼られているボードを見て、そう思案する。
「ごめんなさい、シヤが来るってわかっていたら、よさそうな依頼をキープしていたんだけど」
「気にしなくてもいいよ。
突然、連絡もなくきた私が悪いんだし、一週間の休み中も取らなくていいよ?
鈍らない程度の適当に討伐して、王都ぶらぶら見学する予定だから」
シヤの担当であるミリアは、シヤに貢献出来ず、しょんぼりと言うので、一週間の休みの予定を告げ、ミリアを励ました。
「それと、護衛の仕事。
今のところ順調だから、問題ないよ」
そう問題は1つだけあったのだが、それも、この一週間の休暇で、今後は普通に1日、2日の休暇をもらえる事になり問題ではなくなった。
シヤがマリーシアにより実力がみたいと連れられ、騎士団の訓練場で副団長のオウルと勝負してから、毎日、手が空いた時は騎士を相手にしていた。
時には、お互い武器を持って戦い。
時には、かつてのフィガロが魔法でいろいろとやっていたのを、今度はシヤが受け継ぎ、範囲魔法を打ち、傷ついた騎士を回復させたり、騎士達と訓練で立ち会っていた。
「なあ、リセラ?」
1ヶ月、経ったある日、クレストは疑問に思った事を、リセラに尋ねた。
「なに?」
「いや……気になったんだけどさ?
シヤって結構……訓練場でみる事多くないかな?」
クレストはシヤを見つつ悩ましい顔になる。
「そういえば……私の部隊の訓練の時、常に顔を出していた様な」
リセラも不思議そうに思ったのか、首を傾げている。
「マズい……それは、ちょっとマズ過ぎる。
リセラ、ごめん!
あとは任せる……おーい、シヤー!
こっちに来てくれ~~!」
クレストは顔を青くし、両腕を大きく振り、大声でシヤを呼ぶ。
「なに、どうかした?」
訓練の手をとめ、こちらに来たシヤが怪訝な顔で尋ねる。
「シヤ……君、ここに来ていつ休み……休日をとった?」
クレストは、気が動転していて早口で尋ね返す。
「……ああ、そういう事?
休みね……まだとってないよ」
「……やっぱり。
マリーシア王女殿下に言ったかい?」
「ん~、言ってみたんだけどね」
シヤは苦笑した。
「そうか、やっぱりそこか!……シヤ、これから侍女長のところにいくからついて来て」
「いや、でも、まだ訓練中」
「そんなのいいから!
ついて来て!」
クレストは叫ぶ。
「わ、わかった……いくよ」
シヤはクレストの必死さに引きつつ答える。
「リセラ、じゃあ頼む」
クレストはシヤを連れて侍女長のもとに向かった。
「失礼します」
ノックを三回鳴らしドアを開け、クレスト達は中に入る。
シヤはこの部屋に記憶があった。
1ヶ月前、あの時も執事ラークと名乗ったクレストに連れられ、シヤが侍女長と出会った場所だった。
「どうしたの……珍しいわね?
貴方がここに来るなんて……あら?
シヤさんもお久しぶりね……元気そうでなにより」
中に入ってきたクレストに驚き、後ろにいるシヤを見て嬉しそうにシヤを迎えた。
「それで?
2人して、ここに来たという事は、なにかあったみたいね?」
「それが」
「なるほど……そういう事ですか」
クレストは、事の内容を話し、事情を知り察したリンダは頭を押さえため息をはいた。
「原因はマリーシア様ですね?
気持ちはわかりますけど……仕方がないですね。
2人とも、ついてきなさい」
今度はリンダが2人を連れて、マリーシアのいる執務室に向かった。
結論、マリーシアはリンダに怒られ、一週間の休暇とこれから一週間に一、二回の休暇を与えるか、もしくは、依頼達成というかたちで三ヶ月分の依頼料を払いシヤを解放するか、の選択をマリーシアに与え、しぶしぶ前者を選択し、今日からシヤは一週間の休暇となったのだった。
「そうだ、ミリア。
この後、ギルドマスターと話出来るかな?
大事な相談があるんだ」
シヤは、1ヶ月前にアルベルト達と話した事と、それから集まった情報を伝えておこうと思い、ミリアに尋ねた。
「ギルドマスターですか?
そうですね、聞いてみます」
ミリアは一言断り、その場を離れた。
「お久しぶりです、シヤさん。
今なら大丈夫だそうですので、こちらに来てください」
ミリアは上司のアリアとともに戻ってきて、アリアが伝えた。
「アリアさん、お久しぶりです。
わかりました。
ギルドマスター室ですね」
「ええ、そうです。
案内しますので、ついてきてください」
「おおう!
久しぶりじゃな、シヤ?
侍女生活はどうだ?」
入るなり、ギルドマスターのオリバーが、声をかけてきた。
「問題ないですよ。
侍女としては」
すすめられたソファーに腰掛けながら、シヤは思った通りの事を言う。
「なるほどな。
では、問題があるほうを聞こうか?」
オリバーはシヤの含む言葉にニヤリと笑い尋ねた。
「出来れば、マスターが信用のおける者だけを」
「……そこまで、ヤバいか?」
「ヤバいですね」
「フム、アリアは大丈夫として、ミリアよ」
「は、はい!」
「お前、口が固い自信あるかの?」
オリバーがミリアを見る目は鋭い。
「えーと、シヤの担当として聞きたいですが……今回は辞退させていただきます」
ミリアは葛藤したが、自身の立場……シヤの担当を受け持つ様になったが、ミリアはギルドに勤める様になってまだ2年も満たない新人である……を考慮し諦めた。
「ほう……わかった。
では、下がりなさい」
オリバーはミリアの判断を認め下がらせた。
「失礼いたします」
ミリアは一礼し、部屋を出る。
「ミリア、今度埋め合わせするから」
ドアがしまる前に、シヤはミリアに声をかけた。
ドアがしまる直前、隙間から手が出て数回振られた。
どうやら、了承してくれたらしい。
「さて、話を聞こうかの」
オリバーは真剣な目をシヤに向けた。
「ええ、実は……」
シヤは、騎士団が調べているマルチーノ公爵邸にてギルドを通さず、独自のルートで傭兵を集めている事、そしてマリーシアが思い出した魔族カーマインの事を話した。
「……なんと、マルチーノ公爵邸でその様な事に、それと魔族がこの王都……しかも王女殿下に接触とは?
もしかして、この2つには繋がりはあるのかの?」
オリバーは顎髭を撫でながら、難しい顔で唸る。
「そこまでは、まだ……ただ、」
「可能性は高い、か?」
「そう思った方がよろしいかと」
「なるほどの……あい、わかった!
こちらでも少し調べておこう」
「よろしくお願いします。
では、私はこれで」
シヤは頭を下げ、部屋を出ていった。
「やれやれ……とんでもない話が出たの。
ミリアを下がらせて正解だったわい」
オリバーは苦笑し、ため息をはいた。
「まったくです。
私も正直、聞きたくありませんでした」
アリアもため息をはき、後悔していた。
「陛下の生誕祭、無事に終わればよいがの?
まったく忙しくなりそうじゃのう」
オリバーはもう一度、深いため息をはいた。
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