32 シヤ、マリーシアに気にいられる
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(なんで、いきなり会う事になるかな~?)
一礼の形を保ちながら、頭の中でビックリするわ~、と地団駄踏むシヤだった。
「顔をあげていいわよ」
マリーシアが、声をかけてくる。
「失礼いたします」
シヤは、その声に体勢を起こし、伏せ目がちにマリーシアを見ず、姿勢正しく直立する。
「……ふ~ん?
リンダ、この侍女は護衛を含むって言いましたわね?
どういう経歴の持ち主かしら?」
「ええ、実は、このシヤは陛下の生誕祭までの契約ですが、冒険者へと侍女を募集し、依頼を受けた者で」
「冒険者?
この者、が?」
「はい、そうです。
ランクはBで、かなりの実力を持っているようです」
「……ふ~ん?
侍女としてはどうかしら?」
「私から見ても、この城で働く侍女達と相違はないかと」
「……リンダが認めるぐらいだから、使えるみたいね?」
マリーシアは椅子から立ち上がり、シヤの側に近寄ってくる。
2人が会話をしている間も、シヤは姿勢を変えず、ただその場で直立している。
「貴女……どこかで会った事があったかしら?」
マリーシアは、シヤの顔を覗き込む様に顔を近寄らせてくる。
「いいえ……王女殿下とは、一介の冒険者としては、出会う様な立場ではありません」
(……気づいた?
気づかれてない?
女装して髪や目の色を変え戻しているのに、違和感を覚えるだけでも驚愕もの、だね)
一切の動揺も、動きもせずシヤは体勢を保ち答えた。
「そう、そうよね……その綺麗な顔を忘れる事はないのでしょうけど……気になるわね?」
首を捻るマリーシア。
……よっぽど気になるらしい。
(まあ、さすがに召喚の儀式で喚ばれ現れ、バカにされたスライム召喚士のオマケに、たどり着く事はないだろうけど)
「……う~ん、まあ、いいでしょう。
紅茶を淹れてもらえるかしら?」
マリーシアは座っていた椅子に戻り、再び向かっていた執務に戻る。
「……かしこまりました」
シヤは冷静に一礼し、部屋に添えられた茶器で紅茶を淹れ始めた。
ここはマリーシアの受け持つ内政を処理する執務室である。
どうやら、王女としての責務をこなしているらしい。
しばらくして、重なった書類の束や、手がけている書類に邪魔にならない様に、少量のクッキーとともに紅茶を置く。
「……ありがとう。
いただくわ」
手がけていた書類にサインをはしらせ、処理の終えた束の上に乗せ、紅茶とクッキーの乗ったお皿を引き寄せ、マリーシアは紅茶を一口、口に含む。
「……なるほど。
リンダが認めるぐらいはあるわね?
美味しいわ。
クッキーはどうして、一緒に置いたのかしら?
答えなさい」
クッキーを摘まみ、逆の手で口元を隠し、一かじりして食べた。
「……王女殿下は少々お疲れの様子と感じました。
紅茶を淹れる茶器のそばには、砂糖つぼは見当たらず、なのに普段から紅茶を飲まれる様ですが、砂糖を足さず紅茶を楽しまれる方だと判断しましたので、代わりに新しく用意され置かれていたクッキーをともに出させていただきました。
勝手ながらの判断をお許しくださいませ」
言い終えたあと、一礼して、マリーシアの言葉を待つ。
「なるほど……貴女の心配り、気に入りました。
契約は、陛下の生誕祭までなのでしたわね?
どうかしら……そのあとも、私につかえるつもりはないかしら?」
「もったいないなき、お言葉。
ですが、冒険者をやめるつもりはございませんので、不敬と存じますがお断りされていただきたく」
「残念……ね?
まあ、いいでしょう。
冒険者にしては、その不愉快にならない言葉つかい、不問にいたします。
期間まではしっかりと働きなさい……シヤ」
「ありがとうございます」
もう一度、深く一礼するシヤだった。
(思ったよりもまともな性格をしてるんだな?
初めにあった印象が変わったかも?)
お互いに、なにかを感じた2人だった。
それから、他の護衛侍女と交代しながら、マリーシアにつかえ、他の侍女は、マリーシアの気を障ったのか、とっかえひっかえと違う者と入れ替わり、他の者の護衛へと移る事が多々あった。
が、マリーシアはシヤを気に入ったのか、そばに控えている間は、常にシヤを連れまわり、話相手をさせていた。
ところかわり。
ある者は策略をおこす為、行動に移し始めた。
プレリューム王国に潜伏している魔族、カーマインである。
「くふふ……貴殿方を利用させていただきましょうか」
カーマインは、王都にある貴族の屋敷一帯の時間を止め、屋敷の主人であるマルチーノ公爵夫妻と2人の子供であるディアスの妻、マーガレットを洗脳し、また屋敷で働く者達全員を支配下に落としいれた。
カーマインは、かつてマリーシアに接触した時に聞いた、ディアス・マルチーノに目をつけ調べあげ、隠れ蓑とする事を決めた。
父親は筆頭公爵としての権威と、母親はプレリューム王国国王の姉の立場を、ディアスの妻マーガレットを使ってのディアスの誘導を企み、正体を隠したままマルチーノ公爵邸で客人として優雅に時を待つ事にした。
そう狙いは、プレリューム王国国王の生誕祭。
その時に集まるという各方面の来賓を、人質に、また支配下に置き、ともに動いた各国に潜伏している他の魔族達をも出し抜く為に。
こうして、シヤは知らず知らずのうちに、プレリューム王国の異変に、魔族カーマインの陰謀に捲き込まれたのだった。