26 シヤ、新たな出逢いと王都に足を踏み入れる
一週間が経ち、予定通りに修行終えて。
早朝の今、王都に入る為に門の前に、順番の列にならんでいる。
時おり……いや、結構な間隔で見られている。
(……私、汗臭いのかな?)
身体の臭いを気にしながら考える。
士也の姿なら、そんな事は気にしないが、今はシヤである。
女装をしていると、自然に女性の考えになる様に、自己暗示をかけていた。
これは、女装している事を気づかれず、また簡単にボロを出さない為だ。
一週間、毎日汗だくになりながら修行しては、スンに水の塊を出してもらって、身体を拭き、面倒臭い時は、深夜、真っ暗い闇の森の中で、そのまま水の塊に潜り込んで汚れを落とし、汚れた服を洗っては、上方の木の枝に干しては乾かしていた。
(だから、そこまで臭くはないと思うんだけど?)
首を傾げて見ている者達が話す、微かな声に耳を傾けた。
……あの娘、すごく綺麗。
見た感じ、冒険者みたいだけど、1人なのか?
おい、お前、声をかけてみろよ!
馬鹿か、見た目と違って狂暴だったら、どうすんだよ!
……違ったみたいだ。
どうしよう……シヤの冒険者カードで中に入るつもり……王都に入るには毎回銀貨2枚いるが、各ギルドカードを身分証明として持っていれば無償で入れる……だから、今から顔を変える訳にもいかないし、士也の姿に戻り、中で身分証明となるカードを新たに作る為にお金を払って入っても、士也では、ここで活動が出来ないしな……仕方がない、目立つのはあきらめよう。
「ねぇ、君、冒険者?」
あきらめた途端、4人組の男女が話しかけてきた。
「……そうですよ?
貴方達も……そうみたいですね?」
私は、4人の姿を見て問い返した。
「そうだよ。
僕達は4人でグループを組んでるんだ。
僕はリーダーのケント」
肯定し、親指で自分をさし、自己紹介を始める。
「こっちはガイ」
「よろしく」
頷き簡素に挨拶するガイ。
「ミーシャ」
「はぁ~い」
手を軽く振り、ウィンクするミーシャ。
「最後にリン」
「こんにちは?
おはようございます?」
慌てながら、お辞儀するリン。
「よろしく……私はシヤ。
ソロで冒険者をやってる」
4人を見て、千里を抜いた幼なじみ5人組みたいだなと思いつつ、自己紹介を返す。
「シヤちゃんか~。
シヤちゃん、すごく美人だね?
まわりのならんでいる人達、みんな、シヤを見てたよ」
ミーシャが私の手を取り引き込んで、抱きつき絡んでくる。
「……みたいだね?
私、最初、臭いのかなって思ったよ」
そして、逆にいい匂いがするなと思った。
「いやいや、そんな事ないよ?
なんでそう思ったの?」
リンが、私の言葉に驚き、否定しながら慌てる。
「え……だって、この10日間、森の中をさまよっていて、身体を拭いてはいたけど、匂うのかなって思って?」
「えっ?
シヤさん、君、東の大森林を歩いてきたの?」
今度はケントが驚く。
「うん、そうだよ」
「もしかして……道沿いじゃなくて、本当に森林の中をか?」
私の言葉を吟味して理解したのか、ガイは質問する。
「……そうだけど?」
ほら、とカードとなった素材の束を見せた。
「うわっ?
こんなところで出しちゃ駄目だよ!
誰かに、取られちゃうから!」
リンが、カードの束を隠す様に、覆い被さり注意した。
「その通りだ!
そんな風に出して知られたら、盗賊スキルを持つ奴に、『強奪』で取られるぞ!」
ケントがなぜか興奮しなから教えてくれる。
「……へぇ~、そんなスキルあるんだね?
初めて知ったよ」
そう言うと、4人はいっせいに私の見た。
「逆になんで知らないの?」
ミーシャが抱きついている私を揺さぶり問う。
「いや、私、大陸の出で……幼い頃から山奥で、師匠のもとで、修行してたから、あんまりそういう事は、知らないんだ」
まだ、揺さぶられているので、途切れ途切れに設定したシヤの内情を説明する。
「お、おい、ミーシャ。
いい加減揺さぶるのやめろ、シヤが壊れるって」
ガイがとめる。
「え?
あ、ごめん?
シヤ……大丈夫?」
「う、うん……大丈夫、だよ?
ミーシャ、凄い力だね……全然、外せなかったよ」
「う……ごめん」
ミーシャは、シヤを離し落ち込んだ。
「シヤさん、本当悪い!
ミーシャは身体能力自慢で掴み《キャッチ》&投げ《スロー》メインの武道家なんだ。
早さも力も体力もハンパなくて、コイツ」
リーダーとして、ケントが理由を言いつつ頭を下げる。
「なるほど、それで?」
納得した私は……力負けってだけじゃないね?
半分以上力が出なかったし、そういうスキル……いや、武道家の技かな……って判断した。
「あー、警戒しちゃったー?
本っ当、ごめん、シヤ……身構えないで~」
ミーシャは、わずかに動いた私を見て、泣きそうな顔で謝ってくる。
「ミーシャ?
お前は、なんでそうなんだ?
シヤさんとは、会ったばかりなんだぞ!
シヤさん、本当悪い……この馬鹿にいい聞かせるから、許してほしい」
ケントは再び頭を下げた。
「……わかった、怒ってないし、許すよ」
「……助かる」
ガイはため息をはきながら、感謝の言葉を言う。
そうしているうちに順番も縮まり、まもなく審査に入るので、一旦、話すのをやめて門番で警備している兵士に冒険者カードを渡し、王都に入る。
召喚された日は、フィガロ邸から直接外に出たのと、王城からは馬車で移動だったから、こうして王都を明るいうちに見たのは初めてだ。
王都は、綺麗に整備された建物の奥に見える、王城を含む白を強調した建物ばかりで美しい。
こうして、シヤは王都に足を踏み入れた。
「シヤさん、こっちだ」
冒険者ギルドの場所を教える為、ケント達はシヤを呼ぶ。
「あ……は~い。
今行くよ」
ぼんやり王都の風景に見いったシヤは、慌ててケント達のもとに向かった。
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