20 マリーシアの休憩時間
ここから2章となります。
新たな人物が登場。
プレリューム王国王城の庭園の一画、季節の様々な花が鮮やかに咲き、爽やかな風がふくなか、第一王女マリーシア・エレム・プレリュームは優雅に紅茶を飲みながら、一時の休憩を過ごしていた。
「……?」
突然、その場の時が停まったかの様に、緩やかに流れる風に揺られ、微かな音楽かの如く、花や葉が擦れる音、羽を休め歌っていた小鳥達の声など、一切の音という音が消えた。
「……やあ、ご機嫌いかがかな?
マリーシア嬢」
テーブルを挟んだ向こう側に突如現れ、座りこんでいる男がにこやかに笑っている。
「……今の今までは、よかったわね」
マリーシアは、ため息をはく。
「くふふ」
そんなマリーシアを見て、男は笑う。
「ところで……魔族の……カーマイン、だったかしら?
貴方、よくここまでこれたわね?」
「そう、それだよ?
マリーシア嬢」
人差し指を一本たて、身体を少し前に押し出す。
「いつもより、警備が少ないんじゃないかい?
まあ、認識阻害の魔法をかけてはいるが、それにしてはすんなりとここまでこれた。
それに、今ここでかけてはいる空間魔法はかなりの魔力を使っている。
あのおっかない魔道士はいないみたいだね?
……あ、君?
私にも紅茶を淹れてもらえるかな?」
まわりを見渡しやって、誰も来ないとわかると、側に控えている侍女に紅茶を頼む。
「……」
時間を止めた空間の中にいて、命令を受けた無表情で動きを止めている侍女は、ぎこちなく動き出し紅茶を淹れ始めた。
「……彼はもうこの国にはいないでしょうね」
「そうなのかい?
いや~、私的には嬉しいね~。
彼は強すぎる。
彼がいたら、私の計画も全然進行しないからね。
これで、先に進める……くふふ」
カーマインにとって、天敵ともいえる魔道士がいないとわかると、淹れられたばかりの紅茶を一口飲み、「不味い」と舌を出した。
本来なら、侍女が淹れた紅茶は、マリーシアが気分によって飲みたい茶葉を言えば、つねに美味しい紅茶を完璧に淹れる。
つまり、この侍女は、数少ないマリーシアのお気に入りの1人に入る。
今回、カーマインが不味いと思ったのは、時間を停められ、無意識で淹れた為、温度や蒸らし時間が違ったのか、単に、空間の時間が停まっているせいで紅茶の味が全然出てなかったか……カーマインは魔法の改良の余地を考えながら、不味い紅茶を味わう。
「……異世界から勇者召喚を行ったんだって?
まった、古くさい魔法を行ったもんだ……成功したのかい?」
仕方なく砂糖を大量に入れかき回し、一口飲んでは「甘ぁ~」と呟く。
……この魔族はなにをしたいんだろう?
「成功だったのかしらね?
貴方がいう、おっかない魔道士が色々して、使いモノにならないと判明したから、責任を取って彼等を引き取って、この国から出た様よ?
あのディアス《バカ》が、『騙されたー』って言って、お父様に追跡の許可を得て、追いかけていったから。
……本当、プライドの塊の愚か者だわ」
マリーシアは冷めない紅茶を含み、ため息をはく。
「貴方にとっては、喜ばしい事かしらね?」
「まさにその通り。
マリーシア嬢の言う通り、これで、動きやすくなった。
情報、感謝する」
カーマインは、甘ったるい紅茶モドキを飲みほし、席を立つ。
「あら、せっかちね……もう行かれるのかしら?
もう少し、お話なさらない?
もっと楽しいお話あるのだけれども……いかが?」
「……なにが言いたい?
いや、なにを聞かせてもらえるんだい?」
「そうね……そうそう、勇者召喚。
本来なら召喚されるのは5人だと、知っているかしら?」
マリーシアはニコリと微笑む。
「……知っている。
それがなにか?」
「今回、なぜか6人で召喚され、それも大変面白い事に、6人目のジョブが、スライム召喚士だというのよ?
貴方……どう思います?」
「……スライム」
「ええ……私、それを見た時、本当にお腹が捻れるほど笑ってしまいましたわ」
再び思い出したのか、扇を取り出し顔を隠し、マリーシアはちょっと苦しそうにお腹を押さえた。
「ふむ、それは……どうなんだろうね?」
カーマインは再び椅子に座り込み、困った様に考え込む。
「……あら、どうしたのかしら?」
「いやいや、確かに……この大陸なら、マリーシア嬢の様に感じるのが正しい。
しかし、我が魔族の支配する大陸……ディストピアでは、そうはとれないのでね」
「たかが、スライムよ?」
マリーシアは笑う事をやめ、不思議そうに尋ねた。
「ふむ……こちらの大陸……ヒューマニアではそうでも、魔素の多いディストピアでは、大いに異なるからさ?
……特に魔王様のおわす、魔王城の付近では魔素が更に多く、魔物もとてつもなく強い。
それはスライムも言える。
そこで育ったスライムは、魔族の兵を大群に送り込んでも、場合によっては討伐出来ないほど強い。
マリーシア嬢……よく考えてみろ?
本来、核を壊せば倒せるスライムだが……打撃に強く、魔法も効きにくい、倒すには魔力で纏った武器で上手く小さな核に当てなくてはならない。
ディストピアには、その手をやくスライムが3種いる。
1つ、マザースライム。
物を吸収し、子を分裂で大量に産み出し、支配する範囲を広げる。
2つ、スライムオーシャン。
初めは普通のスライムに見えるが、物を吸収しながら広がっていく姿は、海の津波の如し。
この2種は上手く討伐出来たら、その見渡す一面草1つない大地の窪みだけになるだろう。
最後に、エボリューションスライム。
コイツは単純に強い。
吸収した魔物も……魔族も、核も肉体も全てを吸収し、吸収したモノの能力も、スキルも全て、己のモノにする。
確認した事のあるのは、過去に一度、当事の魔王様が率いた幹部総当たりでやっと倒せたと言われている。
その魔王様でさえ、二度は闘いたくないと言われるほどだ」
いつものふざけた態度と口調を改めて、真剣な表情で話すカーマイン。
「その様なスライムが……?
いえ、でも……こちらの大陸ですわよ?」
さすがに、マリーシアも顔を青ざめている。
「だと、いいがね?
あ~、でも、異世界勇者召喚の禁術は、とんでもない能力を与えると聞いているからさ?
もしかしたらと思ったんだよ……驚かせて、申し訳ないね?
マリーシア嬢……でも、一応、覚えておくといいんじゃない?
んじゃ、これで失礼するよ……くふふ」
マリーシアの表情を見て、いつものふざけた口調に戻り、慌てて姿を消し、辺りに音が戻った。
「……戻った、のかしら?
ねえ、新しい紅茶を淹れもらえるかしら?」
マリーシアはまわりを見渡し、ため息をはき、意識を取り戻した侍女に、新しい紅茶を淹れる様にカップを差し出した。
「かしこまりました」
侍女は、空になったカップを引き上げ、新しいカップで紅茶を淹れ始めた。
(あら……どうして、空のカップがもう1つあるわ?
淹れた記憶がないんだけど?)
「どうかしたの」
使用したカップを不思議に思っている侍女に、マリーシアはもう1つのカップを見て、ああと思った。
「別に気にしなくてもいいわよ?
ちょっと面倒な客が、貴女の知らないうちに自分で淹れて飲んだだけだから」
「はあ、そう……ですか?」
「そうよ」
「……わかりました」
納得はいかないが、主である王女の言葉に頷くしかなく、淹れ終わった紅茶を差し出す。
「うん、貴女の淹れた紅茶は、本当に美味しいわ」
一口含み、笑顔でマリーシアは感想を言った。
「ありがとうございます」
侍女は深々と一礼をし、再び少しマリーシアから離れ待機した。
マリーシアの優雅な一時を再び過ごした。
マリーシア「その様なスライムが……?
いえ、でも……こちらの大陸ですわよ?」
千里「はい、フラグ立ちましたー!」
みんな「「「わ~い!」」」
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