19 フィガロ
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両親ともに代々平民。
生活も毎日が平凡に衣食住がギリギリな家族の中に、フィガロは産まれた。
産まれてしばらく安定期に入り、母親に抱きかからえ、魔力値を調べる為、神殿へと両親に連れられる。
この世界では王族、貴族、平民と関係なく神殿に訪れ、魔力値を調べる事になっていた。
特に、このプレリューム王国は魔力国家の為、調べに来る事は義務であり、また、格差カーストを誇示する為の儀式ともいえた。
その日は、当時のプレリューム王国、魔道士団魔道士長ビスマルク・ガンドーンが神殿に数日間、滞在していた最中だった。
このビスマルク・ガンドーンは爵位は伯爵。
母親に先々代国王の末子が王位継承権を返上し、ガンドーン伯爵家の一人娘である令嬢と結婚し、二人のもと、長男と産まれ、王族の血の流れを持つビスマルクは、当時最大の魔力を持つ者して、魔法の鍛練、教養を学び、成長した現在は、両親から爵位を引き継ぎ、伯爵、ならび王国魔道士団団長を努めていた。
ビスマルクは、数日前に王族が住む王城や、貴族街ではなく、平民が集まり住む住宅街で、自分に匹敵する魔力を感知し、部下の魔道士に調べさせ……そして、フィガロの存在を知った。
フィガロが安定期に入り、魔力値を調べに来ると思われる、この数日、ビスマルクは神殿に滞在していたのであった。
フィガロを引き取り養子にする為に。
魔力値を調べ、フィガロの魔力を知った両親は驚き、ビスマルクから養子の話で更に驚いた。
最初は断っていた両親も、ビスマルクの説得と積まれた金に負け、フィガロはビスマルクの養子となった。
ビスマルクには、妻はいるが二人に子供はなく、最初は他所でつくった愛人の子と勘違いされ、必死の潔白を証明、説得で事をなき得た。
ぎこちなかった妻の態度は、赤子のフィガロが成長するにあたり、本当の親子の様になったが……フィガロが10歳になる頃、遅かれながらも、ビスマルクと妻の間に長男が産まれた。
妻の子に対する愛情は、当然長男に向かった。
フィガロには、自分の出自を教えており、12歳になる頃、フィガロは、ガンドーン伯爵家の筆頭執事の子……レイドとともに冒険者となり、ガンドーンの名を返上し、養子から外れガンドーン家を出た。
家を出る条件に、連絡は絶やさず、また、18歳になる時には、冒険者を辞め王国魔道士なる事を誓わせられた。
平民に戻ったフィガロは冒険者として、依頼をこなし続け、A級ランクまでになっていた。
18歳になり、ビスマルクの推薦により、魔道士団の一員となったフィガロを待ち構えていたのは、他の団員によるイジメだった。
魔道士長ビスマルクの手前、目立つイジメはなかったが、公爵家嫡子、ディアス・マルチーノを筆頭に事務処理や、雑用をまわされ、仕事の終わる時間が遅くなる日々になる。
それを知ったビスマルクはディアス達に注意し、フィガロの仕事も分散され仕事の量は減ったが、今度は無視をされる様になった。
身分の差を仕方がないと思うフィガロは、仕事が減った事で時間が空く様になったので、魔法の練習を行うが思うようにいかず、忙しい魔道士長のビスマルクにも相談するタイミングが取れず困っていたなか、王城内をさ迷っていた途中、訓練場で訓練している王国騎士団を見つけた。
訓練の手伝いを頼みこむが、魔道士団と、騎士団の仲が悪い事を知らないフィガロは、拒み続けられたが、必死に頭を下げ続けた。
最初は傷ついた騎士を治療し、騎士に対しての魔法戦、騎士との連携と様々な戦法を毎日強いたげられる。
王家に近い魔力を持つフィガロであっても、魔力が切れる事もあり、気絶した事も何度もあった。
その日々を繰り返し慣れていく頃には、更に増やした魔力と魔法の技術、また知恵を得る。
そうして、25歳になり、歳をとったビスマルクが魔道士長をおりて、伯爵領に戻る事になり、国王率いる各部署の長の謁見のもと、次の魔道士長を決める勝ち抜き戦が行われ、優勝者が次期魔道士長となる。
勝負は順調に行われ、決勝にはフィガロと、ディアス・マルチーノが残り、フィガロが勝った。
自身の高い魔力に鼻をかけ、ろくに修行もせず、才能だけで勝ち上がってきたディアスに対し、騎士団との訓練で様々な実力を伸ばしたフィガロでは勝負にならなかった。
こうして、フィガロが平民上がりで初の魔道士長になり、ディアスは副魔道士長となる。
そして、2年が経ち、ディアスが企みで、禁術の異世界から勇者を召喚する魔法を、国王の姉でありディアスの母である公爵婦人の後押しで行う事になった。
数日後、フィガロは国王から、勇者召喚魔法の王命を受ける。
王命を受けたフィガロは、国王に魔法の特性を調べる為、数日の有余をもらい、過去の文献や、召喚魔法の魔道書を調べつくし、やがて禁術書に行きついた。
『異世界より召喚する勇者は5人であり、召喚した術者は己の生命力、すなわち魔力の根源である魂を消耗する事で、勇者となる者達を召喚する。
また、異世界から、この世界へと喚ぶには、異世界の肉体を捨て、この世界に対応する肉体を得て現れる。
すなわち、異世界で勇者は死に、魂を、この世界に喚び肉体を与える。
ただし、その異世界で勇者となる者達が着ている衣服や荷物は、こちらに転送され、着用、または手にした状態で召喚される。
最後に、この魔法を創作した古代の魔道士は、この魔法を失敗作とわかり、禁術として封印した』
「なんだ……これは。
それほどまで、平民あがりの私が憎いか?
ディアス・マルチーノ……」
魔道書を調べる間に、各方面に召喚魔法を行う事になった経緯を信頼できる部下に頼み、フィガロは集まった情報を読み、ディアスの考えを知った。
フィガロは、国王に新たな一週間の準備期間をもらい、考えられる全ての反抗の小細工をしかけ、当日を迎えた。
そして、フィガロは異世界から、勇者召喚魔法をおこない、召喚の魔方陣の上には6人の少年少女が、姿を現した。
5人ではなく、6人の召喚はフィガロにとって喜ばしい事であった。
6人目の犠牲者の手前、表ばって喜べなかったが……おかげで数日の命が、半年から1年まで伸びたのだから。
そして勇者を召喚した、あの日より半年の時間がたった。
秋雨達は冒険者ギルドの依頼で、数日は戻ってこない。
「ふふ……レイド、これを見ましたか?」
安楽椅子にほとんど動かない身体を預けながら、どうにかして読んだ新聞の記事に、プレリューム王国にかんする内容が書かれており、側にいてフィガロの世話をするレイドに声をかけた。
「……ああ、どうやら、あの子が動いているみたいだな」
「……ふふ、この目でみれないのが残念だよ」
「そうだな」
「……レイド?」
「なんだ?」
「今まで……ありがとう。
側にいてくれて……」
「……なんだ、急に?
もう死にそうな物言いはよせ……バカ野郎が」
「ふふ……相変わらず2人の時は、言葉悪いな」
「……物心がついた時から側にいるんだ。
別に気取る事もないだろう」
「……まあね」
「……あと、どれくらいなんだ」
「おそらく……2、3日くらい……かな?」
「……そうか」
「うん……あの子達の事、頼むよ?」
「……アイツらにとって、もう俺が役にたてる事も、そうはないがな?」
「かもね……それでも、頼むよ」
「はぁ……わかったよ。
だから……いつでも安心して……逝け」
「……うん……ありがとう」
「バカ野郎……が」
レイドはほとんど意識を保つのも苦しいはずの、フィガロに涙を流しながら、キチンと毛布をかけ直す。
フィガロは、意識は戻らないまま、浅い呼吸を不定期に繰り返し……2日後、この世を去った。
その死に顔は、優しい微笑みだった。
フィガロさ~~ん(;つД`)
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