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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

語り部悪魔

作者: 大中小の鞄



甲高い声が響いた。


「さあ、皆さん聞いていってください、な。あなたたち人間が悪魔の話を聞ける、なーんてことは滅多にあるもんではないのですよ。今日はぜひ、耳を傾けてくださいね。」


そんなふうに狡猾な悪魔は嬉々としてしゃべり始めた。


そして手を、パン、と叩くと、「さぁ~て。それでは」と悪魔の話が始まるのである。


「今日は私が会った、面白い男の話をしましょう。


そうですね、はじめ、その男が不幸にも、ガールズフレンド、そう!彼女さんが死んでしまったところから話が始まります。


男は女を抱えて泣いていたのです。どうして彼女が!なんて叫びながらね。


私がその現場に訪れる、その直前に、女は心臓発作で亡くなったのです。


私は、天使が周りにいないことを確認して、男の前に現れました。


え?どうして天使がいないか確認したのかって?


ふふ、決まっているではないですか。


あやつら天使は、死んだ人間をみつけるなり、魂をすぐに天界に送ってしまうのですよ。


そしたら我々悪魔は、人間の魂に触れる機会がまったくないのです。


まぁ~ったく、困ったもんです。


もし仮に、その魂が地獄に落ちても、管理は閻魔様じきじきの鬼たちに取られてしまうのです。


だからこそ、悪魔が魂を手にするには、人間が死んで、すぐ側にいないといけないのですよ。


だからこそ、この時は運がよかった、な~んてね。ふふっ。


私が姿を現すと、男は目を丸くしました。


『あなたは、一体。』と私の正体を気になっている。


私はその問に答えず、『女を生き返らせたいか。』と質問で返した。


男ははじめ、言葉の意味を理解していない様子だった。


なにせ、女が死んで、目の前に悪魔が現れりゃあ、そうなるのかもしれませんね。


男が理解するまで、私は何度か、『女を生き返らせたいか。』と繰り返した。


男が『できるのか、彼女を生き返らせられるのか。』と食いついてくるのは、当たり前の事だった。


私は、ふんっ、と大きな鼻息をもらしながら『ああ。』と渋く答えた。


すると男は『お願いだ!』とすぐに頭を下げてきた。


無論私は悪魔だから。誰かが喜ぶことを無償でするはずがない。


それはみなさんおわかりであるでしょう。


だから私は『犠牲が、必要だ。』と答えた。


男はその言葉の意味をすぐに理解したらしく、『わかった。俺の、俺の命を。俺の命を使ってくれ。』と涙を拭きながら言った。


私は、『貴様の命だけでは足りない。』と。


『命ひとつ生き返らせるのに、ひとつの命の行き来では、プラスマイナスでゼロというやつだ。』


男は、『ならどうすれば。』なんて困り果てた。」


狡猾な悪魔は口角を耳元まで引き上げた。


そしてゆっくりと、二つの手の平を合わせた。


「『だれかを殺しなさい。誰かの命を奪いなさい。』」


狡猾な悪魔の目が細くなった。


「『そうだ。今回は初めてですから。命を二つ奪いなさい。』


私がそう答えると、男の顔に恐怖がのっかった。


私はもしかしたら、男が殺すのをためらうかもしれない。


そう思い、『期限は一週間。それを過ぎたら、女は生き返らない。』と条件を付けたしました。


男の顔がさらに暗くなりました。


まあ、ひどいようですが、わかってほしいものですよ。


私はこの一週間の間、天使から女の命を隠さないといけないのですから。


それから、私は男に、『では、人間よ。今から一週間だ。』といい、姿を消しました。


これ以上は男が一人で考えるしかないですからね。


男はそれはすごく頭を抱えていました。


その夜は眠りにつかず、女をとりあえず布団に寝かして、その隣男は座り続けた。


男がどんな選択をするかは皆さんにもおわかりでしょう。


大切な人のためなら、人はどんな汚い手でも汚してしまうものです。


あなたたち人間は時折、命は平等だ。なんてほざいていますが、結局人間なんて、命に優劣を作ってしまうのです。


もちろんこの男も、女の事を考えていた。


その日から男は、鞄に包丁ひとつ持って街を歩き始めた。


一日目。男はものすごくそわそわしながら近所をぶらりぶらり、ふはっ、まるで不審者!


まあ、これから殺しをしようっていうのですから、不審者に変わりないのですがね。


それから二日目、三日目、四日目。


男はただ辺りをうろうろするだけで、な~んにもしない。


朝方、男は仕事に行き、夕方に帰る。それから包丁抱えて、深夜まで辺りを歩く。


寝る前に10分ほど、女を見つめて寝床に入る。


あああああ!早く殺せよ!な~んて気持ちを私は抑えながら男を監視し続けました。


六日目。さすがに男は焦ったのか、いつも家に戻る時間になっても、辺りをうろうろし続けた。


そして近くの公園のベンチに座り込み、頭を抱えました。


男は『くそっ。くそっ!殺せよ、殺さないといけないんだよ。』とぶつぶつ唱えました。


その時、茂みの中から、猫の鳴き声がしました。


にゃ~。にゃ~。ってね。


そこの猫は人間になれていたのですね。


そうでないと、男が猫に近づけた理由が他にありません。


近所のエサをくれるガキとでも勘違いしたのでしょう。


猫が二匹、自ら男の方に近づいた。


男は猫の背中を撫でた。そして不意に涙をこぼした。


『ははは。』と力なく男は笑いました。『おれ何してるんだろうな。』と猫に話しかけながら。


そんな男に悪魔的考えが脳裏に浮かびました。


悪魔の私が悪魔的というのもあれですがね。ふふ。


勘のいい人間はわかりますよね。


男は猫を殺そうと考えたのですよ。あ~あ。


男は『ははは。はは。はははっ。』と笑いあげた。


それも知らず、近づいてしまった猫は悲しいですね。ま、仕方ないですが。


それから男は包丁を持った。


そして二匹が逃げないように、気づかれないようにゆっくりと抑えます。」


狡猾な悪魔は右手をグーにして、高く持ち上げた。


「グサッ。」


声とともに、狡猾な悪魔は右手を、左の手のひらに打ち付けた。


ゴッ。


鈍い音が響いた。


「そして、男は猫を殺しました。


男が手に着いた血をふき取り、心拍を抑えようと胸を抑える。


私は男の前に姿を現しました。


するとすぐに男は、『ちゃんと殺したぞ。』と粋がりました。まったく。


私はその時すごいため息をもらしました。


仕方ないですよ。私はてっきり人間の命のつもりでしたから。


『猫か。』私はつい言葉にしてしまいました。


男は『命っていうだけで、人間とは言っていないぞ。』とどや顔でした。


『人間の命がおいしいのだぞ。』と私が言うと、


『食うのか。』と男はおどろいた。


私は食うのが当たり前だと思っていたんですがね。


特に、罪なき人間の命はおいしいのですよ。


それを猫!猫で済ますもんですから。私はひどくがっかりしましたよ。


ふ、仕方ないですね。と私はすぐに諦めましたよ。


『ふ、人間よ。今回はこれで済ましてやる。次は人間をもらうぞ。』と私は言いました。


『次なんてあってたまるかよ。それより彼女を生き返らせてくれるのだろうな。』と男は強気でした。


私は約束は守る悪魔ですから。絶対にね。


ちゃあんと女を生き返らせて、『家に帰ってみろ。』といい、姿を消してやりました。


それから男は、家にものすごい速さで帰り、女の名前を呼ぶのですよ。


男の目には、布団の上で体を起こす女の姿がうつりました。


声を上げて喜ぶ男。それからこやつら人間二人というのは、また一緒に楽しい日々を過ごすのでした。


生意気にもね。めでたしってやつですよ。」


そこまで話すと狡猾な悪魔はふ~、と息を吐いた。


「あれら、みなさん不思議そうですね。


これでは私がいいことしたみたいではないかと。悪魔のくせに。


猫の命を軽く考える、愚かな人間の話なのかと。


ご安心くださいな。喜劇はいまから始まるのですよ。


そして、まるで私がしてやられたのだと思っている皆さん。


ふふ。勝ち負けではないのですがね。


どちらかといえば、約束を男が守った時点で、私の独り勝ちなのですよ。ふふ。」


狡猾な悪魔は周りを見渡した。


そしてまた話が始まった。


「それから、また。その男の話です。


男は女が生き返ってからいつもの日常を過ごしていました。


ただ、男は彼女に悪魔のことについては話すことはありませんでした。


っまあ、猫を殺したなんて言えないでしょうがね。


ある日、そんな男に因果応報とでもいうべきが起こります。


不幸にも、女との楽しい日々を過ごしたと思えば、女はまたもや死んでしまったのです。


突然ころり、とね。


男はまたあの日と同じように女を抱えていました。


私はまた男の前に現れました。


『彼女が、彼女が。』なんてまた男は慌てておりました。


私は甲高い声で、『また会ったな、人間。』と言いました。


男は『彼女を、生き返らせてくれ。』と私が言う前に願った。


私は話が早いと、『いいだろう。だが今度は。』と。」


狡猾な悪魔は手のひらを見せた。


「『いつつ。五つの命を奪ってもらう。』と私はこたえた。


男は『いつつ!前は二つじゃなかったですか。』と文句ありげでした。


でも仕方無いのですよね、『あれは初めてなのですから。』、ね。


私はそれから、『そうそう、もちろん今度は人間の命限定ですからね。』と付け加えた。


男は絶望した。こんなことできるかよって感じでね。


私には関係ないことですがね。


『期限はまえと同じ、一週間。』


そう私はいい、姿を消そうとしました。


ですが男が、『無理だ。』なんてぼやついているものですから。


私は男にいい情報を与えてやることにしました。


『公園の近くの緑の屋根の家があるだろう。そう一軒家の。』


男はきょとんとした。わたしは続けた。


『そこにはよぼよぼの婆が住んでいる。』とね。


伝えたいことは伝わっただろうと。男がわなわなしているのをほっといて、私は姿を消した。


これからどうするのかは男しだいだ。


私は背中をおしただけに過ぎない。責任は男にあるだろう。


だが男は、やってくれる人間だ。それはすでに私のお腹におさまっている猫の魂が証明しているのだ。


その日男は、女を見続けて、わなわなと夜を過ごした。


おっと、彼はその時、包丁を手にしていたみたいだがね。


さてそれから男がどうなったのか。


男はそれから三日程、私が教えてあげた家のことを気にしていた。


だが勇気が出せないのか、その家を直接見に行こうとはしなかった。


またあの時のように、ぐづいていたわけだ。


そうしてある晩。その日はやってくる。


男ははじめはゆっくりと公園についた。


そして目を細めて、監視カメラがあるだか無いだかを入念に確認する。


一歩。男は家に近づく。そしてまた一歩近づく。


そうしていつの間にかドアの前についてしまっている。


男はゆっくりとドアノブに手をかけた。


ゆっくりまわして、少し、少し、すこーしずつ引いていく。


鍵はかけられていない。不用心な家だ。


それがわかると、男は素早くドアを開き中に入った。さささっとね。


ぎぃ、と音をたてぬように、そろりそろりと男は進んでいく。


目の前に扉があった。


男はそこを開け、中に入った。もちろんゆっくりとね。


ライトがついてなくて真っ暗だ。


だが、寝息が聞こえる。いびきほどではないが、すぅー、すぅーと音がする。


男が暗闇に目が慣れると、ベットがひとつ。そのうえで婆が寝ているのが見えた。


男はこれまたゆっくりと近づいた。


そして、ゆっくり包丁をかかげ、」


狡猾な悪魔は右手を握りしめ、手を振り上げた。


「婆を突き刺した。」


ゴッ。狡猾な悪魔の右手が左の手のひらに落ちる。


「それはもう勢いよく一直線。心臓めがけてね。痛そうだね。


婆は即死だった。ただある程度は物音を立てた。


うっ、なんてうめいたり、ベットをバンとしたりね。


まるで、もう少ししかない寿命の炎を一気に、ふぅー、なんて消されたかのようだった。


男は包丁を抜いた。そうして力が抜けたのか、それとも自分がやってしまったことにようやく気付いてしまったのか、男は包丁を床に落とした。


カラン、ではなく、ゴン、音は響いた。響いてしまった。


もちろんそれだけが原因ではないのですがね。


すこし殺しに音を立てすぎていた。


そう、隣にいたご家族のうち一人が目を覚ますほどにね。


物音に気付いた家族の一人は……なんです?なにか言いたそうですね。


ああ、先に伝えときますが、私は婆が住んでいるといいましたが、何も独りで住んでいるとは一言も言っていませんよ。


ふふ、これでも一応嘘は嫌いですのでね。


あら、勘違いでもさせましたかね?


まあ、男は勘違いしたのかもしれないですけどね。


なにせ、男は急に扉が開き、電気がついたことにひどく驚いていましたから。


ふふ、まあ、驚いているといえば、ご家族の方ですね。


ご家族の一人は大きな悲鳴をあげました。


それを聞いたほかの人が目を覚ましてしまう。


あら大変。男はその場をどう切り抜けたでしょうか。


男はその時、頭が真っ白になっていた。


唯一感じたのは、拾い上げた包丁の握る感覚だけ。」


狡猾な悪魔は思い切り手を振りかぶった。何回も振りかぶった。


「男は滅茶苦茶でした。包丁はこれ以上赤に染まりません。


ですが男は抜いては刺してを繰り返しました。」


急に狡猾な悪魔は動きを止めた。そしてにやりと口が裂けたように笑う。


「男は結局、そこに住んでいた婆を。奥さんを。大黒柱を。娘さんを。殺したのでした。


男は我に返ると、あわてて家に帰った。


はっ、はっ!と息が。ドクンドクン!と鼓動が止まらない。


男が女の前で膝をついた。男はゲロを吐いた。


そんな男の前に私は現れた。


男はぐったりした目をしながら、私を見上げた。


『はあ、おばあちゃん独りじゃなかったぞ。』男は苦しそうだ。


私は、そう、さっき言ったみたいに、『婆がいるとは言ったが、独りとは言葉にしてない。』と説明してやった。


男は私に憤りを感じたのか、こぶしを固くした。


が、事のあらましを思い出しては、頭を抱え、うろたえ始めた。


男が鎮まるのに時間がかかりましたよ。三十分ほどね。


私はそれから、『現場の後片付けをしなくていいのか。』と尋ねた。


『まずはそれをしないとすぐにばれるぞ。』とまで言うと、男はゆっくり立ち上がっては準備をして家を出た。


男は嫌々だったが、それよりも嫌だったのは私に違いない。


男がその時、証拠隠滅に出かけたのが真夜中二時半ほど。


帰ってきたのは五時半だ。とにかく私はすごく待たされた。


ところがだ、機嫌が悪くなる私に対して、男は力強く玄関を開け入ってきた。


そうするなり、『一人足りない!』なんて叫びだす。


先ほどまでの罪悪感が嘘のようだ。


その時の私は拍子抜けでね、思わず、はははっ、と笑ってしまった。


私は『彼女を生き返らせてやろう。』と男に言った。


男は『いいんですか。』とまるで天使に祈るように、私に近づいた。


私は『もちろんだとも。』と手を大きく広げた。


『そもそも、もうすでに五人の命は確かに頂いた。』と私は続けた。


男はきょとんとした。


私は笑いながら、『貴様の殺した中に、三、四十ぐらいの女もいただろう。奴は妊婦だ。そう、子供がお腹の中にいたのさ。そしてそいつを足して。』


『五人。五人だ!』男は嬉しそうに笑った。


まあ、私はそのつもりであの家を教えたのだが、それをこの男にいう必要はない。


『特に、宿ったばかりの命はいい!何も汚れてない、美味だ。』


と私が言うと、男はほっとしている様子だった。


おっと、私をひどいなどとは思わないでくださいよ。


あなた達だって食べているのは命なのでしょう。


それに食べ残しまで出るのだとか。まったくひどい。


猫までもきちんと食べる私を見習うべきですよ、人間は。


それにですよ、殺したのはこの男の方なのですから。


私を責めないでくださいね。これは約束なのですよ。


彼はこうする、っていうのね。


ああ、そうそう。私もきちんと約束を守って、女を生き返らしてやりましたよ。


動き出した女の心臓を聞いて、男は喜んでましたね。


私は、女が目を覚ます前に姿を消しました。


それから二人はまた、幸せの日常を取り戻しました。


もちろん、男の人は彼女にこのことをしゃべりませんでしたがね。


二人はこうして、二度目のめでたしを果たすのです。」


狡猾な悪魔はそこまで話すと、三つ目の手を体に巻き付けた。


「二度目って何でしょうね。二度目のめでたしって、ねぇ~。


ふふ、もうさすがに理解の早い皆さんだ。


それともあれですかね、人間には二度あることは三度、そういう言葉があるからかもしれませんね。


そうです、幸せな暮らしをしていたすてきなお二人方は、また、不幸が訪れちゃうのです。


男の人はまたある時、女の人を抱えていました。


『おい、悪魔!悪魔!いるんだろう!』と男は私が出る前から騒がしく怒鳴っていました。


私がはいよ、と姿を現すと男は私に向かい、『なんでまた彼女が死んでいるんだ。』と文句を言ってきました。


『お前の仕業じゃないのか!』みたいにね。


私は仕方ないので、『私は約束したことしかしない。また嘘もつかない。』と念を押してやりました。


男は、『前、騙したじゃないか。』みたいなことをいっていましたが、まあ、納得するしかないようで、『また殺しか。』と私に言いました。


まあ、この男は話が早くてとても助かる。


私は不敵に笑い。『今度は八人殺せ。人だぞ。匹じゃなくてな。』とね。


男はそれはもうすでに心に止めていた。


だから私は『今度はあまり期限を決めないでやる。長く見るつもりはないが、まあ、ちゃんと彼女が生き返ることを知っている貴様なら大丈夫だろう。ふふ、彼女が生き返すか、しないか。その程度だ。』とあざ笑うようにし、男の前から姿を消した。


これからの男の行動は早かった。


男は包丁をカバンの中に入れると家を出て、電車に乗った。


それから住んでいる場所より遠くに着くと、男は山に登った。


私は何しているのかわからなかった。ただ姿を消し見守っていた。


木々が少し開けた場所に出ると、そこには誰も使われていないような、ぼろぼろな小屋があった。


男は『なつかしいな、まだあったのか。』といったので、恐らく、この男が子供のころかそれぐらい昔に作った、あるいは無断で使っていたのだろうと私は察した。


その小屋にはよく見ると、お菓子のごみやらなにやらが周りにいくつか落ちていた。


あらら、どうやら子供がこんな山奥まで来ているようですね。


男はそれをみて、口をひきつらせた。まるで私みたいにね。


それから男は準備をし始めた。


落とし穴を作ったり、小屋の中を整理したり、長い縄を買って来たり。


それらをどう使うのかは知りませんが、まあ、殺しに使うことは明白でしょう。


それから何日後かまでに男は殺すのです。


近くに来た子供を連れさり。」


狡猾な悪魔は右手をまたまたグーにした。


そしてやはり左の手の平に打ちつける。


ゴッ。


「包丁を突き刺す。」


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。


「刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺す、刺ぁぁぁぁああああす!


男は、男は何人も殺した。


その時の様子といえばすごいものでしたよ。


周りがもう血の海で、何よりすごいのは子供の悲鳴。


口に結んだ縄がほどけた子供がですね、これは甲高い声で泣き叫ぶのですよ。


それはもう、今にも死んでしまうかのようにね。


ま、死にましたけどね。


私は子供の声が大の嫌いでしてね、離れた空の方から眺めていました。


私が下りてくるころに、男は罠に使った落とし穴に子供たちを埋めていました。


人間は賢いですね、悪魔ほどではないですがね。


男は、それから替えの洋服に着替えると、電車に乗り、家に帰った。


『おい悪魔、悪魔、約束通り八人、やったぞ。』と男は呼んだ。


どうやら、私は家にずっといると思い込んでいるらしい。


姿を消しているだけで、ずっと後ろにいるのですがね、ふふ。


まあ、私にとってはその方が都合がいいので、『呼んだか。』と、今来たかのように姿を見せてやった。


それから、男は女を生き返らしてほしいと、そして私は約束を守ると。


まあ、またいつもの流れですね。


それからも特に変わらない。またいつもの日常に二人は戻っていく。


その流れです。そう、めでたくね。


そしてそれからの流れっていうやつもまた同じです。


もう皆さんわかりますよね。


そう、また女は死ぬ。


そしてまた男はそのために誰かを殺す。


私が生き返らせる。


それが何回も繰り返させられる。


男は殺す。殺す。殺す。殺す。何人も、何回も殺す。


私は一回に十人以上は増やすことはしませんでした。


この男が捕まるといけませんからね。


でもたまに、男はうっかり多く殺してしまう時もありました。」


狡猾な悪魔は、不気味に笑う。


「ああ、いいですね。私はそのおかげでお腹いっぱいになりましたから。


ふふふふ、はははは。…………まあ、いずれ終わりは来るのですがね。


そうですね、女が死んで生きてを繰り返す、それが終わりを迎える日から再開しましょうか。


それまで、男は女のためにだ、と息巻いては人を殺し続けました。


何人もの人を。時には幼き赤ちゃんまでも。


そしてある日のことです。


それは、男と女が二人仲良く買い物デートをしているときに起こりました。


グサッと。包丁が刺さりました。


誰に?女にです。


男の横にいる女にです。


もちろん刺したのは男ではありませんよ。


子供、小さな子供でした。


包丁を持って、ガタガタしながら、「ひ、人殺しめ!死ね!」と言葉だけは強い子供でした。


男は焦りました。倒れる女を抱えて、胸に流れる血の量を見ました。


『ああ、嘘だ。』と男はうろたえます。


ん、何度も生き返らせているから、今回もそうすればいいだろうって?


ふふ、無理は言わないでください。


今までは、外傷がない、心臓麻痺でしたから。


男には、外傷があるとき、それは治せないと伝えているのです。


もし仮に、首が切断されたとき、それを治すのは無理があるでしょう。


そういう感覚なのですよ。


何より、人の目にたくさん触れてしまっている。


女が死んだと周りに知られた状態では、もう生き返すことは出来ない。


男にはすでにこの二つは伝えましたけどね。


皆様にはまだでしたか。申し訳ございませんね。


なにぶん、間がひどく開けてしゃべっていたもんですから。つい、ね。


まあ、それは置いといて、だからこそ、刺されてしまった女をみて、男は焦った。


そしてひどい後悔が生まれました。


人殺しと言われてしまった。私が人を殺した代償がここで、ってね。


その間、包丁を持った子供は、周りの人に取り押さえられていました。


いや、人が上から乗っかって窒息していた、が正しいですかね。


ま、何より、男にとって取り返しがつかなくなったことは確かだった。


その時、『ねえ、聞いて。』と女が言葉を発した。


息がとても弱く、残りの力を振り絞って口にしていました。


男は女がまだ生きていることに、喜び、『救急車!早く呼んでくれ!』と叫びました。


男は興奮していました。そこを女が男の頬に手を伸ばして落ち着かしました。


『ねえ、今のうちに言っといておかないといけないことがあるの。』


と女は弱弱しく言いました。



男はそのか弱い声を聞き取るために女に頭を近づけます。


そして、『もういい、しゃべらないでいい、無理しないでいい。』と男は涙を流しました。


しかし女は言葉を続けます。


『私ね。人を殺していたの。それも一度や二度じゃない。何人もの人を殺したの。


私ね、それがいけないことだってわかっていた。


でもね、あなたを生き返らせるためだ、なんて自分を正当化し続けた。


ひどいよね、見損なったよね、嫌いになったよね。


でも、あなたを失うのが嫌で、なのに何回もあなたは死んじゃって。


私はそのたびに人を殺し続けた。


だからね、これは報いなんだよ。私のこれまでに対することのね。


あなたといれてよかった、もう死なないでね、あなた。


………あなた?あなた………。』


女は長々しゃべっていた。


だが男は、口を大きく開けて、何かを叫んでいる。


女は『ねえ、ねえってば!』と慌てている。


そこに私は声をかけた。『聞こえていますよ、私はね。』と。


女は私をみた。『あ、悪魔さん。なんでこんなところに。』と女は言う。


私は下を指して、『自分の下をごらんなさい。』と返す。


女が言われた通り、下を見ると、そこには女が眠っている。


いや、正確には、女の体、ですかね。


私は続けた。


『あなたはもう死んでいるのですよ。ほら、足ももうないでしょう。男の声が聞こえないでしょう。それはもう死んでいるからですよ。』


女はうろたえた。私はまだ続ける。


『ふふ、大丈夫ですよ。安心してください。先ほどのセリフ、何も伝わっていませんよ。あなたが人を殺したなんて、男は何も知っていません。』


女は『うそ、うそよ。』とまだ信じられていなかった。


私は『早く済ませましょう、私はこれから男に用がありますので。』と手をあわした。


すると女は驚いたようで、『彼に何するのよ!』と私に尋ねた、いや、叫んだ、かな。


女は『彼に人殺しはさせないで!』と叫んでいた。


ふふ。おかしいでしょう。だから私も声を上げて、『ふはははっ!』って笑ったのです。


この女は知らないのです。私と男の関係を。


私は今まであったことを女に伝えてあげました。優しいでしょう、わたし。


男が人を殺したこと、女が死んで泣いていたこと。


全部伝えてあげました。


女はそれはもうあり得ないって顔をしていました。


『なんで!そんな!おかしい。これじゃあ、私が死んで、彼が死んで、それが交互で繰り返しているじゃない!』


というので、『そうですよ。』と返してあげます。


すると女は顔を真っ赤にしましてね、『あなたしか得をしていない。っ!あなた、あなたが私たちを殺し続けていたんでしょう!』なんて叫ぶんですよ。まったく困った。


ですから私は正直に。」


狡猾な悪魔は翼を広げた。三つ目の手が肩に乗った。


「『その通りですよ。』って伝えてあげましたよ。


その時の女の顔は。ま、よくわかりませんね。


ひどく怒っているのか、絶望しているのか、どっちなのか全然わからないんですよ。


私はあくまで約束な忠実に悪魔ですから、女に説明してやりました。


『私は約束はキチンんと守っただけだ。初めに言っていたじゃないか。切羽詰まった顔をしながら、私の命を使ってくれ、と。私はなんて答えた?それだけでは足りぬ、だ。決してお前の命をもらわないとは言っていない。いや、むしろ貰うと言っているではないか?』


……女はひどく暴れた。まったく。


私は黒い霧を出して女を押さえつけました。特に口の方をね。


そしてそのまま言います。


『約束は約束。勘違いしたのはそちら。諦めてください。』


しばらくして女がおとなしくなったので私は拘束を解きました。


すると、『最後にひとつだけ。お願い。』と女が私に言います。


『彼にこれ以上何も言わないで。彼に会わないで。』と。


私が『約束ですか。』というと、『ううん、お願い。』と。


『見返りは……。』と女を見ましたが、これ以上女が何もできないことを私は知っている。


私は少し考え、『いいだろう。約束してやろう。私はこれ以上この男に何もしない。』と答えてやりました。


もちろん、見返りなどないですがね。私は優しいですから、悪魔の中でも。


女はほっとしたようにすると、『これから私はどうなるの?』と問いました。


『もしかして食われるの。』と私の口を恐る恐るにみるのです。


私は笑いながら、『とんでもない。食わないさ。罪人の、汚れた魂ほどまずいものはない。』といいます。


『お前は地獄に行くのさ、滅多に行けるものじゃないさ。』というと、女は怯えます。


まあ、まずは閻魔に裁いてもらい、地獄か、天国かわかるが、この女が地獄に行くのは明白でした。


女が最後に『約束守れよ。』と残し、私にこの世から消されました。


私はそのあと、男を横目で見て、その場を静かに離れました。


…………。」


狡猾な悪魔は口元をおさえ、くっくっくっと笑った。


「いま皆さんの中で、なんだかんだ優しいと少しでも思った方がいますね。


残念、私は悪魔ですよ。


二人に内緒で、たくさん人を殺さした悪魔ですよ。


これが終わりではありません。


先ほどのオチは女のオチであって、男の終わりではありません。


そしてこの話は男の話です。これからがオチ、なのですよ。


あれからというもの、男は、女が亡くなってひどくやつれてしまった。


葬式にもぐったりとして、男は嘆いていた。


そんな男の鞄には包丁が入っていた。


男は、結局。私の事を考えていた。


男は『悪魔いるんだろう、出てこい!』なんて叫ぶ。


私はもちろん、姿を現しません、ま、近くにはいましたがね。


男は『殺せばいいんだろ、また。何人殺せばいい。』と叫びます。


『いつも通り十人だろ。なあ。』なんていい、男は家を出ます。


そして男は。」


狡猾な悪魔は右手をグーにした。


そして左の手の平に打ちつける。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。


「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。」


狡猾な悪魔は、まだ右手を緩めなかった。


「しかし私は何にも男と約束を交わしていません。


だからこそ、私には何の義理は無いのです。


男は叫ぶ、『おい、悪魔、殺したぞ!』ってね。


それから一週間がたつと今度は、『まだ人が足りないんだろう!なあ。』というと、男はまた家を出るのです。


それを何回も続け。」


手を打ちつける。何度も、何度も。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。


「…………。」


狡猾な悪魔は手をぴたりと止めた。


そしてにやりと笑い、私たちの方を見た。


「ね、愚かな男でしょう。


ここまで面白い話はないでしょう。


その男がどうなったかはわかりませんが、ま、女と仲良くデートでもしてますよ。


いやぁー、二人にはとても世話になりましたからね。


片方が死んで、生き返って、死んで、生き返ってを繰り返す。


とてもいい考えでしょう。


恋は盲目って言葉がありますが、まさにそうですね。


え、これで、終わりかって。


そうですよ。これで終わりですよ。


何ですか、もっとグロいのを想像していましたか。


なかなかあなた達も悪魔ですね、ふふ。


それはそうと、どうして私がこんな話をするかわからないでしょう。


じ、つ、は、ですね。


このやり方、天使の輩に見つかりましてね。


全面的に禁止されてしまったんですよ。ひどい話だ。


確か、パートナー悪用禁止令、だとか、生き返り禁止法か何かが作られてしまったんですよ。


そして、私はその罰として、こうして人間に私の悪行を伝えているのですよ。


もし仮に悪魔にささやかれても、あなたたちが殺人をしないようにね。


まったく、もう少し長くいけると思っていたんですがね。


あまりに人間というのはもろすぎる。


おや、なにか言いたそうですね。


うむ、この悪魔!ですか。


まあ、私は悪魔なので多少はね。ふふふ。」


そういうと、狡猾な悪魔は姿を消した。


笑い声が、頭から離れるのに、少し時間がかかった。




FIN

ふふ、もうすこし魂を食いたかったですがね。


次はばれないようにやりますかね。


なにせ、ばれなきゃ、罪ではないようですしね。ふふ。

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