005
それからミドリとエリは、いったん荷物を屋根裏部屋に置き、エリはミドリにメモ帳と鉛筆を持たせ、屋敷の中を案内して回った。
何か指示をするたびに、エリはミドリがキチンとメモを取っているか目視で確認し、復唱させることを徹底した。その結果、ようやくミドリにも、使用人として幾ばくかの自覚が芽生えてきた。
「ざっと、こんなところね。お嬢様のところへも連れて行きたいところだけど、それは、もう少しあとにしましょう」
「はい。あとで、暖炉のある部屋へ行く時に素通りしたところへ行くのですね?」
「その通り。それでは、その時になったら呼びに来るから、それまで休んでなさい」
「はい。ありがとうございます」
エリは、ホッと一息つき、階下へと通じる梯子を下りて行く。ミドリは、その姿が開口部から見えなくなったのを確認すると、ベッドへ駆け寄って腰を下ろし、そのまま上半身を仰向けに倒す。
「ふぅ~。思ったより広くて、覚えるのが大変だわ」
そのまま脱力していたミドリであったが、ギイッギイッと階下から誰かが上ってくる足音が聞こえてきたため、急いで半身を起こし、やや強張った表情で梯子がある開口部の方へ注目する。
そのミドリの視線の先に現れたのは、青丹色の髪の女ではなく、銀色の髪の青年だった。
「よっ、ミドリちゃん」
「なんだ、アオイさんか」
「ヘヘッ。エリちゃんだと思ったか。どうだい、大当たりだろう?」
アオイが得意気な顔で図星を指すと、ミドリはクスッと笑みをこぼし、拳で腰を浮かせてヘッドボードの方へ身体をずらす。
すると、アオイは、その意図を瞬時に汲み取り、ミドリの横に腰を下ろす。
「殿方とふたりきりになっちゃダメって、おうちの人に教わらなかったのかい、ミドリちゃん?」
「そういうアオイさんは、姫君の部屋にみだりに入ってはいけないと、学校で習わなかったのかしら?」
「余裕だね。でも油断してると、夜中に食べられちゃうよ。狼だぞ、ガオーって」
両手の指を鉤爪のように曲げ、まったく脅かす気がない威嚇をするアオイに対し、ミドリは箸が転んだかのように、両手で腹を抱えて笑う。
「アハハ。ぜんぜん迫力が無いわよ、アオイさん」
「手厳しいな、ミドリちゃんは。――まぁ、夜でも満月でなきゃ大丈夫だろうけど……」
「ん? 最後、なんて言ったの?」
「いやいや、何でもない。独り言さ」
アオイは、ある懸念から曇った表情を、一瞬でパッと晴らし、すぐに人好きのする笑顔に戻る。
ミドリは、疑問に思いながらも深追いしなかった。彼女が、この時にアオイが懸念したことについて知ることになるのは、まだまだ先の話である。




