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近いうちに、と言いながら、年末年始の慌ただしい時期を避け、次いで雪深い白銀の如月をやり過ごしてるうちに、季節は、梅に目白がとまり、鶯がケキョケキョと不器用に鳴き始める、うららかな弥生を迎えた。
上野にある西洋料理店で、ミドリとミドリの母、それから、青年とその父がテーブルを囲んでいる。窓の外には、不忍池が見える。
ミドリは清楚でシンプルなデザインのドレス姿で、青年は写真と同じく黒地に金ボタンの詰襟姿という洋装なのに対し、ミドリの母は渋い地模様の訪問着で、青年の父は紋付き袴と、どちらも和装である。
「ほぉ、女学校を出てらっしゃるとは、珍しいですな。そう思わんか?」
「そうですね」
「主人の方針だったんですけど、行かせて良かったのやら、どうなのやら。ほら、あんたからも何か言いなさいよ」
「えっ? えぇ、まぁ」
お見合いでは、よくある話だが、初対面であり、親の前であり、相手は年頃の異性ということもあって、子世代の会話は、なかなか始まらない。
こうなると、例によって親世代からは、お決まりの常套句が出てくる。
「そう照れていては、話が進まんだろう。ちょいと中座して、そこの池の周りでも散歩して来なさい」
「そうね。若いふたりで楽しんでらっしゃい」
こうなっては、ミドリと青年は席を外さざるを得ない。
「では、行きましょうか」
「はい」
青年とミドリはイスから立ち上がり、微妙に距離を空けながら、店の外へと出掛けていった。
「すみませんね。倅の奴、どうも、緊張してるようで。いつもは、もっと遠慮なしに喋る質なんだがねぇ」
「こちらこそ、ゴメンナサイね。慣れない場所だから、あがっちゃってるみたいで」
「お互いさまですな。何か食べますか?」
「そうねぇ、軽くいただこうかしら」
ミドリの母の返事を聞いてすぐに、青年の父はタクシーでも呼ぶように片手を上げ、給仕係を呼びつけた。
これに前後して、藤村は北鎌倉へと向かっていたのだが、その話は、次に持ち越そう。




